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クラスメイトとの関係

一通りの勉強が終わると、会話の流れは自然と学校の話題に移っていき、やがて“恋バナ”へと変わっていった。


「入学式で……可愛い子、いた?」


勉強の延長みたいな静かな空気の中で、その一言だけがやけに鮮明だった。いつもよりも低めの声、けれど口元は無邪気に笑っている。けど――目だけが笑っていなかった。


視線は、迷いも逃げも許さないように、真っすぐ俺を射抜いてくる。どこか真に迫るような緊張感を感じるが、多分の気のせいだろうと思い、俺は今日出会った人たちの顔を思い浮かべる。


真っ先に浮かんだのは、俺の隣の席に座った中野さんの姿だった。そしてもう一人は教室の注目を一身に集めていた夢咲さんである。


「……まあ、二人ほど印象に残ったかな」


言い終えた瞬間、義妹のまぶたがピクリと揺れた気がした。


「ふーん。どういう子?」


彼女は首をかしげて訊いてくる。語調は軽いが、その目はやっぱり本気だった。俺は少し戸惑いながらも、言葉を選ぶ。


「一人は黒髪で、大和撫子って感じかな。優美で知的かつ芯の強さを感じたな」


涼花がゆっくりと体を俺の方へ向ける。わざとらしいくらいの笑顔で、言った。


「可愛かったんでしょ?」


何故わかったのかと疑問に思いつつ、興味ない風に答える。


「まぁ、な」


「へぇ〜、そっか、、、ちなみに私とどっちが可愛い?」


「涼花だよ」


俺は義妹の目をしっかりと見つめて断言する。確かに夢咲さんは可愛いが義妹ほどではない。パッチリとした目、腰まで伸びたサラサラな銀髪、小さくて左右整った顔。どれをとっても義妹の方が勝っている。贔屓目ではなく!


「......そっか」


涼花はゆっくりと、けれどどこか嬉しそうに微笑んだ。その姿に思わず見惚れてしまう。真面目な表情をしようとして、また微笑みを浮かべる姿を見て、単純に嬉しいと感じる。けれど一瞬で真顔になり聞いてくる。


「それで、もう一人はどんな子なの?」


二人と言った事が不味かったのだろうか、少しだけ問い詰めるような目をしている。


「えっと...文学少女って感じの子かな。席が隣で、初めて話しかけたんだけど……」


「小説、読んでたの?」


「うん。文庫本を手にしてた」


「お兄ちゃんも小説好きだもんね。趣味が合いそうじゃん」


「……まあ、話していて楽しかったな」


俺がぽつりと笑うと、涼花の目が細くなる。


(私だって、本をたくさん読むのに)


彼女の唇が小さく動いた気がした。でも、その声は聞こえなかった。義妹はこちらに顔を向けて聞いてくる。


「ふうん。似た者同士って感じ?」


「うーん、どうだろうな。確かに、俺と似てる部分もあったけど……どこか涼花に似てる感じがした」


「……え?」


「少しだけ自信がなさそうなところとか。でも、“必要だ”って思ったものには妥協しないところとか。強いっていうより、芯がある感じ」


「へえ……お兄ちゃんから見ると、私ってそんなふうに映ってたんだ」


少しだけ口元がにやけている。


「そうだな。だけど、涼花は周りを見て支える優しさを持っている」


「男子に対しては少し冷たいけどね」


「まぁ、甘やかすとすぐ調子に乗るからそれはOK」


思わず苦笑する俺に、涼花もつられて笑う。その笑顔が、妙に可愛くて、目を逸らすタイミングを失う。彼女は笑ったまま、俺のほうをちらっと見て、こう言った。


「その子の名前は聞いたの?」


「もちろん、聞いたよ」


「その感じだと、最初の子の名前も知っていそうだね」


「そうだな。もう一人は学年主席だから覚えている」


「二人の名前はなんていうの?」


流石に教えていいか悩むが、来年涼花は入学するだろうし、いずれクラスメイトに会う機会もあると思い伝える。


「主席の方が夢咲さん。隣の席が中野さんだよ」


さらっと言ったその名前を、涼花はまるで“覚えるように”繰り返し呟いていた。その声音はやけに静かで――記憶の奥深くに刻み込むようだった。


「……で、涼花の方はどうだった? 新学期」


話題を切り替えると、彼女は少しだけ間を置いて、表情を整えて答えた。


「私は変わりないよ。クラス替えもなかったし」


「そうか。受験生って配慮でクラスそのままなんだよな」


「うん。……でも、それが良かったのかどうかは、結局これからの過ごし方次第なんだけどね」


そう言って笑った顔には、ほんのわずかな陰が差していた。もしかすると、また誰かに――告白でもされたのかもしれない。俺の表情から何かを察したのだろう。


「ちゃんと対処してるから。お兄ちゃんが気にすることじゃないよ」


涼花はそう言って、俺の目をじっと見た。その視線はまるで、“私を見て”と訴えてくるようだった。


「そうだな」


俺は笑顔でそう告げるのだった。


夜になり、布団に潜り込んで、目を閉じる。だけど、今日見たあの二人の少女の顔と、隣で小さく寝息を立てる涼花の姿が、頭の中で交差して、落ち着かない。


静かな夜のはずなのに、心だけが騒がしい。ーー俺は、いったい何を望んでるんだろう。そんな事を考えながら眠りについた。

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