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義妹とクラスメイトから迫られる~義妹の信頼を積み重ねるために行動していたら、クラスメイトからも好かれました~  作者: 夢見る冒険者


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デート?

ケーキが運ばれてきたとき、テーブルの上はまるで小さなパーティー会場のようだった。色とりどりのケーキが並び、紅茶の香りがふんわりと広がる。小さなカフェの奥まった席で、学校とは違う空気の中にいた。


「これ、めっちゃ美味しそう!」


松崎さんが、ショートケーキのいちごをぱくりと口に運ぶ。


「ふふっ、すごい甘くてジューシー...本当に美味しい。連、ありがとうね」


「どういたしまして」


彼女のほっぺが落ちそうな姿を見ていると、こちらも嬉しくなる。中里さんの方を見ると、ガトーショコラを少しずつ崩すように食べながら、どこか嬉しそうに微笑んでいた。


「濃厚ですね。こういうの、ひとりだとあまり頼めないので……嬉しいです」


「気に入ってもらえてよかった」


そして、夢咲さんはといえば、チーズケーキにフォークを刺したまま、パクリと食べている。視線を気にするように店内を見渡すと、ふと、ショーケースで視線とまる。そこには、もう一つ、彼女が目で追っていたケーキ――ミルフィーユがまだ綺麗に並んでいた。


(やっぱり、気になってたんだな)


でも、彼女はそれ以上視線を送ることはなく、ゆっくりとチーズケーキを一口づつ口に運んだ。


「……ん」


声を出すほどに美味しいのだろう。他の人の視線がないか気にしつつ、食べている。...あまり笑顔になってる姿を見られたくないふしがあるよな、そんなふうに思って微笑んでしまう。


「そんなに、ムースショコラのケーキ美味しいの?」


「そうだな、程よい甘さでちょうどいい、、、食べてみるか?」


「いいの!!...じゃあ一口」


そう言って口に運ぶ。


「確かに絶妙だ。何個でも食べれそうな感じ」


「だろ?」


そんな風に会話はぽつぽつと続く。松崎さんが「次はパンケーキも食べてみたい」と言い出せば、中里さんは「静かな店がいいですね」と頷いていた。


夢咲さんはあまり多くを話さない。でも、彼女の視線が少しずつ人に向いてきているのがわかる。俺がふと笑いかけると、目をそらしながらも、唇の端が少しだけ動く。


それだけで、少し嬉しかった。ふと、俺は席を立った。


「ちょっと、お手洗いに」


「りょー、かいっ」


と松崎さんが返事する。皆の視線がこちらに向いてないのを確認して、手短に注文する。夢咲さんがが見ていたあのミルフィーユをレジで注文を伝えると、店員さんがにっこりと頷いた。


「お連れさまにお出しする形でよろしいですか?」


「はい、彼女の前に置いてください」


そして、しばらくして。


「お待たせしました」


テーブルに戻ると、タイミングを見計らったように店員さんが小さな皿を手にやってきた。その上には、サクサクとした層が美しい、フルーツのミルフィーユが乗っていた。


店員は俺が伝えた通り、無言でそれを夢咲さんの前に置いた。


「え……? あの、私……」


驚いたように夢咲さんが顔を上げ、戸惑いながらも店員に話しかけようとする。


「私、頼んで……」


「俺が頼んだ」


そう、自然に言葉な感じで告げる。


「みんな二個以上頼んでるし、俺が個人的に食べてほしい味だったから」


「……でも……」


「いやならいいんだけど、俺が不公平感を演出しているようで、罪悪感がある。よければ食べて欲しいんだけど、、、どうかな?」


「食べれるなら食べたほうがいいよ」


松崎さんが軽く告げるその言葉に、夢咲さんの目が小さく揺れた。少しの間、迷っているように見えたけど、やがて小さくうなずいた。


「……いただきます」


ミルフィーユをフォークで切る音が、静かに響く。丁寧に切り取った一口を、夢咲さんは恐る恐る口に運んだ。瞬間――


「……っ……おいしい……」


ふわっと表情がほぐれた。これまでの緊張感が、ひと口で溶けてしまったかのように、彼女の頬がふんわりとゆるむ。


その様子を見ていた店員さんも、カウンター越しに目を細めて、ほんの少し、微笑んでいた。


(やっぱり、頼んでよかった)


俺はフォークを手に取り、自分のベリータルトに手を伸ばした。目の前で夢咲さんが、何度も何度もミルフィーユを噛みしめる。


その後も、ゆるやかな時間が流れていった。笑い声も、会話も、そして沈黙も、どこか自然に感じられた。


夢咲さんが、自分のペースで少しずつ笑ってくれる。そんな小さな変化の一つ一つが、俺にはかけがえのないものに思えた。


(もっと話せたらいいな)


ケーキというきっかけが、ほんの少しだけ距離を縮めてくれた気がした。余韻が口の中にほんのり残るなか、みんなが席を立ち始めた。


「……じゃあ、次どこ行こうか?」


と俺が言うと、松崎さんが目を輝かせる。


「え、次もあるの? 連、今日奢りなのに?」


俺は苦笑いしながら、冗談めかして言った。


「まぁ、カワイイ3人のために使うなら悪くないかなって思ってさ」


「でしょっ!」


と松崎さんが即座に乗ってくる。それはいつものやり取りで、どこか楽しげだ。


「……まぁ、それは冗談として。ちょっとウィンドウショッピングでもする? せっかくだし、駅前のモール寄ってみようよ」


「賛成です。スイーツのあとは、少し歩きたくなるので。ちょっとカロリー消費しないと、という罪悪感があります」


「夢咲さんもそれで大丈夫?」


「……えっ...大丈夫です」


夢咲さんが少しだけ間をおいて、ぽつりとそう言った。4人で連れ立って、カフェを出る。昼下がりの街には柔らかな光が差し込んでいて、道路脇の木々が風に揺れている。空気が少しだけ初夏の匂いを帯びていて、俺たちの会話もどこか緩やかだった。


***


駅前のモールは、祝日前ということもあって、ほどよく賑わっていた。人波にまぎれながら、俺たちは自然と雑貨屋の前に立ち止まる。


「これ、かわいい~!」と松崎さんがぬいぐるみのキーホルダーを手に取って騒ぐ。


「こういうの、カバンにつけてる人、多いですよね」


と中里さんが静かに微笑む。夢咲さんはというと、少し離れたところで、手帳コーナーをじっと見つめていた。俺は気になって横に立つ。


「手帳とか、好き?」


「まぁ……予定とか書いて、頭を整理できるから」


「へえ、なんか意外。スマホで管理してそうなタイプかと思った」


「そう見える?」


と不思議そうに告げる。彼女の対応が二人に接するようで、驚いてしまうが表情には出さずに続ける。


「うん、なんとなく。ちゃんとしてそうっていうか」


「……見えてるだけかも」


その言葉に、どこか引っかかるものを感じたけれど、俺はそれ以上は聞かなかった。まだその距離じゃない、という直感があった。


松崎さんと中里さんが他のコーナーに移ったのを見計らって、夢咲さんがぽつりと呟く。


「……ありがとう、さっきのケーキ。本当においしかった」


「そっか、それならよかった」


「でも、やっぱり……申し訳ないって思っちゃう」


「なんで? 俺が食べてみてほしいって思ったから頼んだだけだし、嬉しそうに食べてくれたから、普通に嬉しかった」


「……ずるいな、そういうの」


「え?」


「……なんでもない」


そのまま彼女はそっと視線を逸らした。けれど、その横顔は少しだけ柔らかくなっていた気がした。

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