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エピソード5 そして少女達は星空を目指す

 埃を被ったガラスを拭き取り、輝く夜空に向けて天体望遠鏡を覗き込む。

 劣化で歪んでいたり、ヒビが入っていたけれど、それでも遥か遠くに煌めく星々を覗くことができた。


「……綺麗」

「良かった」

「昔は……もっと綺麗に見えたのかな」

「多分」

「……まだ、私たちの手は空に届くのかなぁ……」

「届くよ、きっと」

 一通り空を見渡し、顔を離すと私はぽつぽつと呟いていく。

 同時に思い出していくのはお婆ちゃんが語った昔々のお話。

 人は空を飛ぶ舟を作って、空の彼方まで旅をしたんだって。

 嘘みたいで本当のお話、手を伸ばしても絶対に届かない天の輝き。

 私も、いつか————


「いつか、あの光にたどり着こう」

「……そう、だね」

 私の言葉を聞いてリナちゃんは顔を伏せる。

 きっと、一緒には出来ないのだと、そんな事を考えているのだろう。



ーーーーーーーーーー



 それから私たちはダグザさんに連れられ、集落に戻る事になった。

 道中はただひたすら気まずい沈黙が流れ、何故か一緒についてきていた中年おじさんが必須に場の空気を変えようとしていたことがとても居た堪れない気持ちになった。

 多分悪い人ではないのだろう……。


「さて————リナ・アルステア」

「……はい」

 集落にたどり着けば、まぁ当たり前のことなんだろうけど殆どの人が集まって居た。

 これだけの大事になるなんて、とは思わない。バレたらこうなるはずだとは想像できたのだから。


「無許可での外出、及び非戦闘員を危険地帯に連行、無許可での戦闘行為など……どれ一つとっても重大な隊規則違反だ」

「返す言葉もありません」

「だろうな。……あそこの調査をしている時に、アレを運べないかと相談してきた理由は今回の件でわかった、お前の気持ちはわからんでもないが、だからといってやっていいことと悪いことがある」

「……はい」

 リナちゃんも馬鹿じゃない。外が危険だなんて事は私以上に理解しているはず。

 でもそっかぁ、相談した上で持ち出せないから、連れていくしかないって判断したんだね。


「……心苦しいが、掟に則り追放処分とする。荷物をまとめて、即刻立ち去れ」

「……はい」

「次! ヴィオメリア!」

「……はーい」

「お前は聡い子だと俺は思っている」

「……そんなことないですよぉ?」

「今更馬鹿っぽいフリをするな」

 状況判断、人間観察。集落の長とは別に人ぼ上に立つ人であるダグザさんは人を見る目がある。

 だからこういうときになるとまじめに問い詰めてくるのだから怖くて仕方ない。


「お前が外が危険だとわからないはずはない、ましてや無許可で出ていくことが規則に反するということもな」

「……それで?」

「一ヶ月の謹慎、ただし仕事はやってもらう」

「ふぅん、やだ」

 誰が素直に従うもんか。リナちゃんが追放されて私は謹慎? そんな妥当な展開なんてまっぴらごめん。


「やだ、と言ってもお前に拒否権は無い。あまりお父さんに心配をかけるな」

「……だってさ、出てきてくれる? お父さん」

「……ヴィオ、お前は……」

 野次馬の方へと視線を向ける。ざわつく衆人の中をかき分けるようにお父さんが姿を現した。


「お父さん、私リナちゃんについていく」

「……ダメだ」

「ふふ、心配だから? それとも親としての建前かな、止める気無いでしょ」

 複雑な表情を浮かべてこちらを見つめる。優しいお父さん、心配こそすれどきっと私が考えている事をわかっているのだろう。


「……お前は日に日にあいつに……母さんに似てくるな」

「そう、なんだ」

「アイツも頑固なやつだった……自分がしたいと思った事は誰の反対であっても無視して突き通す」

「……私はそんな事ないけどなぁ」

「そうやって話を濁そうとするのもあいつの癖だった」

「う……」

 お母さんは私が産まれてしばらくして、外で亡くなった。

 調査中に仲間を庇ったらしい。


「……親として、一個人としてお前のことは大事だ。失いたくはない、今日だってどれだけ不安だったか」

「……ごめんなさい」

「けれど、お前はアイツと同じで鳥籠の中の鳥にはなれんたちだ」

 お父さんに心配をかけた。それだけは否定しようのない事実で、本当に心の底から申し訳なく思う。


「きっと無理やり閉じ込めても、隙をみて出ていくつもりだろう」

「……」

「なら、そんな突然の別れを迎えるくらいなら……あいつを失った時のような思いをするのであれば……俺はお前を見送りたい」

「……うん」

 酷な選択をさせているのだという自覚はある。

 諦めて大人しくお家に帰るのがいい娘で、きっと私は親不孝な娘なのだろう。

 ————それでも。


「私はリナちゃんと行くね」

「……はぁ……わかった、引き止められないんだろう」

「うん」

「なら、行ってこい。お前も結局、狭い世界には耐えられないやつなんだ、行くからには……夢を叶えろ」

「うん、ありがとう、お父さん」

 そのやり取りを見ていたダグザさんは複雑な表情を浮かべながら、深い深いため息をついた。


「では……はぁ、リナ・アルステア、ヴィオメリア・テスタロッサ。両名を追放処分とする! ……荷物を纏めろ」

「わかり、ました」

「せめて一晩休んでからとかー……」

「甘ったれるな!」

「ですよねぇ」

 冗談のつもりで言ってみたけれど、ちゃんと怒られた。

 そんなこんなで無事、私ことヴィオメリアは集落を追放される身になってしまったのです。

 いつかの夢はきっと今なのだろう。そう思って私はお父さんと家に戻り、旅支度をする。もう二度と帰ってこれない我が家を、記憶にない母と、物心ついた時から一緒に暮らしていた父を想い、記憶の底に保存するように。


「……ヴィオ」

「なぁに、お父さん」

「どうしても辛くなったら帰ってこい。俺がなんとかしてやる」

「ふふっ、お父さんにできるの?」

「……なんとかしてやる」

 本当に不器用な人。きっとお母さんはこういうところが好きになったんだと思う。

 だって、私も不器用な人は好きだから。


「ありがとう、お父さん……じゃあね」

「……あぁ、行ってこい」

 話したいことは沢山ある。少ないけれど、大事な思い出を語ったり。

 けれどそういうことをすると、きっと辛くなるだけだから。だから私は笑ってその場を去っていく。



ーーーーーーーーーーー



「ヴィオメリア……」

「お、はやいねぇリナちゃん、待った?」

「ん、待ってないけど……本当に、良いの? 今からでも私がダグザ隊長に頭を下げて————」

「良いの、リナちゃんの方こそ良いの?」

「……何が」

 集落の入り口で待っていたリナちゃん。荷物を片手に背負いながら、暗い表情を浮かべている彼女に問う。


「お母さん、ちゃんと話した?」

「別に……」

「別に、じゃないよ、ちゃんと話しておかないと————」

「っ……!」

 やっぱり、お母さんとちゃんと話してない。

 リナちゃんが自分のお母さんのことを、よく思ってないことは知っている。

 それでも、だとしてもお別れの言葉くらいは言うべきだと思う。

 そう言おうとした矢先、リナちゃんの目が見開くようにして私の背後を見つめていた。


「お母、さん」

「リナ……あんた……はぁ、まさかあんたがね」

「……」

 気まずい沈黙。コツコツと、ヒールの高い靴の音を鳴らしてリナちゃんのお母さんは私たちの前まで歩いてくる。


「あたしが偉そうなこと言えた義理じゃないってのはわかってる。……あんたに母親らしいこと、何もしてこなかった自覚も……ある」

「それは……」

「けどね、礼を言えとは言わないさ。……お別れの言葉くらいは、言いにきてよ。寂しいじゃない」

「っ……」

「これでも、母親失格だとしてもあんたの親なんだから」

 そう言ってリナのお母さんはリナちゃんをぎゅっと抱きしめた。

 ……やっぱり、不器用な人が多いだけなのだろうか。

 接し方がわからない、どう声をかけて良いかわからない。

 そんな不器用な人たち、けれど、歪だとしてもこの二人は確かに親子なのだろう。


「……ごめん、お母さん……今まで、ありがとう」

「……礼を言われるようなこと、したことないよ」

「ううん……行ってくる」

「気をつけて……って、あんたはあたしの何倍も強いんだから、余計なお世話か。元気でね」

「うん、お母さんも……その、元気で」

 ぎこちない親子のやりとりを見届けた後、私とリナちゃんは手を繋いで集落を出て行く。

 もう二度と、ここには帰ってこれないのだと————


「よっ」

「……おじさん、まだ、居たんだ」

「あれ、何か冷たくない? 恩着せがましくしたくはないけど、一応命の恩人だし色々気をつかってやったんだけどなぁ」

「その事には感謝してますけど、明らかに怪しいので。なんで待ち構えてたんですか」

 集落を出てすぐに、例の中年の男が声をかけてきた。

 折角リナちゃんと二人旅、どうしようか考えることを楽しみにしていたのに……。


「いや、これからかわい子ちゃん二人だけで旅をするのも危険だろ? だからおじさんがついて行って色々教えてあげようって————」

「いらないです邪魔です消えてください!」

「ちょ、ちょっとヴィオメリア……」

「んー、辛辣。最近の若い子は言葉が強くておじさんちょっと泣きそうだ」

 確かに色々厳しいのは事実だけれど、だからといって何者かもわからないおじさんと旅をするなんて冗談じゃない!


「ま、でもあれだ。かわい子ちゃんたちはアレがないだろ? 旅の目的ってやつ」

「それは……」

「私たちは星空を目指します」

「そういう夢も良いんだけどさ、現実的な目的と手段ってやつ。どうやって宇宙(そら)に行く気だ?」

「う……そ、空を飛んで……?」

「そりゃまたメルヘンだな」

 ぐさり、と突き刺さる。否定しようとも確かに手段なんて全く思いつかない。

 おばあちゃんの語っていた空を飛ぶ舟も、どういうものかすらわからないのだから、夢物語だと言われてしまえばその通りなのだろう。


「奇しくも俺も最後の目的地は宇宙にある。だからいずれ行くつもりだし、手段も幾つか考えてはいる」

「っ、それを教える代わりに……ってことですか」

「ん、いや違う違う! 俺ってそんなやつに見える?」

「……その無精髭が怪しさを6割マシにしてます」

「……そうこまめに手入れできないんだから勘弁してくれ」

 どうやら話を聞く限りこの人には現実的な手段とやらがあるらしい。


「目的地が一緒だと言っても俺の旅は危険だ。正直言って二人を連れて行ってもお荷物にしかならない」

「じゃあ、なんで————」

「話は最後まで聞きな。だから次の目的地までの間、俺が教えられる事をお前たち2人に教えてやる。この世界で旅をして生き残る術と、古き時代の知恵ってやつをだ」

「……見返りは、なんですか」

「んなもんいらねぇよ、ただ————」

 そう言って男は彼方を見つめるように西の空を眺めて。


「いつか、お前たちが旅の途中に俺と同じ髪色の男に出逢ったら、早く来いよって伝言を伝えてくれると助かる」

「どういうことですか、それ」

「まぁ、その時になればわかるよ。んで、どうする? 断って2人で頑張ったって良いぜ、応援するよ」

 おじさんが訪ねてくる。正直信用はできない、悪い人ではないのだけれど、何を考えているのかがわからない不気味さも感じる。


「あなたは、強い……ですか?」

「リナちゃん?」

 迷っているとリナちゃんが訊ねる。


「まぁそれなりにはな。こう見えても昔は軍隊でー……って言ってもわかんねぇか。一人で今まで生き延びてきただけはあると思うぜ?」

「……正直、これから先あたしだけでヴィオメリアを守っていける自信が……ない」

「リナちゃん……」

「だから、ヴィオメリアを守るための力と知識を教えてもらえるのなら……あたしは、一緒に行きたい」

 ……私は自分のことだけを考えていた。結局、この先何があっても私は私自身を守ることなんてできない、弱いのだから。

 守られる存在でありながら、守ってくれるリナちゃんのことを考えてあげられなかったのだと、反省するように俯いた。


「もちろん、君だけじゃなくてその子にも最低限の自衛方法は教えるつもりだぜ?」

「……ヴィオメリア」

「……わかった。うん、ごめんなさいおじさん、お世話に……なります」

 つまらない意地や疑いを持って死ぬ、そんな事はあってはならない。そんなことでリナちゃんを悲しませる事になるくらいなら、できることをやった上でダメだったねって、二人で死にたい。

 だから私は頭を下げておじさんにお願いする。これからの旅路に必要な生きる術を教わるために。


「よし、じゃあ短い間だろうがよろしくな、かわい子ちゃんたち。あぁそれと————」

「まだ、何か?」

「おじさんって呼ばれ続けるのもアレだし、名乗っておこう! 俺は————ジーク、ジークフリードだ。よろしくな?」

 おじさんがキザったらしくウインクしながら名乗る。


「私はヴィオメリア」

「あたしはリナ、よろしく……ジークフリード、さん」

「おう、よろしく!」


 そうして私たちは旅を始めた。

 いつか星空へと辿り着くための、暗い昏い空に広がる海へ泳ぎに行けるように。

 彼方の————煌めく星に手を伸ばすための旅を。

 

 これは、星空を目指す私たちの出発までのお話。


     「昏き空海のヴィオメリア」完

ESN大賞7応募作品です。

以上で短編、「昏き空海のヴィオメリア」は完結となります。

思いつきで百合を書きたいなーと思いつつ、書きたいものを書くというスタンスからアイディアが色々混じって産まれた繋ぎのような短編です。


これがどのように続くのか、気になる、応援していただけるという方は評価や感想、拡散よろしくお願いします♪

X(旧Twitter)で更新報告をしています、更新を心待ちにしてくださる方はフォローお願いします♪


X(Twitter)→@You_Re622

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