クラスメイト
教室にクラスメイトが入ってくる。いつも通りの日常が過ぎていく。桜は教室でいつも通り一人でいる。やっぱりいつも通りは難しいか...そう思いながら見つめる。
既に半数以上のクラスメイトは登校をしている。そこに白峰さん達が入ってくる。彼女はどんな反応をするだろうか...そう思っていると、桜が立ち上がった。そうして、一人の生徒の前に立って頭を下げる。
「鈴木さん、ごめんなさい」
そう言われた生徒は驚きのあまり立ち止まってします。その生徒は最初に桜に声を掛けた生徒で、拒絶した生徒だった。そっか、最初から決めていたんだな。
「えっと、何の話ですか?」
少し怯えたように桜のことを見つめている。誰だって拒絶された過去をすぐに忘れることは出来ないだろう。
「話しかけてくれたのに酷い態度を取ってごめんなさい」
鈴木さんが狼狽しているところで他の生徒が口を挟む。
「へぇ~、今さらになって誤ってくるの虫がいいんじゃない?」
「誠意が足りてないと思うけど」
彼女の普段の態度に腹が立っている人物は少なからずいて。謝っているこの状況は非難するのに最も最適な場面ってわけか。もちろん、それを咎める人は誰もいない。大半のクラスメイトは興味なさそうにしていて、残りは当然だよねと鈴木さんに同情をしている。
桜もそれは感じているのだろう。だから、膝をついて、低姿勢の形を取ろうとする。自分にできるのは行動で示すしかないと知っているから。その先の行動は分かる。だからこそ、俺が止めないといけない。そう口を開こうとして...
「夢咲さんの気持ちはわかりました」
そういって片膝をついた所で桜の体に触れる。その先の行動を止めるように。
「はっきり言ってまだ心の整理はできないです。でも、気持ちは伝わります」
そう優しい笑顔で答える。気持ちの整理がついていないことは、彼女の手が少し震えていることからも明白だった。でも、桜の目をしっかりと見つめる。
「友人と呼べるかも分からないけど、話をしてみませんか?」
「うん。うん。ありがとう」
そうした自然な笑みに皆が見惚れていた。ずるいな。そう感じてしまうほどに皆の視線を集める。自然体で笑う彼女は、どこか幼い子供を連想させた。取り繕うことをしらないその無邪気さに心をつい許しまいたくなる。
「まぁ、当人が許すっていうならこれ以上は追求しないけど、今までのことが無くなるわけじゃないから」
白峰さんが冷静に言い放ち皆が我に返った。
「分かってる」
そう見つめ返す桜の目が真剣だったからだろう。口元に笑みを浮かべて、その場を去っていった。その彼女を追うように鈴木さんもその友達も不満そうについていく。
「いいの、彩花。さんざんコケにされたのに。それに鈴木さんだって」
「私自身はコケにされてないし、むしろ突っかかってきたのは連だしね」
そう言って俺のことを見つめる。それに対して自分のせいだと思う桜が動揺しているのは少し面白いな。
「確かにそれは一理あるな」
「まぁ、クラス委員長としての力量がまだ足りてないですね」
「いや、推薦したのお前らじゃん。どっちの味方なの」
大翔と有明は顔を見つめあって答える。
「正しい方ですけど」
「そうですね、俺が悪いですね」
その反応に白峰さんの友達は何もいえなくなる。大々的に話す中で白峰さんが反応しないからこそ、自分達では立ち向かえない。白峰さんというリーダーに逆らうほど彼女達は考えなしではないということだろう。
「いえ、私が悪いです。皆さん、ごめんなさい」
そう言って、桜は謝る。真摯に向き合っているのが分かるほど、頭を下げた姿は綺麗で。でもどこか小さかった。誰かがいってたっけ、本気で向き合えば気持ちは伝わると。でも、向き合う気持ちがない人たちにはそれが伝わらない。そう言った空気は作っていくしかないと。
「俺もごめん。クラスの雰囲気が悪くなったのに、俺は様子見をしていた」
気持ちを伝えるには行動しかないと、俺も深く頭を下げる。
「なら、僕も謝らないとですね。たきつけた部分は否めないですから」
有明まで頭を下げる。
「じゃあ、俺もごめん」
「いや、お前は違うだろ」
大翔の行動に誰かがツッコんだ。俺自身も思ったその疑問に同じことを思っていた生徒も多いようで、頷いていた。
「というか俺達はそんな気にしてないって...それに球技祭もテストも何だかんだいって盛り上がったじゃん」
「確かに、何かが掛かっている分、熱かったよね」
「まぁ、夢咲さんも反省しているようだしいいんじゃねーの」
その言葉を皮切りに、どこかクラスメイトが彼女を受け入れているような雰囲気になる。バツが悪くなったのか、先程突っかかってきた生徒も、呆れたようにため息を吐いていた。
「皆さんごめんなさい。それと、ありがとうございます」
ふわりと笑う彼女に、一人の生徒が近づく。
「ということは私も話しかけていいってことですか?」
「えっ...うん。もちろん」
まさか、クラスメイトから声を掛けてもらえるなんて想像していなかったのだろう。驚きながらも嬉しそうに、微笑む。
「えっ...かわいい」
「そっ...そんなことないよ」
恥ずかしそうにする桜の反応が新鮮でつい言葉が漏れているようだった。
「夢咲さんって好きな食べ物とかありますか?」
「カレーかな?」
「じゃあ、、、」
それからの彼女は皆に囲まれて質問攻めにあっていた。一つ一つの反応が、純粋で素直に答えてくれるからだろう。みんなが質問攻めにしていた。
「ほら、大翔達もいってこいよ」
「お前はいいのか、連」
「いいよ俺はどうせ、後で話せるし。皆のストッパーになってくれ」
「分かった」
暴走した男子が変な質問をしそうで怖いからな。そう言った時に大翔が止めてくれるのは助かる。
「あなたが見たかった光景はこれかしら?」
そう言いながら白峰さんが俺の元へと近づいてくる。隣に立って桜の方を一緒に見つめていた。
「彼女が囲まれるのは想定外だったな。それにあんなに真摯に謝ることも。もっとイベントを重ねるとか、桜が勉強を教えるとか、そういった接点を考えていたけどね...」
「名前で呼ぶなんて随分距離が縮まったのね」
「まぁな」
俺のことをジッと見つめながら、不思議そうに見つめる。
「でも、不思議ね。あなたは本当に桜のことを好きだって気持ちを感じない」
「それは、そうだろ。好意を抱いているわけじゃないし」
「なら、何のためにここまでしたの」
打算があったのは分かっているとそういう目で俺を見つめてくる。
「前に言ったように義妹のためだよ」
「建前だと思っていたけど、本当だったのね」
彼女はやはり人を見る目があるのだと思う。相手が本当のことを言っているのか、嘘をついているのか直観的に理解していそうだった。
「逆に聞きたいんだけど、どうして桜の味方をしていたんだ?」
そう問いかけると俺のことを目を見開いて見つめる。どこか警戒したように、少し距離を取って観察されているのが分かる。
「どうしてそう思ったの?」
「もっと追い詰める方法はいくらでもあるのに、そうしなかった。どちらかというと皆の意見を君がまとめて、それ以上の攻撃がないように防波堤の役割をしているように感じた、からかな」
最低限に抑える為に,,,そう考える思考が似ているからだろうか。ついそう考えてしまう。
「ふふっ,,,君もしっかりと相手を見るタイプだったか」
楽し気に笑う彼女は、少しだけ幼く見えて、でも本当の彼女を見た気がした。
「単純だよ。中学時代にいつも一人だった彼女を私は守る力がなかった。気づいても何もできなかった。だから、一人になれる場所は作ってあげたいと思った」
俺のことを見つめながこちらを見る。俺の奥にある何かを観察するように瞳を見つめて、ふっと微笑んだ。
「でも、私に立ち向かう人がいて、相手を思いやる強さも持っている。だから、賭けたくなった」
「その賭けにまんまと乗せられたわけだ。まぁ、信用されたのは嬉しいけれど」
「そこまでは言ってないかな。一つの可能性を見ただけ」
白峰さんは楽しそうに笑っていた。
「それに、クラスは楽しい方がいいじゃん」
ニコッと割らす彼女の表情につい目が行ってしまう。金髪の髪にキラキラと太陽の光が反射して、眩しかった。あぁ、綺麗だなと素直に思って。心臓がドキドキ言っているのを感じる。
「あまりあなたと話していると、変に勘繰られるからもういくわ」
「あぁ、それと、ありがとう」
そう言って俺は頭を下げる。それを他の生徒がどうとらえるかは分からない。でも、白峰さんの立場がそれで上がればいいとそう思った。
教室の端から、クラス全体を眺める。夢咲さんを中心にクラスメイトが笑いあっていて、ホームルーム前とは思えないほどの活気がある。他クラスの生徒も何があったのかと一度中を確認するほど盛り上がっている。
ふと、やわらかくて温かみを帯びた春の風を感じる。ほんのり甘い花や土の匂いが始まりの季節を感じさせた。この空気間がきっと俺は好きなんだろうな。教室の隅で一人浸っていると。
「連もこっちきなよ」
「そうだぞ、連」
クラスメイトの声が掛かって俺も輪にはいっていく。体育祭に文化祭。これか過ごすみんなとの学園生活を楽しみに感じた。




