旅の始まり・静かな波紋
案内されたのは、鍛冶場の奥にある、簡素な個室だった。
厚い石壁に囲まれ、外の音はほとんど届かない。
バルグリムは腰を下ろすと、改めて三人を見回した。
「まずは礼だ、改めてこの王国を救ってくれたこと民を代表して感謝する」
深々と頭を下げるその姿は、王というより、同じ“現場の人間”だった。
セレストは小さく首を振る。
「私は……すべきことをしただけです」
セレストは何故か決まりが悪そうだ。
「あとセレスト嬢の申し出だが、こちらで特使もだしといた、
やっと落ち着いたしな近々正式な発表もする」
「ありがとうございます!」
ほっとしたような声。
だが――
「聖女様、私はまだ納得しておりません」
護衛隊長の声は硬い。
「せめて私だけでも、道中の同行を――」
バルグリムが手を上げて制した。
「慌てるな」
そして視線を運び屋へ。
「話が見えねぇだろう。説明してやれ」
バルグリムは隊長を手で制し
セレストが運び屋の顔をみやり話し出す。
「ごめんなさい日向さん話がわかりませんよね」
「……教会の中には、私の事を次期教皇にと推す派閥ともう1人の聖女を推す派閥があります表向きは一枚岩でも、内部では……利害が衝突することもあるのです」
「そして今回の“一件”私を排除しよという者の画策でしょう」
バルグリムが引き取った。
「でだセレスト嬢には『中和は成功したが体調が優れないため
療養のため王国に滞在する』って話よ」
運び屋はまだ眉間にシワを寄せている。
「今セレスト嬢を返すのは危険だし実際刺客がまだいるのか、
はたまた送られてくるのかもわからねぇ」
バルグリムは話し続ける。
「話はわかりました、というかそれを僕に言ってもいいのですか?
あと関係性がまだ見えませんが」
運び屋が返す。
「慌てんな、ここからが本題だー
「私から話します」
セレストが遮る。
息を吸う。
「日向さん。お願いがあります」
「……はい?」
「私を、あなたのお仕事に同行させていただけませんか」
一瞬、空気が止まった。
「――はい?」
素っ頓狂な声。
隊長の視線が鋭くなる。
「私が教会内で見聞きする情報はかなり制限されます、
実際どれほどの情報が正しいのか検討もつきません」
セレストは一度息を吸い。
「そこで実際に“教会”への市井の情報を知りたいのです!
そこに打開できるヒントがあればと思って……」
「巡礼もして長旅にも慣れています、お願いします日向さん!」
セレストは懇願した。
「聖女様、護衛は――」
「目立つ」
バルグリムが短く言った。
「甲冑に帯剣。三人組。
“私は重要人物です”って看板背負って歩くようなもんだ」
淡々と続ける。
「それに今、聖女はこの王国に“滞在中”ってことになってる」
「お前が外をうろついてたら話が合わねぇ、
んでもってこの場所はもしかしたら
そおいった最前線になる可能性もあるわな」
バルグリムは一気にまくしたてる。
「……わかりました王のおっしゃる通りです、
ここを押さえるのが今の私の仕事です」
隊長はまだ納得までは行かなくとも飲み込んだようだ。
「それであんちゃん返事は?」
バルグリムはすっと話題をふった。
視線が集まる。
少しの沈黙
「……僕は全く構いませんよ」
運び屋は軽く返事をする。
「えっ」
「おっ」
「なっ」
三者三様の反応。
「むしろ法力を使える方が同行してくださるなら助かります。
危険地帯も通りますし」
あまりに現実的な理由。
バルグリムが豪快に笑う。
「ガッハッハ話しが決まったな!おう隊長仕事の話しを詰めたい着いてこい」
バルグリムは歩き出す。
隊長は運び屋を真っ直ぐ見た。
「必ず……聖女様をお守りしろ」
それだけ言って出ていく。
「……まさか承諾していただけるとは驚きました、
日向さん本当に分かってますか?私は面倒ですよ」
セレストの声は強い。
運び屋は少し考え。
「聖女様の事情を知らない訳ではありませんし」
「現状必ず安全な場所が確保できないのならば
己が足でそれを探そうとする姿勢に共感しました」
そして柔らかく笑い。
「それに僕が良ければ良いんじゃないですか」
少しの沈黙
「そういえば旅をするに至って一つ聞いておかないといけない事が」
運び屋は改まる、セレストは少し緊張した。
「まだお名前を聞いてませんでした、教えていただいても?」
一瞬の間。
セレストが吹き出す。
「プッ、ハハ、アハハハハハハ」
セレストは涙目をふきながら。
「ごめんなさいそうでしたね、……セレスト、セレスト・ルクナです」
セレストは微笑む。
◆
セレストが瘴気の中和を果たした、その同時刻。
各地遠く離れた地のどこかで、
長く沈黙していた観測装置の針が、わずかに跳ねた。
かすかな波形が、画面に揺れる。
「……反応した?」
誰かの声が、静かな部屋に落ちた。
だがその波形は、すぐに消えた。
まるで――
最初から存在しなかったかのように。
「ここまで読んでいただきありがとうございます。
第一章、これにて一区切りとなります。」
Stand.fmで朗読してます。「ぐゔぁ」で検索していただければ出てきます。




