緊張
「せっかくだから義妹を紹介したいんだけど、いいか?」
「そうだよね、気を使わせちゃったよね」
悪いことをしたと思っているんだろう。少し下を見つめて落ち込んでいるように見える。だからこそ、俺は出来るだけ明るく言う。
「気にしなくて大丈夫だよ。義妹のことだから殆どのことを察しているし、明日の予行練習にちょうどいい」
「妹さんで試すのは悪い気がするけど」
「大丈夫、大丈夫」
そう言いながらその場を離れて義妹の部屋へと向かう。コンコンとノックをすると扉が開く。半分空いたドアからちょこんと顔を出してこちらを見ている。
「もう終わったの、お兄ちゃん?」
「あぁ、多分納得はしてくれたと思う」
「そう、良かったね」
義妹が心の底から笑顔で笑いかけてくれる。ホントに癒されなると思っていると。俺の心を読んだように一言投げかけてくる。
「私を呼びに来たのって、上手くいったことに安心して冷静になった結果、二人きりって状況に意識がいってるからでしょ?」
バレている。俺はそれに乾いた笑みを浮かべることしかできなかった。そうだよ。その通りだよ!だって、夢咲さんだよ。学校で一番といわれる美少女と二人きりの空間は流石に緊張するよ。男子にだれたら、どれだけ嫉妬されるかと恐ろしさがある。
「義妹に隠し事はできないな」
「そうだよ。だってずっと一緒に育ってきたんだもん。だからお兄ちゃんはもっと私に頼っていいんだよ」
「もう十分すぎるくらい頼らせてもらってるよ」
「じゃあ、寄りかかっていいよ」
「ふふ、そうだな、依存しないくらいには、ね」
「うん」
涼花が義妹と本当に良かったと思った。義妹の笑顔を見るたびに力をもらっている。俺が前を向けているのは涼花のおかげだっていつもそう思っている。
***
涼花が下に降りてきたことで夢咲さんと対峙した形になる。夢咲さんは俺の義妹に見惚れているようで、ボーっと涼花を見つめている。流石に自然と自己紹介は難しいかと思って俺が声を掛けた。
「それじゃあ、二人とも自己紹介から始めようか」
「りょーかい」
そう言って涼花から自己紹介が始まる。
「私は鏡 涼花と申します。最近はテラリウムを見るのにはまっています。勉強が得意なので一緒にできると嬉しいかな」
そういって涼花はぺこりと頭を下げる。夢咲さんは若干緊張しているようで、なんて返せばいいのかとあたふたしているように見えた。そのぎこちなさがかわいいと感じる。夢咲さんを見つめていると、なんのフォローもしない俺を責めるように、義妹とジッと見つめてくる。
「ほら、今度は夢咲さんの番だよ」
「えっと、そうですよね。私は夢咲 桜といいます。私も勉強は得意なほうで、一緒にできると嬉しいです」
これであっているかなと子犬のように俺に伺ってくる。可愛いかよ。
「うん、自己紹介はこれくらいでいいよね。後は二人でゲームでもして親交を深めてよ」
「それはいいけど、お兄ちゃんはどうするの?」
「ご飯を作るけど」
「なら、私がやるよ。夢咲さんも初対面の人が相手だと緊張するでしょ」
「それは、そうだけど」
俺もその可能性については重々承知だ。それでも義妹なら分かっているだろと見つめると、にやりと笑った。
「わかった。お兄ちゃん、夢咲さんと二人きりの状態に緊張しているんでしょ」
何で言った!?そう言って驚いた目線で義妹の方を向いてしまう。その動揺が夢咲さんにも伝わったようで、彼女も緊張しているのか頬が若干赤い。ここで何も言わないのも変か...
「そうだよ、緊張するでしょ普通に...だって、女子を家に上げたことなんて初めてだし」
「そう...なの?」
純粋に疑問を持っているように、首を傾げてこちらを見つめてくる。
「それはそうでしょ。だって普段生活してる雰囲気を見られるの恥ずかしいし」
「...そっか」
若干嬉しそうにしているのは気のせいだろうか?いやここで変な勘違いをするのはいけないと自分を戒める。それで後悔をするのは自分だと。普段は男女の色恋にそこまで敏感じゃないはずだ。いやガッツいてないよね?自分が変なテンションになっているのですら嫌だな...と感じる。
「それはそうと、ご飯は結局どうするの?」
「良ければ、私も手伝っていい?」
「うん、もちろんだよ!!」
そう涼花が返答したことで3人でご飯を作ることになった。幸いなことに我が家のキッチンスペースはかなり広い。おかげでぎゅうぎゅうになることがないから感謝だ。
でも、緊張はするので俺の隣には義妹に立ってもらい、その奥に夢咲さんが来るようにしてもらっている。
「それで、今日は何を作るの?」
「にくじゃがとかどうだ。カレーの材料が余っているし」
「いいんじゃない、夢咲さんはどう?」
「私もいいと思います」
「じゃあ、決定」
そう言って俺達は調理を開始してく。作業を分担して、ふたりには材料の下ごしらえをしてもらい。自分は調味料や調理器具を用意する。
同世代の女性と義妹。二人と料理をしているのは不思議な感覚だった。これって夢咲さんが彼女で家族的な付き合い...とよぎった自分を想像で殴る。変な妄想をするんじゃないと。
俺は料理に意識を集中させ、何とか平常心で乗り切ることに成功した。ついつい二人に視線が言ってしまったぜ。材料は焦がすことなく、アクもしっかりと除いた。
調味料を加えたことで一気に野菜や肉のいい匂いが部屋に充満する。
「美味しそうな匂いですね」
「ね~、直ぐに食べたくなるよね」
「はい」
そんな二人のやり取りを見ていると微笑んでしまう。本来の夢咲さんの性格は素直なんだろうな。勝負の内容を葉後にしたっていいのに真剣に受け止めていたし、目的の為に毎日努力もできる子だもんな。
まぁ、義妹も毎日コツコツ継続できるタイプで、周りに気を使える超絶いい子なんだけどね。なんとなく張り合いたくなってしまう。やはり兄というのは無条件で義妹の肩を持ついきものだと理解した。
そんなことを考えていると、素材にきちんと熱が通ったことが分かる時間帯になっていた。
「あとは10分ほど置くだけだから、食器でも用意しようか」
「そうだね...夢咲さんのコップはどうしようか」
「お母さんのでいいんじゃない?」
「確かにそれしかないよな」
涼花専用のコップは1個しかないし、他は共同で使っているので正確に誰がつかったか分からない。
「夢咲さんもそれでいいか?」
「うん、大丈夫だよ」
頷いてくれたのを確認して、食器にご飯を盛り付ける。盛り付けた皿は夢咲さんと義妹が並べてくれてあっという間にご飯の準備ができた。
「それじゃあ、いただきます」
「「いただきます」」
俺の合図と共に皆がご飯を食べ始める。
「美味しい」
夢咲さんは一口食べると、顔をほころばせてそう言った。本来の彼女は感情表現が豊かなのかもしれないな。義妹との自己紹介であたふたして、美味しいものを食べたら笑う。強くて、しっかり者。そんなイメージを俺自身も当てはめていたのかもな。
ふっ、、、他に最善の方法があったかどうかは分からない。けれど、彼女の笑顔を見て思うのは少しでも手助けになればいい。そんな感情だった。
「お兄ちゃん、何にやけているの?」
「えっ、、そんなに気持ち悪い笑みを浮かべていた」
「う~ん、どちらかというと幸せそうな感じかな?」
気持ち悪いとか言われたらどうしようかと思ったよ。変に下心があると思われて距離取られるのは嫌だし。でも、今の俺の素直な気持ちを伝えるなら。
「皆で楽しく食べるご飯はやっぱりおいしいなって、改めて感じていた」
「なにそれ」
義妹はそう言って、照れ臭そうに笑う。
「でも、私も分かるかな。家族と食べるご飯は格別だから」
「だよな」
彼女と同じ気持ちを共有できることに嬉しさを感じた。その後も、じゃがいもがホクホクだねっとか、いんげんのシャキシャキした触感がたまらないよね。なんて普通を会話を交わす。二人のやり取りを見ていて思う。
きっと本当の意味で夢咲さんを理解できるのは義妹だろうな。容姿も勉強も優れていて、それで反感を買うこともあった。できれば互いに支えあってほしいと思いながら、美味しいご飯を口に運ぶのだった。




