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分断

崩落の後、洞窟の入口付近は混乱に包まれていた。

舞い上がった粉塵が、まだ空気に残っている。

砂粒が天井からぱらぱらと落ち、

誰かが咳き込み、鎧の金具が小さく鳴った。


「……聖女様が、落ちた……」


 誰かの呟きが、場の空気を凍らせた。

 護衛たちは崩れ落ちた床の縁に集まり、覗き込む。

 底は暗く、どこまで続いているのか分からない。

石を落とせば、音が返ってくるまでに

かなりの間が必要だった。

 だが――


「……今、下で……光が見えなかったか?」


護衛の一人が、かすれた声で言った。

ほんの一瞬。

瘴気の向こうで、淡い光が瞬いた気がした。


「……生きている、可能性がある」


 ざわり、と空気が動く。

 護衛隊長は歯噛みし、拳を握り締めた。


「降りられるか?」


 誰かが問いかける。

 案内役のドワーフは、険しい顔で首を横に振った。


「……無理だ。

 この先の地形は、揺れでかなり変わっている。

 今の装備で、ここから降りるのは命懸けだ」


 短い沈黙が落ちる。

 その沈黙を破ったのは、随行していた司祭だった。


「……この事態を、まず教会へ報告すべきです」


 その声は静かで、理に適っているように聞こえた。


「聖女様が行方不明となった以上、

 我々だけで判断するのは危険です。

 増援と、正式な指示を仰ぐべきでしょう」


 護衛隊長が睨みつける。


「……報告に戻っている間に、

 聖女様が……」


「それでもです」


 司祭は一歩も引かない。


「感情で動くべきではありません。

 教会の意向を仰がねば、

 事態はさらに混乱します」


 その言葉に、数名の護衛が視線を逸らした。

 理屈としては、正しい。

 だが、正しいからこそ、割り切れない。


「……分かりました」


 護衛隊長は、苦い声で言った。


「数名、戻って報告しろ。

 俺は……残る」


 その言葉に、場がどよめく。


「隊長……!」


護衛隊長は、拳を握りしめ、やがて低く言った。


「聖女様を、このまま“行方不明”にはできん」


 拳を握り締めたまま、崩落した闇を見つめる。


「生きている可能性があるなら……

 探しに行く」


 司祭は一瞬だけ、目を伏せた。

 その表情は、祈りにも見えた。

ーーだが同時に、

どこか安堵しているようにも見えた。


「……では、私と数名が教会へ戻ります。

 必ずや、増援を連れて戻りましょう」


 そう言って、司祭は護衛の一人に視線を送る。

ほんの一瞬の合図。

だが、その意味に気づいた者はいなかった。


「特使殿」


 護衛隊長が案内人を見る。


「地下王国までの道……

 分かる範囲でいい。案内を頼めるか」

 ドワーフは唸り、やがて頷いた。


「……正直に言う。

 完全な道順は分からん。

 だが……行けるところまでは行こう」


 こうして一行は、二つに分かれた。

 教会へ戻る者たち。

 地下王国へ進む者たち。

そして――

闇の底へ落ちた二人。

 そして誰も気づかなかった。

 この分断そのものが

 ーーすでに

“誰かの思惑の上”にあることを。

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