七人の会議
最初の異変は、ドワーフの地下王国の最下層で起きた。
地の底から吹き上がったのは、
淡く光る灰色の瘴気――
本来であれば、岩盤のさらに奥深くに封じられていたはずの毒性の霧だった。
鉱脈の一部が地殻変動により崩れ、
古い封印層に亀裂が走ったのだ。
瘴気はゆっくりと、
しかし確実に居住区へと広がっていった。
最初に倒れたのは、
鉱脈を掘っていた一人の坑夫だった。
それは、地下王国にとって
ただの事故ではなかった。
地下王国は、即座に非常事態を宣言。
だが、瘴気の性質は判然とせずドワーフの技術をもってしても、
中和は叶わなかった。
そこで、彼らは人間の教会へと救援を要請した。
――白の聖女と、陽の聖女の派遣を願う。
◆
白い聖堂に、祈りの声が満ちる。
二人の聖女が並び立つ光景は、
この国の“正しさ”の象徴だった。
片や、教皇の血を引く聖女。
片や、神に選ばれたと噂される聖女。
民衆は祈る。
――どちらが本物なのか、など知らぬまま。
※※※
救援要請が届き、急ぎ”教会”の意向を決める会議が開かれる。
長い石の机を囲むように座るのは、
教会の方針を決定する七人の枢機卿・大司教たち。
その座はすでに、目に見えぬ色で塗り分けられている。
だが、本来この席には――
もう一人、
白の聖女派の大司教が座るはずだった。
白の聖女セレストを推す者たち。
陽の聖女ソレイユを推す者たち。
そして、どちらにも与しない者。
「教皇様がお隠れになって早一ヶ月……
このような事態になろうとは」
「卿等も知っていると思うが、かの王国より救援の要請がきておる」
「そのようですな、これは急を要する案件、早急に対応せねばなりますまい」
「そうですな、私は白の聖女様が相応しいと思いますが」
言葉は丁寧だが、
その裏にあるのは、次期教皇の座を巡る争いだった。
「なっ!セレスト様は巡礼から戻られたばかり! それなのに何故!」
「おや何か不都合でも?この救援が上手くいった暁には白の聖女様の基盤は盤石、
何を憂う事がありましょう」
「私事はセレスト様の身を案じているだけです、基盤などそんなこと!ーーー
唐突に、議長役の枢機卿が静かに手を上げる。
「……多数決を取りましょう」
結果は、
白の聖女セレストの派遣――
僅差での決定だった。
内心で舌打ちをした者。
表情を変えずに頷いた者。
そして、胸の奥に別の算段を抱えた者もいた。
その決定の裏で、
ひとりの司祭と、ひとりの護衛が“選ばれた”。
――聖女に付き従う、名目上の随行者として。
だがその真の役目を、知る者はまだ少ない。
だが静かに、歯車は回り始めていた。




