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エピソード3 星降る丘を目指して

「……えっ、外に?」

「うん、見せたいものがある、から」

 デートからしばらくして、次のお休みの前日。

 いつものように夜、積み上げられたスクラップの上で2人、星空を眺めているとリナちゃんが突然提案してきたのだ。

 外に見せたいものがあると。


「リナちゃんからデートのお誘いしてくれるのは嬉しいけど……いいのかなぁ」

「前に調査に行って、危険なものもなかったところだから……多分」

「多分かぁ」

 いまいち不安が拭えないリナちゃんのお誘い。

 なんでも外の世界は危なくて、私のお母さんは外に出て亡くなったらしい。

 だから、調査隊以外が外に出る事は原則禁止、なんだけど……。


「嫌なら、諦める」

「……ううん、折角のお誘いだもん、行こう?」

「……うん、ありがとう、ヴィオメリア」

 私は悪い女だから、ルールよりも大好きな友達のお願いを優先してしまうのです。



ーーーーーーーーーーー



「準備、良い?」

「ふぁ……んー……多分……」

「朝、弱いんだ」

「んー……」

「ほら、ここ寝癖ついてる」

 朝は嫌い、ほんっっっっっっとうに嫌い!

 だらしのないところ、リナちゃんには見られたくなかったのに。

 あぁでも悲しいかな、思う事はできても行動はできないのです。おのれ太陽。


「どこ行くのぉ」

「北の丘、街から離れたところにあるから、ちょっと歩く」

「んー……」

 普段、調査は街などを目的地に設定することが多い。

 けれど最近は街から拾えるものも少なくなってきて、一度に複数日かけて調査に行くことも増えたらしい。

 今回の目的地は何日もかかるほど遠くはないが、それでもこんな早朝から出ないと今日中には帰ってこれない距離があるらしい。


「ほら、しっかり」

「眠いよぉ……」

「行くの、やめる?」

「んー……行く……」

「わかった、行こう」

 眠気のせいでいつもの余裕を持ってリナちゃんを導いてあげる最強にカッコよくてかわいい私じゃなくなっている。

 リナちゃんが優しい声音で語りかけてくれるのはそれはそれでちょっと良いかなって思ったけれど、違う、これは違う。

 なんて心の中の私が悶えたところで、かくんかくんと今にも眠りに落ちそうな私の体が応えてくれるわけもなく、まるで子供のように手を引かれるまま、長いお出かけが始まった。



ーーーーーーーーーーーー



「そろそろ目が覚めた?」

「はい……大変お見苦しい姿をお見せして……」

「? ヴィオメリアはいつも可愛いよ?」

 くぅ、この女たらしめ! 良い顔でさらりとそんな事を言うな! 好き!


「うぅ、寝起きの姿は見られたくなかった……」

「ちゃんと寝たんだから偉いよ。でも毎日もうちょっと早く寝た方がいいと思う。夜の10時か11時くらいに寝ると身長が伸びるって」

「私のことちびだってか!?」

「言ってない」

 寝起きの恥ずかしい姿を見られたり、歩き始めてちょっ疲れたこともあってか情緒が不安定になる。

 リナだって、毎日私のところに来るくせに。


「リナちゃんだって、なんだったら早起きしてる分私より睡眠時間短いよね。なのにこんなに伸びて、ふこーへーだ!」

「アタシはほら、外で働いてるし」

「私が引きこもりの無職だってか!?」

「言ってない」

 面倒くさい私のだる絡みにもちゃんと反応してくれる。リナちゃんは本当に真面目ないい子。

 こんないい子を不良だとか言うのだから、集落の連中は見る目がない。

 ……いや、今やってる事を考えたら十分不良なのかもしれない。



ーーーーーーーーーー



「見えてきた」

「はぁ、ひぃ……や、やっとぉ……?」

 数時間、もはや私の足は生まれたばかりの家畜の如く震えていた。

 けれどリナちゃんの方はと言うと息一つ乱れていないあたり、本当に鍛え方が違うのだろうと納得するしかなかった。悔しい。


「ここから入れる」

「うぇー……屈まないといけないの……」

「ほら、行こう?」

 たどり着いた場所は元々綺麗な半球状だったのであろう廃墟。

 昔の人たちが作り、時間と共に朽ちてしまった文明の跡。

 もっとも、今の世界にはこういうものの方が多いから、別にこれそのものに何かを思うほどのこともないのだけれど。

 それはそれとしてネズミのように侵入するのはちょっと可愛くないので不満です。


「けほっ……埃っぽい」

「廃墟なんて基本埃っぽいよ」

「そうだけどぉ」

「目的地は上だから、気をつけてね、転ばないように」

「うん……暗い、手、握って?」

「ん……」

 携行ランタンに火を灯し、先へ進もうとするリナちゃんの背をぎゅっと掴む。

 流石に見知らぬ場所でこんな暗闇の中進むのは怖いもの知らずと名高い私でも怖い。


「ここ……元々はなんの施設だったんだろう」

「多分、星にまつわる施設」

「へぇ、星に……」

 ぎゅっと、温かいリナちゃんの手を握りながら歩き始める。

 キョロキョロと見渡しては見るが、暗くてランタンの灯りが届く範囲までの朧げな景色だけが目に映る。


「星……だから、私に……?」

「うん」

「そっか……」

 星空を眺めるのが私の日課。毎日のように付き合ってくれるリナちゃんはそれを誰よりも理解してくれている。

 そんなリナちゃんがこんな場所に私を連れて来たいと思ったのなら、それはもう告白なのではないだろうか? いや、実質告白。


「えへへ」

「? どうしたのヴィオメリア」

「私って罪な女だな〜って」

「……? 変なの」

「変なの!?」

 ニヤニヤしているのが顔に出ていたのだろうか、リナちゃん怪訝そうな表情でこちらを見る。

 そしてボソッと言われてしまうと、流石の私でもちょっと傷つく。


「この上、だけど……」

「……何、あれ……?」

 そう言って階段を上り、最上階につながる踊り場の先にある扉を見る。

 重く閉じたドアの前には、ボロボロの……何か丸っこい頭をしたずんぐりむっくりな人形の置物が立ち塞がるように設置されている。


「前来た時は、あんなの置いてなかったはずだけど」

「えっ!? じゃ、じゃああれ不味くない……?」

「もしかしたら————」

 ぎゅ、と握った手に力が篭る。警戒している、そう感じたのも束の間のことだった。


『ニン、ゲン』

「っ!?」

「!! 逃げるよヴィオメリア!」

 ギギギ、と鈍く擦れる音と共にそれはこちらを向いた。

 埃まみれの頭のガラスのような部分、その奥にはこちらを捉えるような二つの赤い灯が鈍く光を放っていた。

 リナちゃんは私の手を引くと走り出す。


『ニン……ゲン、コ、コロ……ス』

「殺すとか言ってる!!」

「舌噛むよ!」

 そう言ってリナちゃんは私の身体を遮蔽物の後ろに隠すと身を屈むようにと頭に手を置く、次の瞬間、ヒュンと何かが頭上を掠めていった。


「っち、なんでこんな時に……! 前来た時は動かなかったのに!」

「リナちゃ————ひうっ」

 物陰から様子を伺うリナちゃん。動く人形はこちらに向けて指から銃弾のようなものを発射していた。

 リナちゃんは太ももに取り付けていたホルスターから拳銃を取り出すと1発、2発と撃ち込む。


「やった!?」

「いや————」

 放たれた弾丸のうち、1発は胴体、もう1発は頭部に命中する。

 頭部に当たった弾丸はぱりんと球状に覆うガラスを割り、人形は少し仰け反るが……。


『サ、サツ……サツガイ』

「っ!? 危ないっ!」

 しかし人形は動きを止めず、暴れるように銃弾を撒き散らすと、私たちの上にあった鎖に吊られた看板のようなものがちぎれ、落ちてきた。


「きゃあっ!」

「出口が……」

 落ちてきた看板は私たちの後方にあった扉に寄りかかり、出口を塞いでしまう。

 頑張れば2人で退ける事は可能かもしれないが、暴れる人形の前でそんな悠長なことはできない。


「っ、ヴィオメリア……こっち!」

「っ、うんっ」

 リナちゃんが懐から丸いものを取り出すと、カチカチと二回引き金を押してから人形の足元に投げた。

 ころころと転がったそれは、一拍の間を置いたあと、爆発してキラキラとした何かが混ざった煙幕のようなものが部屋中に広がった。


「今のうちに、っ!」

「リナちゃん!?」

「く、ぅ、こっち……!」

 目眩しをしているうちに看板を退かそうと思ったのか、立ち上がったリナちゃんの肩を銃弾が掠める。

 正確な位置はわかっていないようだが、私たちがいる辺りを大雑把に撃ちまくっている。

 リナちゃんは肩を押さえてしゃがみ込むと、私の手を引いて別の部屋に逃げ込んだ。


「はぁ、はぁ……こんな事になるなんて」

「これから————どうしよう」

 逃げ込んだ物置のような場所、窓から射し込む陽の光を眺めながら、私たちのデートが危険なものに変わってしまった事を後悔する。

ESN大賞7応募作品です。

応募期間中はなるべく早く更新頻度を高めて、できる限り書き上げていく予定です!


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