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義妹とクラスメイトから迫られる~義妹の信頼を積み重ねるために行動していたら、クラスメイトからも好かれました~  作者: 夢見る冒険者


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測定開始

体育館へと移動すると、そこはすでに他のクラスと合同で使う準備が整っていた。各種目の測定場所には簡単なラインと器具が置かれ、整然と列ができつつある。


「それじゃあ、さっそく始めるか」


指定されたのは握力測定か。俺達が回る順番が記載されたものを見る。既に大翔は握力系のハンドルとフリップを握っていた。真剣な表情で力強く握って、数値を確認する。


「よしっと」


大翔は表示された数字を、満足げに俺に見せてくる。


《78.4kg》


「……だよね」


思わず、そう口に出ていた。こいつの握力は、冗談みたいに強い。前からわかってた。


「どうだ連?」


「まぁ、俺も善処してみるよっ」


そう言ってグリップを強く握る。


「で、幾つだったの?」


「62だよっ。筋肉バカのお前に敵うわけねぇだろっ」


「まぁな」


「やっぱり大翔君はすごいんだね」


「流石だよね」


「連君の62ってすごいの?」


彼女達からすると、握力系を意識したことないのだろう。ただ、俺よりも16kg以上は上という事実はすごいと分かってるようだ。まぁ自分たちの握力がそれ位だもんな。


「大槻君はどのくらいなの?」


「...58だな」


落ち込むな、落ち込むな普通にすごい数字だから。10点の満点だから。俺は心の中でドンマイといいつつ、大翔が持ち上げられる。


「それじゃあ、その二人を圧倒する大翔君ってホントに凄いんだね」


「まぁな」


大翔も褒められることは嬉しそうで、それを男子生徒が悔しそうに見つめているという光景が散見される。それは夢咲さんの反応はどうかと、探してると少し離れたところで何やら話していた。


(……何話してるんだ?)


遠くて言葉までは聞こえない。でも、そのしぐさの一つ一つに目が引き寄せられる。唇の動きでなんとなくわかった。


「それって……すごいの?」


すると、松崎さんは嬉しそうに頷きながら、持っていた測定カードを差し出した。渡されたカードを覗き込むように、夢咲さんはじっと裏面を見つめていた。


「得点、見てみなよ」


その言葉に夢咲さんはあぁ、という表情で裏面の“評価表”を見た。


「……10点、超えてる」


夢咲さんの小さなつぶやきが、距離を隔てた俺の耳にもなぜか届いた気がした。松崎さんが、少し得意げに肩をすくめる。


「つまり、そういうこと」


ほんの一瞬だけど、夢咲さんの表情が揺れた。驚き?それとも、戸惑い?もしかして……興味?何でもいいが、彼女が少しでも感情を動かしてくれることに意味があると思った。まぁ、いやな感情は傷つくんですがね。


「やるね、連」


そう声をかけてきたのは松崎さんだった。明るくて屈託のない声。けれど俺の返事は遅れた。


「まぁ、な」


「……あれ、嬉しそうじゃないね?」


松崎さんが少し不思議そうに首をかしげる。


「それは、ね。負けたんだから当然だろ?」


「もしかして本気で勝つ気でいるの」


「もちろん、そうだけど」


俺はそう淡々と告げる。


「ふ~ん。ちょっと楽しくなってきたかも」


「なにが?」


「それは、教えないよっ。だって楽しみが減っちゃうから」


そう笑って彼女はその場を去っていった。


「で、夢咲さんの握力はどうだったの?」


「死にたいの?」


「まだ、命だけは助かりたいです」


「そう」


にしても普通に話してくれるんだな。そのことにとてもうれしいと感じるが俺はあえて普通の無表情を装う。だって、変に意識していると分かれば、彼女は俺のことを避けると知っているから。


次の競技は、長座体前屈だった。


体育館のマットの上に、順番に座らされる。冷えた床の感触が背中に伝わるたびに、なんとなく身が引き締まる。俺はゆっくりと足を伸ばし、深く息を吸った。


「いきまーす、はい、スタート」


有明の冷静な声とともに、俺は上体を前に倒す。柔軟はずっと武道で鍛えてきた。呼吸とともに、無理なく体が沈んでいく。


「……おー……」


誰かの声が小さく漏れる。女子たちの視線も感じる。一瞬、教室で見るような空気と違うものが流れた。


「ストップ。……74センチ」


「え、すご……」


「男子でそれってかなりいってない?」


ざわつく中、俺は平然と体を起こす。すると、その時だった。


「……でも、逆にキモいかも?」


その声に、一瞬場が止まる。言ったのは女子グループの一人、松崎さんじゃない。少しテンション高めの子だった。


「いや、頑張ったのにそれは酷くね」


「ごめんごめん、なんかイメージと違ったから」


「まぁ、わかるけど」


「そこは認めるんだ」


俺を気持ち悪いといった女子は苦笑しながらそうつぶやく。


「じゃあ次は大翔」


空気を切り替えるように、有明が言う。大翔は膝をバンバン叩きながら前に出る。


「柔らかさとかよく分かんねぇけど、まあ適当に──っと」


体を倒すが、意外にもすぐ止まった。勢いで伸ばしてみせようとしたが、どうにも詰まっている。


「……68センチ」


「まぁ、でもすごい伸びてるよね」


「柔軟性では連くんの圧勝って感じか」


皆が楽しそうに話す中、俺は少しだけ安堵していた。一本取り返した。けど、次の競技を落とすのはヤバいからな。そう思いながら、その方向を向く。


「よし、次は上体起こしかっ」


大翔が俺の方を向いて本当に楽しそうに笑う。本気の勝負ごとの中でも笑える大翔のことをほんの少しだけうらやましいと感じた。体育館にいる皆の雰囲気が少しづづ巻き込まれていくのを肌で感じた。


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