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プロローグ

 俺の心臓は今にも止まりそうであった。着なれない礼服を着て、というか礼服に着られて、俺は高級な絨毯の上を歩く。さながら気分は断頭台にこれから上げられる罪人だ。すれ違う人間は皆、纏うオーラが違う。俺みたいな貧乏人を捕まえてこんなところに寄こして、何をしようというのだろうか。


 あ、今すれ違った人美人だな。とか思ったとしても相手はどうせ貴族。ナンパでもしようもんなら即、斬首。


 ――どうしてこんなところに連れてこられちまったんだ。


 ここはこの王国の心臓部。王の居城、ラ・ランクトール城。俺のようなしがない雑貨屋が赴いていい場所ではない。


 うわ、あそこに置いてある壺見たことあるぞ。エルフの森の高級陶器じゃねえか。たしか職人が気難しい人で50年に一度しか作んないとかいう。長寿命のエルフならではのロングスパンに、聞いたときは呆れたものだ。買うとしたら俺の稼ぎ何か月分なのかね。いや、何年分って額かもな。


「何をそわそわしている、ジークリート・タディフ。背筋を伸ばさんか」


 前を歩く案内役の貴族様に咎められる。


「い、いえ。初めての王城にびびってまして。ほら、あの絵画とか有名なネモンの作品じゃないですか」


 そんな俺の不敬な態度に気を悪くした様子はなく、綺麗なブロンドの貴族様は意外そうな顔をした。そんな顔も絵になるような美人さんだった。貴族の人間と言うのは育ちがいいからか、食ってるものがいいからか、みんな美形なんだよな。


「ほお、博識だな。しかしそんなことを言いだしたらこの王城は歩けないぞ。お前が歩いているその絨毯だって、一切れで農民一人がひと月は暮らせよう」


 ……知ってますよ。気にしないようにしてるんだ。南の高山にしか生息していないゴラゴラヤギの毛から織られる最高級絨毯。ちなみにこの貴族さんは農民一人がひと月、なんて言うが、実際のところ()()()()()がひと月、だ。王城の全面に敷かれたこの絨毯、いったい総額でいくらになるんだろう……。気が遠くなる。


「ここだ。入れ、ジークリート」


 美人な貴族様に命令口調で促されて、俺はドデカい扉をくぐった。


「よく来たな、ジークリート・タディフ。君のことはレオーネより聞いておる」


 目も眩むような逆光。その中に黒いシルエットを作るのは、国王陛下その人だとすぐに分かった。腹の底を震わすような重厚な声音に、俺は思わず我を失ってその場に呆け、立ち尽くしてしまった。


「何をしているジークリート・タディフ――! 跪かんか――!」


 後ろにいた案内役の貴族様から小声でそう言われ、ハッと我に返る。そして跪いて最敬礼の格好をとった。


「なに、そう畏まらんでもよい」


 そう言う王の声色こそ優しかったが、そのオーラのような存在感が不思議と緊張感をもたらす。この人は敬わなければならない、と無意識のうちにそう感じてしまう。これが王のカリスマなのか。


「貴殿をここに呼んだのは他でもない。魔王の復活についてじゃ」


 そう言って一旦王は言葉を区切った。


「陛下はこの国の民が危機に晒されることを憂いておいでだ」


 王の言葉を継いだのは、王座の斜め前に立っていた初老の男だった。


「うむ。そこでじゃ、ジークリート・タディフよ。貴殿には魔王の討伐を依頼したい」


 なんのスキルもない俺が、世界を救うことになりました。



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