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第一章 瘴気の洞窟

地下の空気は、肌にまとわりつくように重かった。


うっすらと漂う灰色の靄が、視界を曇らせる。


かつて王国の誇りと呼ばれたドワーフの地下王国は、今や立ち入りを制限された

“災害区域”となっている。


原因は、地殻変動により噴き出した毒性の瘴気――

本来なら地中深くに封じられていたはずのガスだ。


洞窟の入口に立つ一行の先頭で、案内役のドワーフが険しい顔をした。

「……すまん。

 数日前の揺れで、道がかなりズレた。

 正直に言うと、奥まで案内できるか分からん」


護衛の騎士たちがざわつく。


その中央に、白いローブを纏った“聖女”がいた。

 白の聖女セレスト。

 教会の象徴にして、次期教皇候補のひとり。

 伏せた睫毛の影に、静かな決意を宿した瞳を隠している。


「構いません。

 進みましょう。被害が拡大する前に、少しでも瘴気を中和しなければ」


 護衛隊長が一歩前に出る。


「お言葉ですが聖女様。

 あまりにも危険です。状況を見て、即座に撤退を――」


 その時だった。


「――失礼、あなたたち。

 奥に行くつもりですか?」


 洞窟の壁際から、ひょいと男が姿を現した。

 埃まみれの外套、擦り切れた革靴。

 口元には布が巻かれていた。

 背には使い込まれた荷袋が揺れている。

 だが、その足取りだけは妙に落ち着いていた。

 護衛の騎士が、わずかに眉をひそめた。


「ご存知だと思いますが、かなり危険です。

 素直に引き返した方がよろしいかと」


 ドワーフは目を見張る。


「……そういう訳にもいかん、その服装。お前は運び屋か?」


「ええ、商人もやってます」


男は視線を動かし、一行を見渡す。

最後に白のローブの人物へ目を向け、軽く頭を下げた。


「得体の知れん輩が聖女様に近づくな」

 

と護衛隊長が一喝する。


「僕は日向鐡(ヒュウガテツ)です。

 丁度最奥の方から来たんですが、親切で忠告しただけなのにひどい言われようだ」

と軽くあしらう。

 咳一つしない。

 瘴気の漂う坑道で、浅く呼吸しているようだ。


 セレストは一瞬だけ瞬きをし、

 それから“聖女の顔”を作った。


そしてセレストは一歩前に出て運び屋の男に質問する。


「日向さんと仰いましたね、先程“最奥”からいらっしゃったと」


「ええ、そうですよ」


「すみません突然のお願いなのですが私達をその最奥まで案内していただけないでしょうか?」


「こちらの案内役のお方も私達“教会”の特使として来て下さっている間に地形が変わり困っていたので    す、私達は毒の中和に急がねばならないのです。」


そう必死に訴える聖女。


運び屋の男は鼻を鳴らし思案しているようだ。


「出戻りですかー、面倒ですね、ですが大変立派な使命をお持ちのようだ」

「多少報酬を弾んでいただければ喜んでお引け受けいたしましょう!」


「貴様ぁー」


護衛隊長は苦虫を噛み締めた表情で唸る。


「良いのです隊長さん……ではお願いできますか?日向さん。」


 その声は澄んでいたが、

 どこか“役を演じている”ような硬さがあった。

 この時、まだ誰も知らなかった。

 この偶然が、やがて聖女の歩む道を静かに変えていくことを。

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