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義妹とクラスメイトから迫られる~義妹の信頼を積み重ねるために行動していたら、クラスメイトからも好かれました~  作者: 夢見る冒険者


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心境の変化

放課後の静かな空き教室。連と簡単な作業をするために訪れたが、私は自分のバッグを抱えたまま、廊下に立ち尽くしていた。


(……話しかけるって、こんなに緊張するものなんだ)


教室の中では、連と松崎さんと中里さんが並んで談笑していた。三人とも、雰囲気が違うけれど、仲は良さそうだ。ああいう友達関係に、ずっと憧れていた気がする。同時に、昨日のことが胸を刺す。母に嘘をついているという事実に。意を決して、私は教室の中に一歩、足を踏み入れて席に着く。


「……あの」


三人の視線がこちらに向く。一瞬、驚いたような空気が流れる。私は気まずくなりながら、続けた。


「二人は、好きなものある?」


言い方が、ちょっとキツくなかったかな……。一瞬だけ不安になりながら、目の前の二人を見る。


でも――


「好きなもの? うーん、私はね、甘いものが好きかな」


真っ先に答えてくれたのは松崎さんだった。思ったよりずっと軽やかで、あたたかくて、私は少しだけ肩の力を抜いた。


「だからね、カフェとか巡るのが楽しくて。今度、連にケーキおごってもらう約束してるんだー。たくさん食べるつもり」


「え……何個も?」


「うん、何個か!」


「……まって、1個じゃないの?」


「ん~、まぁ、連の気持ちだから。1個でも全然大丈夫だけどね」


そう言いながら、松崎さんはどこか寂しげに笑った。その笑顔に、私の胸が少しだけざわつく。何個か買ってあげてもいいじゃないと。でも、すぐに連が笑いながら言った。


「もちろん、何個でもOKだよ。中里さんもね」


その言葉に、松崎さんはぱっと笑顔を取り戻す。


「やったー!それと夢咲さんの分もね」


「「えっ」」


私と彼の声が被った。


「だって、保健室で面倒見てもらったんでしょ。迷惑かけたなら当然、ね。夢咲さんもそう思うでしょ」


「え、うん」


と勢いで返事してしまう。


「じゃあ、いつにしようか。ゴールデンウィーク始まった3日でどう?」


「いいよ」


「私も大丈夫です」


「夢咲さんはどうですか?」


中里さんの優しい問いかけに、私は小さくうなずいた。


「問題ないです……」


自然に会話が進んでいってしまう。あれよあれよと予定が決まっていくこの流れが、怖くもあり、でもどこか嬉しいたと思ってしまう。そんな私の中の矛盾を感じる。


でもそれよりも、中里さんのこと、ちゃんと聞かないとという気持ちがあって、どう切り出そうかとさっきから焦る。ここで無視したとか思われたらどうしよう...


「それよりも、中里さんの好きなものは?」


「ケーキですか?」


「普通に、好きな物を聞きたい」


中里さんは一瞬、驚いたように目を瞬かせてから、ふんわりと笑った。


「本が好きです。あと……静かなところで過ごすのも好きですね。夢咲さんは?」


「えっ...と、わたし?」


「はい。夢咲さんの好きなもの、聞いてみたいです」


「私は……音楽とか、、、あと……静かなところも」


「似てるかもしれないですね」


その一言が、胸の奥に少しだけ灯りをともしてくれた気がした。彼女と話していると少しだけ安心する。私は二人に小さく頭を下げて、静かに教室を出ていった。自分の口元が少し弧を描いていて驚く。少しだけ軽やかになった気持ちを感じながら私は帰宅するのだった。


***


その背中を、俺たちはしばらく無言で見送っていた。閉まった扉の向こうに、彼女の小さな決意と戸惑いがまだ残っているような気がして。気づけば、俺は息を吐いていた。


「……少し、変わったよね」


先に言葉にしたのは松崎さんだった。その声には、驚きよりもどこか、ほっとしたような色が混じっていた。


「うん、私もそう思いました。……たぶん、今まで、どう話しかければいいか、わからなかっただけ...今日話してそう思いました」


中里さんが静かに続ける。その言葉は不思議と説得力があって、俺は小さくうなずいた。


「昨日までは、自分から人に興味なんてなさそうだったけど……今日は違った」


松崎さんの目が、どこか優しい。


「好きなものって聞いてくれたもん。私達には話しかけてみたいってことだよね」


「ああ。話す理由、探してたのかもな」


俺も、そう思った。ぎこちないし、不器用だし、たぶん聞いてるこっちが戸惑うくらいの距離感だったけど――それでも確かに、あれは“歩み寄り”だった。


「……でも、かわいかったな〜。恐る恐る話す姿」


「松崎さん、それ言うと思った」


俺はその反面が良すぎる姿に、攫ってしまうんじゃないかという恐怖を覚える。それくらい、松崎さんは興奮している。その様子に中里さんがくすっと笑って、俺もつられて笑ってしまう。


「でも、連がああいう風に“自然に”返してくれるから、安心して話せるんだと思いますよ」


「え、俺?」


「そうだね何個でもOKって、サラッと出てくるし」


「……んー、まぁ、ケーキくらいなら」


「そういうとこ!」


松崎さんが人差し指を俺の額に軽く当てる。中里さんは苦笑してたけど、その表情はどこか嬉しそうだった。


夢咲さんが少しずつ心を開いてくれるのは、きっとこの二人が作り出す空気のおかげなんだと思った。気を使いすぎず、誰かを傷つけたりはしない。そんな距離感。


「……少しずつだけど、話してくれるといいな」


俺がそう呟くと、二人は同時にうなずいた。


「うん、少しずつ、ね。私たちも、ゆっくりと対話していこう」


「夢咲さんが、無理しない範囲にですね」


二人が笑う姿をまた確信する。きっと今日の一歩は、彼女にとって踏み込む怖さを伴うものだっただろう。でも、それでもちゃんと声をかけてくれた。自分の不器用さと向き合って、ちゃんと歩いてきてくれた。


(……じゃあ、次は――俺たちの番だな)


俺は静かにそう思いながら、もう一度、閉まった教室の扉に目を向けた。

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