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クラス発表

義妹と別れて駅までたどり着くと、待ち合わせていた二人の姿が見えてくる。


「おはよう、有明。大翔」


そう声を掛けると、こちらを振り向いて二人が挨拶を返してくれる。


「おはようございます。連くん」


「おはよう、連」


挨拶を返し終わると、大翔は俺に片手を挙げてハイタッチを求めてくる。仕方ないな、と思いつつ、パチンと手を叩く。


「相変わらずですね、二人とも」


「お前も参加しろよ、有明」


「僕は遠慮しておきます」


そんなやり取りの中、三人して笑い合う。これが、いつもの日常で、俺たちの空気だった。


「それよりも、さっき僕たちのことを怪訝そうに見ながら近寄ってきましたよね」


「あ、俺もそれ、思った」


「なんかあったんですか?」


そう問いかけられて、俺はそんなにわかりやすかったからと反省しながら、答える。


「二人とも彼女持ちで、良かったなと思って」


「……話が全く見えてこないんですが」


そう言われて、俺は今朝あった出来事を二人に話す。


「相変わらずのシスコンっぷりですね」


「だな」


そう言って、二人して俺のことを呆れたように見つめてくる。


「あんなに可愛い妹がいたら、普通はそうなるだろ」


「手、出したらダメだぞ、連」


「出さねーよ」


「まあ確かに、連くんなら安心ではありますね」


「だろ?」


(……まあ、それが妹さんにとっていいかどうかはさておきますが)


そう返すと、有明は、いつものように何かを考えているようだった。だからこそ、思考に集中する前に二人に確認しなければならないことがあった。


「二人とも、考えてほしい。……今までに義妹が惚れそうな人や好きになった人を見たことはないか?」


俺は改めて、二人に相談を持ちかける。


「まぁ、僕の知る範囲だと……いませんね」


「俺もそうだな。一学年下だとクラスも違うし、そもそも知り合いも限られてくるしな」


交友関係広い大翔でも知らないってことは学校で出会った以外の可能性も考える必要が出てくる。確か義妹はサマーキャンプに参加したことがあったなその時に出会ったのか。その手のイベントで出会った人というのは印象に残りやすいから可能性としては大きいだろう。


美化されている可能性も考慮すると可能性が高いように思えてくる。もやもやした気持ちが胸の奥で渦を巻く。そんな俺の様子を見て、有明が言う。


「今日は僕たちの門出なんですから。自分のことに集中してください」


「……まぁ、それもそうだな」


そう言って、俺たちはいつものように話し始める。部活動はどうするか、クラスに可愛い子がいるんじゃないなどそんな他愛もない話をする。そうこうしているうちに、学校へとたどり着いた。さすがに今写真を撮るのは他の生徒に迷惑が掛かるということで学校へと入っていく。


「それじゃあ、どのクラスか確認しにいきますか」


「楽しみだな」


「みんな勿論、確認してきてないよね」


三人とも頷いたことを確認して、クラスが張り出された掲示板へと歩いていく。集まっている人が少ないのは、事前に送られてきた通知書で確認してきた人が多いからだろう。まぁ、いまだに掲示板にクラスの番号と人名が貼り出されるこの学校が珍しいんだが、そういう古風な慣習も重んじられているらしい。


とはいえ、名前の欄が空白になっているところもいくつかある。個人情報保護の観点で、拒否することが出来ることは有名だからな。……まあ、逆にそれが目立つんだけどな、と心の中で思いつつ、俺達は掲示板を確認する。


そこには、有明と大翔の名前、そして俺の名前が、1-Aの後に記載されていた。後ろを振り返ると、三人とも自然に笑顔になる。


「僕達、同じクラスのようですね」


「あぁ」


思わず声が漏れ、俺たちは三人でハイタッチを交わす。有明も、こういう時はちゃんとノッてくれる。だから、気が合うんだろうな俺達は。門出に比例するように高鳴る気持ちを抱きながら教室へと向かっていると、ふと気づいた。皆の視線が、ある一点に集まっていることに。中には立ち止まって見ている生徒もいて、歩いている生徒とぶつかりそうになっている。


(……なんだ?)


何かあるのかと思って、俺は視線をその方向へ向けた。すると、一人の女性がゆっくりと歩いていた。立てば芍薬、座れば牡丹。そんな言葉がぴたりと当てはまるほどの美しさだった。遠目にもわかる、艶やかな黒髪。長く流れるその髪は風にそよぎ、光を受けてきらりと揺れていた。


横顔だけでもわかる整った輪郭にその歩き姿には迷いがなく、堂々としていて――思わず「美しい」と感じた。誰もが彼女に視線を奪われていた。まるで、場の空気が一瞬止まったかのように。


「へぇ……ああいう人もいるんですね」


「お前の妹とどっち...」


「義妹に決まってるだろ」


俺は即座に肯定する。


「……まだ何も言ってないんだけどな」


大翔は苦笑しながら俺の方を見ていた。


「どうせ“どっちの方が可愛いか”って話にするつもりだったんだろ?」


「まぁ、それはそうなんだけどさ。」


大翔が肩をすくめると、有明がこちらを向く。


「そういうお前たちはどうなんだ、彼女と...」


「彼女ですね」


「彼女だな」


二人は、どこか余裕のある顔で、あっさりと答える。二人も即答するあたり、大事にしていることがわかって嬉しくなる。まぁ、こいつ等に彼女がいない方がおかしいか。勉強ができて、運動もそこそここなせる有明に、スポーツ推薦を何校かから打診されるも、断って自分の力で進学する大翔。


俺にはもったいないほど、出来た二人だった。たしか交際期間は大翔はもう2年半で有明は1年半ほどだったかな。大喧嘩して仲裁した過去を懐かしく感じる。


「……そういえば、有明に彼女がいるって聞いたとき、けっこう驚いたっけな。」


「それ、どういう意味ですか?」


少しだけ鋭く、有明が俺を見つめてくる。


「いや、有明はもっと慎重だと思ってたから。人付き合いも、距離の取り方もさ。だから――本当に信頼できる人ができたんだなって、そう思った。」


怒ったように見えた表情はすっと和らぎ、少し照れくさそうに目を伏せる。


「……そうです、けど。なにか」


「いや、素直に嬉しいと思ったんだよ。友人の幸せはね」


そう言って、照れくさそうにする有明に俺と大翔は温かい目を向けてから教室へと歩き出した。


「連に彼女ができた時に、僕もいじり倒します」


「その時は、トリプルデートでもするか」


「その余裕はでどこまで保てるか、今から楽しみですね」


そんな声を聞きながら教室へと入室していくのだった。

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