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第二章 崩落

 洞窟の内部は、入口とは比べものにならないほど湿っていた。

 壁面の岩肌は黒ずみ、ところどころに淡い灰色の靄が溜まっている。

 それは視界を覆うほど濃くはないが、

喉の奥にじわりとした痛みを残す――瘴気の名残だった。


 護衛の騎士が鼻と口元を布で覆いながら言う。


「……思った以上に濃いな」


 案内役のドワーフが低く唸る。


「この辺りは、元は鉱脈だった。

 地殻が動いたせいで、封じられていた層が割れたんだろう」


 足元の地面には、細かな亀裂が無数に走っている。

 歩くたび、わずかに砂利が転がり、乾いた音が洞内に反響した。

 セレストはローブの袖で口元を押さえながら、周囲を見渡す。

 空気が、重い。

 ただ湿っているだけではない。

 胸の奥に沈み込むような、不快な圧があった。


 ――この場所自体が、何かを拒んでいる。

 そんな錯覚さえ覚える。


 その時、先導していた運び屋が、ふと足を止めた。


「……待ってください」


 彼は屈み込み、地面に手を当てる。

 岩の隙間から、かすかな風が抜けているのが分かった。


「ここ、少しおかしい。

 地面の下が空洞になっているかもしれません」


 ドワーフが眉をひそめる。


「……確かに、こんな場所に風の通り道はないはずだ」


 護衛隊長が周囲を見回し、声を張る。


「全員、足元に注意しろ。

 隊列を詰めるな、間隔を取れ!」


 その言葉に従い、隊列がわずかに広がった、その瞬間――

 ゴ、と低い音が洞内に響いた。

 まるで、地の底が軋むような音だった。

 次いで、足元の岩盤が、不自然に波打つ。

 ミシ、と。  

 不吉な音が洞内を走った。


「――足場が崩れるぞ!」  


ドワーフの叫びとほぼ同時に床の一部が、不自然な角度で沈み込んだ。  


次の瞬間だった。


 ズン、と地面が抜け落ちる感覚。


 まるで足元から世界が消えるように、  洞窟の床が、大きく崩れた。


「聖女様――っ!」


 護衛の誰かが叫ぶ。


 セレストの足元がひび割れた岩盤ごと崩れ落ちる。


 反射的に彼女の身体が前のめりに傾いた。


 白いローブが宙に舞う。


 咄嗟に、先導していた運び屋が身を翻した。  


細い腕を掴み、引き寄せる。


   彼は躊躇なく踏み込んでいた。


 崩れかけた床に足を掛け、セレストの身体を自分の方へ引き寄せる。


 だが――  庇うように身体を寄せた、その一歩が、 致命的だった。


 岩盤は、二人分の重さに耐えきれず、 鈍い音を立てて崩れ落ちた。


「っ……!」  視界が反転する。


 洞窟の天井が、遠ざかる。


 騎士たちの叫び声が、歪んで聞こえる。


「聖女様!!」


「掴め――ッ!」


 誰かの手が伸びたが、 指先は虚空を掻いただけだった。


 重力に引きずられ、 二人の身体はそのまま暗闇へと落ちていく。


 落下の途中、 運び屋は咄嗟にセレストの頭を胸元に引き寄せた。


 岩肌に打ちつけられないよう、 衝撃を少しでも和らげようとするように。


落下の途中、淡い光が一瞬だけ広がる。


 祈りの言葉が、かすれた声で紡がれた。  ――落下減退の法力。


 だが、完全には間に合わない。


 重なった二人の身体が、岩肌に叩きつけられる。  鈍い衝撃。


 息が詰まり、視界が白く弾けた。


 その腕は、不思議なほど強く彼女を抱えていた。


 セレストの視界は暗く、 耳鳴りのような音が続いている。


 それでも――  誰かの鼓動が、すぐ近くで響いていた。


 そして二人の身体はさらに深い闇の底へと吸い込まれていった。

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