やきもち涼花
家に帰ると涼花がいつも通り迎えてくれる。
「ただいま」
扉を閉めながら声をかける。けれど、返事がない。いつもなら「おかえり」って笑顔で迎えてくれるんだけどな。そう思いながら涼花の方に顔を向ける。少し違和感を覚えながら、涼花の方に目を向けた。
涼花は少し何かを考え込むように下を向いていた。やがて顔を上げると、真剣な眼差しで俺を見つめてくる。
「......嬉しそうだけど、何かあったの?」
いつも通りの優しい声。どんな俺でも受け入れてくれるそんな笑顔の筈なのに、今日は少し陰っているように思える...気のせいかな。少し違和感を感じながらも返答する。
「うん。実は幼稚園の頃一緒だった望未がこっちに帰ってきたんだ」
そう話しているうちに、自分でもちょっと浮かれてるのがわかる。まさかまた会えるなんて思ってなかったから、嬉しくて言葉にする度に実感する。それに、あの頃よりずっと綺麗になっていて――正直、少し見惚れていた。
まぁ、綺麗な女性と一緒にいて嬉しくならない、いやテンションが上がらない男子はいないだろう。涼花の方に目をやると少しだけ険しい表情をしていた。すぐに我に返ったように、こちらを見つめてくる。
「望未ちゃんって、もしかして……幼稚園の頃に私もあっているよね?」
「やっぱり覚えてたか」
「それは覚えてるよ。(だって、望未ちゃんはお兄ちゃんのことが好きだから...)」
涼花も彼女のことを覚えてくれて嬉しい。高校に上がった時に知り合いがいるってだけで安心するんじゃないかと思う。それに千夏達だって家に来るのだから、顔合わせをする機会があるのはいいことだろう。
結局大翔の方は来れないという連絡があったため、男子は俺一人なんだけどな...少しだけ気後れしている自分も確かにいる。涼花の方を見やると、少し考え込むように黙り込んでいる。最近、こんなふうに思いつめた顔をすることが増えた気がする。
何か悩みがあるのなら、力になって上げたい。そう思っていると、涼花はそっと顔を近づけながら問いかけてきた。
「どうしたの?」
心配そうにこちらを見つめてくる。互いに、困っているときは支え合おうとするんだな――そう気づいた瞬間、なんだか嬉しくなって、思わず笑ってしまった。そんな俺を涼花は不思議そうに見ていて、少し悪い気がする。
「涼花が悩んでるように見えたからさ。何か俺にできることがあればと思っったんだ。でも......同じように心配してくれて、ちょっと嬉しい」
「ふふっ...ホントだね。私もお兄ちゃんに心配されてうれしいよ。いつもありがとう...でも今の悩み事は自分で解決しないといけないことだから...お兄ちゃんには頼れないかな」
少し悲しそうに笑う涼花。それでも、いざとなっ時には力になれるようにしよう。それだけは譲れない。そんな俺の気持ちを察したのか、涼花はやわらかな表情でこちらを見つめてきた。きっと、全部お見通しなんだろうな。
「それで、お兄ちゃんは私に何か言いたいことがあるんじゃないの?」
流石だな。そう思いながら口を開く。
「相談があるんだ。望未が今週この家に遊びに来るんだけど、涼花も会えたりしないか?」
「もちろんいいよ!日程とかは決まっているの?」
「一応、今週の土曜あたりを考えている」
「その日なら問題ないよ」
「ありがとう」
嬉しそうに話す彼女もまた、涼花と会えることを楽しみにしているんだろう。俺だって会えるのは楽しみにしている。そのはずなのに、少しソワソワしているのは、彼女達が来ることが確定したからで。何より、さっき意識していた望未が家に来るという事を改めて実感したからだった。
「それで、望未ちゃん以外にも来るの?」
一瞬、ムスッとしたような表情を見せた気がしたが、すぐにいつもの笑顔に戻る。
「そうだな……望未以外には、千夏と雫、それにこの前来た桜も来るかな」
「なら、何かおもてなししたほうがいいかな」
「いや、それは大丈夫だろう」
安心させるように告げるが、涼花の表情からはできるだけ楽しんでほしいというような想いを感じる。
「ふふっ、よくわかってるね、お兄ちゃん」
いたずらっぽく笑う涼花の姿が、やけに愛らしく見える。思わず目が離せなくなって、ふと気づく。
――俺、いったいどんな顔で涼花を見ているんだろう?そんなことが、なぜか気になって仕方なかった。




