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エピソード4 昏き空海を見上げて

 突如動き出した人形に襲われて、逃げ込んだ場所は物置部屋。

 調査隊が来た時に色々と漁ったのであろうこの部屋は、最近開けられたと思わしき箱などが散乱していた。

 私たちはこの部屋に逃げ込んですぐに色々なものを扉の前に置いてあの人形の侵入を防ごうとした。


「不安だけど、取り敢えずこれで……」

「うん……」

「ごめん、これならしっかり武器を持ち出して……いや、そもそもこんな所に連れてくるなんて言わなきゃ……」

 リナちゃんは良く自分の選択を後悔する。それはきっと自信のなさの表れなのだろう。

 まぁ、今回の件に関してはやってはいけない事をやった結果なのだから、仕方のない反省ではある。


「どうしよっか」

「今の武器で倒すのは……多分無理」

「私は戦力の足しにすらならないからね〜」

「ヴィオメリアに危険なことなんてさせられない! ……ぁ、その、もう十分危険な目に合わせちゃってるよね」

「反省は後にしよう? どうすればこのまま2人が無事に帰られるか、だよ」

 そんなことないよ、大丈夫。なんて言葉はいくらでもかけてあげられる。

 けれどリナちゃんはそんな言葉を信じてくれるほど馬鹿じゃないし、慰めが必要なほど弱くもない事を私は知ってる。


「……とにかく待って、あいつが離れてくれる事を願うしかない」

「持久戦か〜、こりゃ帰ったら怒られるねぇ」

「アタシは……いや、全部アタシのせいだから」

「良くて追放かな〜」

「ヴィオメリアは多分、大丈夫」

「大丈夫であろうとなかろうと、私はリナちゃんとお別れするつもりはないよ?」

 きっと戻ったらリナちゃんは自分が連れ出した、とか言って全責任を背負うつもりなのだろう。

 実際、私は私の意志で出たのだから責任は私にもあるのだけれど、それでもリナちゃんは隊規則違反で追放、私は謹慎だろうか。

 二度と会えなくなるのは嫌だな……うん、嫌だ。


 けれど決心したところで非力な私に何か妙案が思いつくことはなく、扉の向こうからは不気味な音声とがしゃん、がしゃんと歩く音が聞こえていた。




「食料も尽きる……一か八かで出るしかないかな」

「だとしたら……私が囮にならなきゃね?」

「ヴィオメリア、何を————」

「だって、私1人じゃ扉の前に落ちたアレ、動かせないし」

 この状況で生存確率の高い選択肢を考えるのであれば当然の帰結。

 身体能力も判断力も現場慣れも、全てにおいてリナちゃんの方が優れているわけで、私1人が逃げても何もできないのだから、これは仕方のないことなのだと、自分に言い聞かせる。


「ダメだよ、ヴィオメリア!」

「大丈夫、リナちゃんが先に戻って助けを呼んでくるだけ、私はほら、小さい……から……? いけるいける!」

 から元気で自分を鼓舞してリナちゃんに選択を強いる。

 けれどきっと彼女は自分から選べない。

 だから私が選ばせるしかないのだと、積み上がったバリケード用の荷物を退かし始めた。

 一度止まってしまえばきっと私の手足は震えが止まらなくなってしまうだろうから。


「っ、ヴィオ————」

「!?」

 唇を噛み締めるような苦渋の決断を、迷う暇も与えないように突きつける。きっと私はとてもひどい事をしているのだと思う。

 けれど、そんな罪の意識を吹き飛ばすように、扉の向こうで大きな音が響く。


「誰か来たみたい……!」

「そんな、ここには何も————」

 おそらくは扉を蹴りあけた音。その後、重く響く銃声と、パラララ、とばら撒かれるような銃声が響く。


「リナ! ヴィオメリア! どこだ!?」

「この声————」

「ダグザさん!?」

「そこか! 無事か!?」

「リナちゃんがちょっと怪我しちゃって……んしょ、なんでここに……」

 扉の向こうから聞こえた声は調査隊を率いるダグザさんの声だった。

 リナちゃんと一緒に荷物を退かして扉を開けると、そこにはダグザさんと調査隊の人たちが居た。


「お前たち……くそ、叱るのは後だ!」

「どうしてここに居るって……」

「それはな、お前らがここに向かうのを見たって人が居たんだよ」

 リナちゃんが震える声でダグザに訊ねる。上司相手ともあっては、明らかな違反行為をして堂々としていられるほど強い子ではない。

 ダグザさんはそう言って視線を別の方向に向けると、そこには倒れた人形の残骸を漁る男の姿があった。


「やっぱ目覚めたのか……上手くやってりゃ良いんだが」

「おいあんた! 用事は済んだか?」

「ん、あぁ……おー! 無事だったかかわい子ちゃん達! いやー、俺があの時ナンパしてりゃこうはならなかったかも知れねぇが、仲良さそうな女の子の間に割って入る主義じゃなくてなぁ……ま、無事だったのなら何よりだ。こんなかわい子ちゃん達を失うなんてあっちゃなんねぇことだからな」

「……何、この人……」

 男はダグザさんに声をかけられるとこちらへ振り向く。

 青みがかった黒髪に無精髭を生やした、無造作なオールバックの中年男……といった風体。

 おじさん趣味はないけれど、軽薄な振る舞いから遊び慣れている人なのかなと思いつつ、大事なのは私はこの人を“見たことがない”ということ。


「この人は……自称旅人らしい。別の場所から俺たちの集落に向かっている途中、ここに向かっていたお前達を見たそうだ」

「ま、さすらう伊達男ってところだな、よろしく」

「はぁ、どうも……」

 ウインクをしながら指をシュッと振ってポーズを決める。

 なんというか漂う胡散臭さがちょっと気に入らない。いや、この人のおかげで助かったのだけれど。


「あの、ダグザさん……その、今回の件はアタシに全ての責任が————」

「当たり前だ馬鹿! さっさと帰るぞ、お前には然るべき処罰を与えないといけない」

「あっ、う……でも、その……」

 本当に怒ってる時のダグザさん、その剣幕に押されてリナちゃんは流されるまま諦めようとしていた。

 そんな時————


「おっとダグザさんとやら、俺はまだ調べたい事があるんでもうちょっと残りたいんだが」

「あんた……俺たちはこいつらを連れ帰りに来ただけであんたのお守りをしに来たわけじゃ……」

「いやいや、おたくらも知っておいた方が良いんじゃないかな〜、あれ、前来た時は動かなかったんでしょ? 他の場所のも同じように急に動き出すかもしれないんだし、原因調査といきましょうや」

「それは……そうかもしれないが」

 まるで助け舟を出すかのように、男がリナちゃんの腕を掴むダグザさんの手に触れて、離すように促しながら、言いくるめようとしている。


「てなわけだかわい子ちゃん達。ここにはなんか目的があって来たんだろ? おじさんらはもうちょっとここに居るから、用事済ませて来な」

「なっ、あんた何を勝手に————」

 そう言って男は私たちに向けて目線で行くように促す。

 俯くリナちゃんの手を、私は咄嗟に掴んで。


「ありがとおじさん! 行くよリナちゃん!」

「えっ、ちょっとヴィオメリア————」

「おいお前らっ、待て!!」

「まーまー、無理やり連れ帰ってまた抜け出されたりしたら面倒でしょう。若人(わこうど)の過ち、どうせならやり切らせてやりましょうよ」

「……なんなんだあんたは……」

「俺? 俺はさすらいの伊達男、俺は俺のやるべきだと思った事をするだけさ」




「ヴィオメリア……痛い……」

「あっ、ごめんね? 傷……痛むよね」

「ん……それより何で……」

 銃弾が掠めた方の腕を引っ張っていたからか、リナちゃんが苦しそうな声で静止を求めて来た。

 ぱっと手を離すと、労わるように顔を覗き込んでみる。


「リナちゃんが見せたいものがあるって連れて来たんでしょ? このまま帰っちゃったら気になっちゃうし、襲われ損だよ!」

「でも、あんな危ない目にあって————」

「しつこーい! 良いからほら、この先?」

「う、うん」

 ごちゃごちゃと後悔やら何やらでうじうじとしている様を見るのは誰であっても気分は良くない。

 一喝するようにそう言うと、目的地であった扉を開く。


「————これって」

 扉の先にあったのは、砕けたガラスに覆われた部屋。その中心に置かれていたのは、天に伸びるように彼方を見つめる大きな筒。


「天体望遠鏡……ボロボロでそこまではっきり見えないけれど、きっとヴィオメリアが好きなものだろうって」

 本の中でしか知らなかった名前。かつて星空のはるか先、光の速度で何年もかかる空海に浮かぶ星々を観るための道具。

 いつか目にしたいと思っていたものが目の前にあった。


「髪飾り、嬉しかった。けれど、私がヴィオメリアに返せるものなんて、何もなかったから」

 天体望遠鏡に見惚れる私の手を取って、エスコートをする様にそぼ足元まで連れて行ってくれる。


「いつもありがとう、アタシは……ずっとあなたに憧れていたの、ヴィオ」

「リナ、ちゃん……」

 涙を蓄えながら、慣れない、精一杯の笑顔を向けてくれるリナちゃん。

 空に広がる満点の星空よりも、初めて見た彼女の表情に、私は手を伸ばし————


「ありがとう、私も大好きだよ、リナちゃん」

 ぎゅっと抱きしめ、涙を拭うように口づけをした。

ESN大賞7応募作品です。

応募期間中はなるべく早く更新頻度を高めて、できる限り書き上げていく予定です!


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