ツインアイドル?
教室に入ってきた生徒に目をやる。どこか既視感があるような、そう思った瞬間に理解した。
「望未?」
俺は彼女の名前を呼んでいた。驚いたようでいて、嬉しそうにこちらを見つめてくる。笑った表情が凄い自然でいて、何より不思議な引力があった。つい視線をやってしまうようなそんな引力が。
「久しぶりだね、連君」
懐かしげに、過去の想いに浸るように望未は笑っていた。けれど、どこか寂しそうに感じるのは気のせいだろうか...?
「なんだ、お前ら知り合いだったのか?」
担任の先生の問いに、俺は惚けながら頷いていた。以前にあった彼女よりも堂々とした立ち姿。当時は可愛らしい女の子という印象だったが、今は華やかな女性という感じだった。
「実は、幼稚園の頃に一緒だったんです。あの頃は引っ込み思案って感じの印象だったんですけどね...」
「覚えてくれたんだね、嬉しい」
揶揄ったつもりで言ったそれは、予想とは反してお気に入りのぬいぐるみを抱きしめるかのように、優し気な笑みを浮かべている。男子生徒の視線が俺に突き刺さっているのは気のせいだろうか。
にしても印象が変わりすぎている。あの頃も可愛かったが今は不思議と視線がいってしまう。立ち姿がピシッとしていて綺麗んだろう。一つ一つの仕草が可愛らしかった。
「なるほどな。それなら、ちょうどよかったよ、後で言おうと思ってたがお前には転校生の勉強を見てもらう」
「……勉強、ですか?」
この学校に編入してくるぐらいだから問題はないだろうと思っているとその答えを先生が告げる。
「まあ、学力的な問題というよりは、授業の進行スピードの関係だな。こちらに引っ越してきたばかりってことでどうしても空白の期間があるからな」
なるほど。だが先生が告げた言葉に教室の空気が一瞬だけ変わった。彼女と二人きりで勉強という部分に羨ましさを感じているんだろう。
「先生、待ってください」
後方の席から、別の男子生徒が立ち上がった。
「それじゃ連にばかり負担がいきますよ。どうせなら、僕が――」
「いや、お前の学力じゃ無理だろう」
「先生、何を根拠に……!」
「入試の点数、成績、その他もろもろ」
悔しそうに俺の見つめる彼は何をそこまで必死になっているのだろうか?まぁ、確かに望未は可愛いからこそ必死になる気持ちを少しは理解できる。まぁ、当人にはバレてるとは思うんだけど...それに、俺も少し意識してしまっている。だから、彼に白けた視線を送るのをやめてあげてください、女子生徒の皆さん。
そんな視線とは違って、望未は優し気な視線で見つめている。なんか謎の包容力があるんだけど、この7年間で何があったんだろうな...見つめた視線の先には、手入れが行き届いたピンク色の髪。目元はぱっちりとしており、優し気な笑みを常に浮かべていた。服装も校則の範囲内ではあるがオシャレしているのが分かる。
件の男子生徒はまだあきらめていないのか、クラスを見渡して有明に視線を止める。
「……じゃあ、有明でもいいじゃないですか」
その生徒はふてくされたように言う。確かに彼女持ちである有明なら万が一のことがないということだろうか?彼女にベタ惚れしている有明なら確かに望未には靡かないだろう。そんな生徒の希望を有明はバッサリと切り捨てる。
「僕、塾もあるので」
彼女を大事にしているからこそ、女性と二人きりになる可能性を徹底的に排除するのが有明という奴だ。そこら辺のリスク管理は徹底している。何より俺を見つめる視線で理解する「こういう面倒ごとは連君に譲ります」そんな口ぶりが聞こえそうな表情で俺の方を見つめている。
テストで負けたことをまだ根に持っているようだな...
「それに連君の方が適任です。だって学年1位なんですから」
その言葉にクラスの誰も反論はできなかった。進学校というのもあり、学力が高い方が若干偉いという風潮があるのを上手く利用している。だが、クラスメイトの言い分も分かるので、スケットを呼ぶ。
「確かに俺が適任だな。ただ、他に女性の友人もいた方がいいし雫も手伝ってくれないかな?」
「私ですか?いいですけれど」
その一言で幾分かクラスメイトの視線が和らぐ。正直すぎか!!思わず心の中でツッコむ。ここで桜を指名していたらもっと揉めていたはずだ。だから悲しそうな視線で俺の方を見つめないでください。事態が収拾つかなくなったことを察したのだろう。担任が手を叩いて進める。
「転入生の自己紹介が押しているから、次に進むぞ」
お陰で、皆の視線が望未に集まる。先程よりも表情が少し陰った気がしたが気のせいだろう。今は先程のように優し気な笑みを浮かべていた。もしかして、手紙を返せていなかった点についてまだ罪悪感を感じていたりするんだろうか...
そう考えている間にも、望未は黒板に自分の名前を書き込んでいた。そうして、満面の笑みで自己紹介を開始する。
「春風望未といいます。出身はこちらで、小学生から関西に10年ほどいました。可愛いものが好きなので、そう言ったお店を教えてくれると嬉しいです」
ぺこりと彼女が挨拶をしていると、女子の数人がざわざわしていた。授業中なのに堂々とスマホを取り出しているのはある意味先生への挑戦だと思っているが、先生もそれを止める様子がない。頭にクエッションマークを浮かべていると
「やっぱり、はるのんだ!!」
そういって大きな声で宣言する。ビックリしつつ、俺は疑問を口にしていた。
「はるのんってのは何なんだ?」
何で知らないのという責めた視線を向けられるが、なんで責められているのか分からない。
「幼馴染なんだよね?」
「...そうだけど、連絡を取ったのなんて去年ぶりだぞ?」
そう宣言すると、俺を見つめた後にジーっと望未を見つめていた。にやりと笑うと納得したように頷いていた。
「はるのんってのは、アイドルHaruNoの愛称なんだよ。関西では有名なアイドルだよ」
「へぇ~、それで東雲さんは何で知ってるんだ?」
「かわいい子を探すのが趣味だから」
「わかります!!」
望未がのってくるのが意外だったのか、俺も東雲さんも彼女を見つめいた、
「あとで、語り合いましょう!!」
「えっ...うん!!」
いやテンション上がりすぎだろう。そんなことを思いつつも、二人の様子を見つめいた。早くもクラスメイトの心を掴んでいるのは流石ってところだろう。
「ほらそこ、携帯しまって授業を開始するぞ」
「そうですね」
「席は一番後ろっていいたいが。連が後ろにいってくれるか?」
「まぁ、いいですよ」
先生が言いたいことは分かる俺の隣の席が東雲さんである。彼女の隣にすることで仲良くなるきっかけを作るためだろう。何よりも、俺と距離を遠ざけることでヘイトを少しでも下げられるってわけか。
「ごめんね、連君」
「大丈夫だよ、俺は親友の大翔と隣になれて嬉しいしな」
「だなっ」
そう大翔も返事をして、そちらにもペコリとお辞儀をしていた。一つ一つの所作が洗練されているからこそみんなの目を引く。これからの学園生活にまた一波乱が起きそうだなんと感じた。
***
「にしても連にあんなにカワイイ知り合いがいるなんてね」
揶揄うのが嬉しいのかニヤニヤした目で千夏が俺の方を見ていた。
「まぁね」
「照れてる」
「照れるだろ、普通」
(普段の私相手には、照れたことないのに...)
そんな桜のつぶやきが聞こえる。桜も可愛いとは思うんだけど、ほら遠い存在というか、何かを口に出すと墓穴を掘りそうなので、黙っておく。
あっちから聞こえる声は楽しそうに笑っている。ふと、こちらの方を見て頷く東雲さんの姿があった。
「桜ちゃんこっちに来てくれる?」
「えっと、私?いいけれど」
そう言って彼女の方へと小走りで駆け寄る。そして何やらポーズを指名しているようで。
「うん。ツインアイドルだ!!」
確かに二人はお似合いだと思うけれど、盛り上がりすぎじゃないだろうか。男子、勝手に写真を取ろうとしない。まぁ俺が止める間もなく、女子からの鋭い視線があるので、撮ることは叶わないんだけど...
確かにはたから見ても二人は似合っている。片方はクールな印象を抱かせて、もう片方は優し気な印象だ。対比しているからこそ、醸し出され良さがある。
「連君はどう思ってるのーー」
遠くからそんな大声を出さなくてもいいんだけどな...東雲さんの大きな声に反して俺は冷静に返す。
「二人とも可愛いって思っているけれど」
「...ありがとう」
「ありがとね」
桜は照れたように俯きながら、逆に言われ慣れている望未はあっさりした感じだった。男子の視線がキッと睨んでくるので、俺に振るのはやめてほしい...
まぁ、10分休憩なんてものはあっという間に立つもので、次の国語教師が入ってくると素早く席に着いた。一番後ろの席から彼女の後姿を見つめる。
自信なさそうにしていた彼女が、今は姿勢を正して堂々としている。きっと関西の方で良縁に恵まれたんだろうな...そのことを嬉しく感じるのだった。




