陽の聖女の祈り
――セレスト出立の前夜。
聖堂の奥にある小さな祈祷室に、陽の聖女ソレイユの姿があった。
長机の上には、一行が携えていく装備品が並べられている。
外套、護符、革の手袋、簡易の防毒布。
そして、淡く透き通る特殊な鉱石を嵌め込んだランタン。
ソレイユは一つひとつに手をかざし、静かに祈りの言葉を紡いだ。
指先から、柔らかな光が滲む。
この世界の生き物は、大小の差はあれど、誰もが“魔力”を持つ。
祝福を施された物は、使い手がその魔力を注ぎ込むことで、はじめて力を発揮する。
それは難しい技ではない。
息を吹き込むように、自然に“通す”だけでよかった。
外套や護符に施された祝福は、
持ち主の周囲の不浄な空気をわずかに中和する。
毒性の瘴気を完全に防ぐことはできないが、
吸い込む量を減らし、身体への負担を軽減する程度の力はある。
教会の一般の司祭が施す祝福であれば、効力はせいぜい一刻――
およそ一時間ほどが限界だ。
だが、ソレイユの祝福は違う。
十二時間ほど効果が持続する。
ランタンに嵌められた鉱石もまた、同じ祝福を受けていた。
魔力を注ぎ込めば、鉱石は淡く輝き、洞窟の闇を照らす。
火を使わぬ灯りは、毒ガスが漂う地下では命綱に等しい。
祈祷を終えたソレイユは、机に並ぶ装備を見渡し、そっと息をついた。
その視線は、自然と、セレストの外套へと向かう。
「……セレス、必ず無事に……」
祈りの言葉は小さく、誰に聞かせるでもない独り言だった。
留守を預かる身でありながら、
それでも、彼女は姉妹の無事を誰よりも願っていた。
なお――
この祝福の力をどこまで引き出せるかは、持ち主の資質にも左右される。
魔力の操作に長けた者なら、自然と光を灯せる。
だが、不得手な者にとっては、それだけで一苦労だ。




