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義妹とクラスメイトから迫られる~義妹の信頼を積み重ねるために行動していたら、クラスメイトからも好かれました~  作者: 夢見る冒険者


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返却

試験が終わると同時に、教室中が一気に沸き立った。誰もが堰を切ったように声を張り上げ、感情を爆発させる。


「終わったー!」


「打ち上げ兼、答え合わせしようぜ」


「この問題どうだった」


三者三様の反応が飛び交い、あちこちで笑い声や疲れたーという声が聞こえる。が混じる。そのざわめきを全身で浴びて、ようやく肩の力が抜けていった。本当に終わったんだな。心臓の鼓動が少しずつ落ち着いていくのを感じていると不意に声を掛けられる。


「お疲れ様、連。それで、試験はどうだった?自信あるのか?」


クラスメイトの一人が声を掛けてきた。その瞬間、周りの喧騒がわずかに収まるのを感じる。まるで俺の返答を待っているかのように、空気が変わった。視線は直接向けられてはいないのに、耳と意識がこちらに集まっている。


「手ごたえは十分。後は有明と夢咲さんがどのくらいできたかによるかな」


軽く答えると、すぐに有明へと視線が向けられる。


「ということだけど、有明はどうだった」


「全力を尽くした、それだけです」


自信に満ちた答え。思わず背中を汗が伝う。真正面から射抜くような視線に、こちらの表情まで引き締められた。そして――皆が最も気になっていた問いが投げられる。


「それで、夢咲さんは」


一瞬、空気が張り詰める。今ここでそれを聞くのか、と心の中で突っ込みつつも、やはり俺も知りたいと思い、伺うようにちらりと彼女に視線を送ると――


「私も、全力を尽くした」


静かだが、揺るぎのない声。その眼差しはまっすぐ俺を見据えていて、自然と笑みが漏れてしまった。


「結果が楽しみだな」


「えぇ」


初めて夢咲さんが感情的になった姿を見れたと思った。視線を俺に固定させて、いつも以上に真剣に見つめる彼女からは、当初の誰にも頼らないと覚悟していた意思の強さを感じた。


放課後、家に帰ると涼花が笑顔で迎えてくれた。


「お疲れさま、お兄ちゃん。どうだった?」


「……悪くなかった。あとは返却待ちだな」


「そっか。じゃあ、あとはゆっくり休んで」


そう義妹に言われ、一呼吸落ちつく。目を瞑ると頭は再度活動を開始する。勝負の結果やクラスの雰囲気がどうかるのか、そして俺がどのように対応しないといけないのか。


まぁ、負けたときは放課後とかに彼女にアプローチすればいい。あくまで教室内で過度に干渉することを避ければいいだけなんだから。自分ながら、卑怯なことをしているという実感はあるが、そうならない方が圧倒的に確立が高い。


彼女はきっと、俺にも有明にも負けている。だから、フォローする方が大事だと考えていた。これからのことを予測しながら、その日を過ごすのだった。


***


数日後いよいよテスト返却日がやってくる。先生の頑張りによって通常よりも早く返却されるらしい。朝のホームルームに対して皆どこか浮足立っていた。いつも以上に授業が早く開始されないかとそわそわしているのがわかる。


「今回のテスト、高得点者は先に名前を呼びます」


先生の言葉に教室がざわめく。そして最初に呼ばれたのは――


「……有明」


「……連」


「……夢咲」


呼ばれるたびに、クラスがどっと盛り上がる。黒板の前に答案を受け取りに行く三人を、クラスメイトがひそひそと見守っているのがわかる。


(……初っ端から三人そろってか)


現代文は全員90点台。まずは好スタートだろう。二限目は、古典だった。なぜ国語系が連続で並ぶのかというどこか作為的なことを感じる。


「古典、90点以上はこの三人だな。……有明、連、夢咲。よくやった」


またも名前が並び、再び拍手と歓声が上がる。


「おいおい、ガチで強すぎじゃね?」


「また、90点以上って化け物かよ」


クラス中からそんな声が飛び交う。教室はいつも以上の熱気に包まれながら、どんどん答案が返却されていった。世界史A、数学Iと答案が返されるたびに歓声が「おおー!」と上がる。点数は発表されていないからこそ、誰が勝つのかで盛り上がっていた。


「今日のところはどうやら点数に差がないようですね」


「あぁ、けれど具体的な点数まではわからないぞ?」


俺はニヤリと笑う。有明も俺も詳細な点数を明かすことはしない。それは、長引かせるほど俺達への興味は湧き、夢咲さんを知ろうとする人が増えると考えているからだ。


まぁ、実際的な部分をいうなら、俺自身も明かさない方がワクワクするからに決まっている。しかたないじゃん、これで10点でも点数が開いていたら絶望するし、なえるんだもん。


そうして、次の日も次の日もテストは返却されていく、数学や英語など、主要科目が被るたびに思うのは、早く最後の2教科を返してくれーーという心からの叫びであり、焦らされるゆえのもどかしさを感じた。


その間も適度に返却され、すべての教科で俺たち三人は高得点リストに入っていた。最後の方は、当たり前感が出てきて、誰も騒がなくなってきているので、早く返却してほしい。


ただ、クラスの中では、夢咲さんのことを再度認めている人たちは多数いる。やはり進学校ということもあり、テストの点数が高いなら、多少は目をつむるという雰囲気が出てきている。


残り2教科の返却は明日。いよいよ俺達の勝負に決着がつく。自然と笑みを浮かべて俺は、明日を心待ちにするのだった。

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