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エピソード1 昏き大海を夢見て

 夜、空を見上げる。

 暗い昏い、星の大海。

 大昔の人はそこに手が届き、遥か海の彼方に舟を出したんだって、おばあちゃんから聞いた。


「ヴィオメリア」

「あっ、リナちゃん……」

「また空見てるんだ? 楽しい?」

 そっけなく名前を呼ぶ声が聞こえて振り返る。

 そこに立っていたのは、白のメッシュが入った黒髪の女の子、私の大切なお友達のリナちゃん。


「楽しいよ、あのキラキラしたお星様に、何があるのかなって考えるだけでわくわくするんだ」

「ふぅん、そう」

 そっけなくて、みんなからは怖いって思われることも多いリナちゃん。

 だけどこうして気にかけてくれたり、優しいところは知ってる。

 口下手で、お話が苦手だからこうやって話を終わらせちゃうけど、気まずくなって何か言おうと考えている時は決まってよく似合ったウルフカットの襟足を指でいじる、可愛い女の子。


「リナちゃんは暇だったの?」

「まぁ……」

「そっか、ダメだよ〜お肌つるっつるつやっつやですべすべなんだから、早く寝て早く起きて維持しないと」

「なにそれ、ヴィオメリアだって肌もちもちして————なんでもない」

 パタ、パタと足を揺らしながらリナちゃんをからかってみる。釣られて私のことを褒めようとしてくれたけれど、恥ずかしがってぷい、と顔を逸らしちゃった。


「ねぇリナちゃん」

「何?」

「リナちゃんは……夢はある?」

 リナちゃんが気まずくならないように話題を振る。と言っても個人的に興味があることだけれど、そんな質問を聞くとリナちゃんは真剣に考えてくれる。


「アタシは……自由に世界を歩けるなら、それでいいかな」

「おぉ〜、さすらう旅人かぁ、リナちゃんは流石にロックだねぇ」

「そんなんじゃない」

 照れてるのか恥ずかしいのか、またくるくると指先で毛先を遊ぶリナちゃん。


「ヴィオメリアは?」

「私は昔からずーっと変わらないよ〜」

「……宇宙(そら)に行きたい?」

「そうそう、覚えてくれてたんだね〜」

「別に、ただ毎日夜空見てるから、嫌でも覚える」

「毎日私のことを見てくれてるんだー」

「ちがっ、たまたま目に入るところにヴィオメリアが居るだけ……」

 反応が可愛くてついついからかっちゃうけど、あまりやり過ぎると次の日はお話してくれなくなっちゃうから、この辺りでやめておく。

 カッコいいけど可愛いリナちゃん、顔を真っ赤にしながら少し機嫌悪そうに目を逸らしちゃった。


「それで————」

「よう、愛しのヴィオ。まーたこんな所で夜ふかしか? 身体壊すぜ?」

「……リダン、私が何をしようと私の自由だよ」

 楽しいことだけが続かないのが人生、私が愛しのリナちゃんと楽しくお話をしていた所に、邪魔な男がやってくる。


「おいおい、自由なわけないだろうが。 この集落に居る若い奴らの数は限られてる、ジョンとティナは出来てるしアレンはエキドナを狙ってる……はっ、俺はあんな根暗女は趣味じゃねぇが、ヴィオ、お前は良い! 顔もその跳ねっ返りの性格も俺の好みだ」

「私は好みじゃないかな、可愛くない」

「はっ、そんなこと言ってると行き遅れになるぜ? ただでさえ数がすくねぇのに子供も作らずに老いぼれて死ぬつもりか?」

「私がその気にならなかったら君は一生童貞って事? いいね、それなら独り身でも一生楽しめそうなネタになるよ」

「てめぇ————」

 人の人生を勝手に決めるような言い草が大っ嫌い。

 だから売り言葉に買い言葉でリダンを馬鹿にする。プライドだけは高い男だから、すぐに頭に血が昇る。


「アンタ邪魔」

「あぁっ!? はっ、不良女じゃねぇか、こんなのとつるむなって前言ったよなぁ?」

「君とつるむより何億倍も……いや、比較にならないほど幸せになれるから無理な話だねー!」

「んだと……クソアマが……!」

 私とリダンの間に割って入るように立ち塞がるリナちゃん。

 さらっとこうやって守ってくれるのがリナちゃんのカッコいい所ではあるけれど、私が調子に乗って馬鹿にし続けていると、リダンは本気で起こったようでリナを退けてこっちにこようとする。


「一回きちんと躾けてやらなきゃな————」

拳を振り上げながらこっちにこようとするリダン、けれどその腕をリナちゃんが掴むと、流れるような動きで捻ってリダンを捕らえて見せる。


「ヴィオメリアに手出したら、許さないから」

「っ、いだだだっ、このっ、やめろ不良おん————」

「何か言いたいのなら言いなよ」

「ぐぅ、いっ……わかっ、わかった! わかったから離せっ!」

 ぎりぎりと腕を曲げちゃいけない方向に曲げようとするリナちゃんに、リンダは涙目になっていた。

 可哀想に、とても痛そう。


「クソが……覚えてろよクソアマ共!」

「二度とこないで」

「来ないでね〜」

 負け犬のようなセリフを吐きながら、痛む腕をさすって逃げ帰るリンダ。

 なんとも中途半端、唯我独尊を貫き通して私たち2人とも妻にするとでも言って見せたら少しは考えたのに。


「……ごめん」

「? どうしたのリナちゃん」

「アタシが居ると、ヴィオメリアに迷惑がかかる」

 しゅんとした様子でそんな事を言ってしまうリナちゃん。

 とん、と座っていた所から降りてリナちゃんと同じ大地に足をつける。


「大丈夫、私は私が生きたいように生きてるの、リナちゃんがそういう事を気にする必要はないよ」

 私よりも頭ひとつ分、いやもうちょっとだけ背の高いリナちゃん。

 それを見上げて微笑んであげる。それでも申し訳なさそうにするのだから、もう少し楽に考えて生きていけば良いと思う。


「大丈夫だって、リナちゃんは自分の思う通りに生きよう?」

「ヴィオメリア……」

「もう、ヴィオでいいのに」

 ぎゅぅ、と腕を回して抱き寄せる。冷たい雰囲気を纏っていても、彼女はこんなにも暖かい。

 体温高いのかな、羨ましい。


「名前は、大事だから」

「それはそうだけど……まぁ、良いや。気が向いたらヴィオって呼んでね?」

「ん……」

 いつかあだ名で呼んでもらう約束をしつつ、それから私たちは静かに星を眺める。

 綺麗な月夜の元、大昔はこの満点の星空を見ることができる場所は限られていたなんて、とても勿体ない事だと思う。


「ねぇ」

「ん」

「明日も星、見えるかな」

「どうだろ」

「そこは見えるよって言ってほしかったなぁ」

 リナちゃんの手に自分の手を重ねながら呟く。けれどこういうロマンチックなやりとりにはどうも適性がないみたい、とても残念。


「明日は……雨が降るかもしれないから」

 リナちゃんはそう言って立ち上がると降りて立ち去っていく。


「もう行っちゃうの?」

「明日……いや、もう今日か。早いから」

「そっか、残念」

「ん、またね」

「いっぱい寝るんだよ〜」

 リナちゃんを見送りながら手を振る。一人で星を見てしばらく、眠くなったので帰って寝ることにした。


 今日も変わらない一日だった。きっと明日も同じ1日が続くのだろう。

 そんな事を考えながら、私の1日は終わりを迎える。

ESN大賞7応募作品です。

応募期間中はなるべく早く更新頻度を高めて、できる限り書き上げていく予定です!


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