表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
義妹とクラスメイトから迫られる~義妹の信頼を積み重ねるために行動していたら、クラスメイトからも好かれました~  作者: 夢見る冒険者


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/53

試験終了

翌朝。昇降口を抜けた瞬間、校舎内の空気がいつもと違うのを肌で感じた。廊下に響く足音、紙をめくる音、ひそひそと交わされる最後の確認。中間試験独特の、静かで、どこか張り詰めた雰囲気が学校全体を覆っている。


(……いよいよだ)


胸の奥で心臓が一回、大きく鳴る。教室に入ると、皆が自分の席で参考書やノートを広げ、最後まで詰め込もうと努力をしている。


この光景が好きだなと素直に思う。最後まで諦めないその姿に感化され、俺は笑う。担任が入ってきて、ホームルームが開始される。皆、どこか宙に浮かんでいる様に、別のことを考えているのがわかる。


担任もそれを察して、短く話を終わらせた。最後の確認をしていると、担任と入れ替わりで別の先生が入ってくる。俺の机の上にシャーペンと消しゴムを置いて準備をすませる。余計な資料はすべて鞄にしまった。準備はもうできている。


試験用紙が配られる。その間、時間が妙にゆっくり流れているように感じる。シャーペンを握る手がわずかに汗ばんでくる。


「――では、始めてください」


試験管の声と同時に、静寂が落ちた。カリカリと鉛筆やシャーペンが紙を擦る音だけが響く。


(……まずは全体を見渡して)


問題の流れをざっと確認する。見た瞬間に解けるもの、時間がかかりそうなもの、そして後回しにすべきものを瞬時に振り分ける。焦らず、でも淀みなく。


一問目に取りかかると、周囲の気配が遠のいていく。文字を読み、計算を重ね、答えを記すたび、頭の奥のどこかが研ぎ澄まされていく。時間の経過は早い。残り十分の合図が鳴ると、最後の見直しに入る。迷った問題に付けておいた小さな印を頼りに、解答を再確認する。


「――そこまで」


用紙が回収され、張り詰めていた空気が一気に緩む。けれど、まだ終わったわけじゃない。一科目ごとに勝負は続く。休憩時間。俺は机に突っ伏すことも、無闇に参考書を開くこともしなかった。


水を一口飲み、窓の外を見る。脳を休ませるために、意識的に頭を空っぽにする。次の科目に備えるためのリズムを崩さないように。


「連、どうですか?」


声をかけてきたのは有明だ。


「上々だな。そっちは?」


「悪くないですよ。……面白くなってきましたね」


彼の余裕ある笑みに、俺も口角を上げる。次は――本命の科目だ。深呼吸をひとつして、再び席に着く。


(ここからが本当の勝負だ)


そう心の中で呟きながら、二度目のチャイムを待った。教室のざわめきが完全に消える。担任が試験用紙を配り始めた瞬間、胸の鼓動がひとつ早まる。本命の科目――この勝負の行方を大きく左右する戦場だ。


用紙を受け取り、まずは全体を一読する。……悪くない。過去問で押さえておいた範囲が、予想通りいくつも出ている。だが、それは俺だけではない。


遠くの席で夢咲さんが淡々とペンを走らせる。有明も順調そうに問題を解いているのが分かる。二人とも、この瞬間に全力で集中している。


(――負けられない)


一問一問、確実に埋めていく。頭の中で過去問の解法パターンと照らし合わせ、瞬時に選択肢を絞る。計算問題では、途中式を丁寧に残し、見直しの時に迷わないようにした。


そんな中、難問に差し掛かったとき、一瞬ペンが止まる。視界の端で、夢咲さんの眉がかすかに寄るのが見えた。同じ問題で詰まったのか――そう思った瞬間、背筋がぞくりとする。これは正面からの勝負だ。


時間との戦いの中納得がいく回答を紙に綴る。残り五分を切ったところで、迷っていた問題に区切りをつける。見直しに移りながら、自分の答案に抜けがないか慎重に確認する。そして、終了の声。


……終わった瞬間、肩から重しが落ちたように呼吸が楽になる。だが油断はできない。今日はまだ科目が残っているし、勝負は最終日まで続く。


午後の科目も淡々とこなし、その日の試験がすべて終了した。帰り支度をしていると、廊下で千夏が手を振ってきた。


「お疲れ様!」


「そっちもな」


中里さんもにこやかに頷き、二人揃って「明日も頑張ろうね」と声をかけてくれる。その声に背中を押されるように、俺は教室を出た。その日の空は、やけに澄んで見えた。


***


家に帰ると、涼花がリビングのテーブルにノートと参考書を広げて待っていた。


「おかえり、お兄ちゃん。どうだった?」


「悪くない。……でも、まだ終わりじゃない」


俺の返事に、涼花は微笑んで席を詰める。


「じゃあ、今日もやる?」


「ああ。明日の科目をお願いしてもいいか」


「任せて!」


妹が用意してくれたプリントには、俺が苦手な分野を徹底的に詰め込んであった。問題ごとに小さなメモが添えられていて、視点や解き方のヒントが短く書き込まれている。それを読み解きながら、時間を忘れてペンを走らせた。


翌日。教室に入ると、昨日よりもさらに張り詰めた空気が漂っていた。夢咲さんは窓際の席で、相変わらず静かに問題集をめくっている。有明は前の席で、俺と目が合うと無言で頷いた。……二日目の試験も全力で挑もうと互いに頷く。


午前の科目は比較的手応えがあったが、午後の応用問題は骨が折れた。それでも、焦らず一問ずつ片付ける。昨日の勉強で詰めた部分が、想像以上に役立っていた。


...ほんと、義妹の行動には助けられてるな。ありがたいなと思いつつ、問題を進める。終了の合図とともに、深く息を吐く。


三日目も同様に全力をつくした。


(……悪くない)


そう手応えを感じるが、油断はできない。まだ勝負は終わらない。明日が最後だ。そう再度気合を入れなおす。


***


――最終日。教室の空気は、普段の試験日以上に静まり返っていた。鉛筆の芯を削る音、ページをめくる音がやけに鮮明に響く。今日の科目は、配点も高く範囲も広い。ここで差がつく。


一問目は順調。二問目も、想定通りの解き方でスムーズに進む。だが、大問五で手が止まった。……難しい。だが、この手の問題は涼花が似た形式を用意してくれていた。頭の中で、彼女に習ったことを思い返す。手順を思い出して答えを記入する。


ふと顔を上げると、夢咲さんも有明も集中して解いているのがわかる。いや……この場にいる全員が、本気だ。


残り五分、最後の見直しを終えた俺は、用紙の隅に軽く「OK」と小さく書き込む。終了のチャイムが鳴り、教室の空気がふっと緩む。周りが答案を回収する中、俺はほんの一瞬だけ深呼吸をした。


(――やり切った)


これで勝負は決まる。あとは、結果を待つだけだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ