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透明人間と透明な人間

怪しいものじゃないよ。あやかしだよ。

どうも、あやかしの濫です。

この物語は、前に書いた作品で、初投稿の試しに出しました。

 面白いと思ってもらえたら、幸いです。


 商店街が慌ただしくなる夕暮れ、僕はいつもの様に小腹を満たす為に商店街の中にある肉屋に寄った。

 肉屋は大勢の客が新鮮な肉を買っている。その為、僕はこのお店の人気メニューであるコロッケにありつく事ができなかった。人が捌けるのを店員に悟られない様に辺りを見渡して待つ事にした。

 絶滅寸前の商店街文化の現代でこの街の商店街は他よりも賑わっていた。奥の方でパン屋と惣菜店が今日の店仕舞い前のセールを始めていた。

 前を見るとちょうど、今夜使う肉を決めたのか、最後の客が会計をしていた。

 僕は次は店員に気づかれる様に並んだ。

「コロッケ一つ下さい。」

「あいよ、九十五円ね。」

「百円でお願いします。」と財布から百円玉を取り出した。

「これ、お釣りとレシートね。あと、今から揚げるから待っていてね。」と店員はレシートをわたして、店の奥へ行ってしまった。

僕はレシートと五円玉をポケットに突っ込んで待つ事にした。ふと、セール中の店はどんな感じかと思い横を見てみると予想通り沢山の人が押し寄せていた。そんな中、僕は自分の目を疑う光景を見た。

 パン屋の方だ、机に並ばれていた惣菜パンが一つ中に浮き始めたのだ。ゆらゆらとふんわり浮くのではなく、持ち上げられる様に浮き始めたのだった。目を凝らして見るとコートの袖が惣菜パンを持ち上げてるのがわった。コートの袖から辿る様に上を見る。赤いマフラーを巻いた顔のない男が立っていた。透明人間だ! と僕は突際に思った。

顔のない男は手に取った惣菜パンをポケットに突っ込み立ち去っていった。

 あれ? あの人、お金払ってないよな。盗みだな、万引きだよな。初めてみたかも……と他人事の様に思っていると、

「お客さん、」と肉屋の店員が僕を呼んだ。コロッケが上がったみたいだ。僕はコロッケを受け取りお礼を言って顔のない男を追う事にした。

 顔のない男は人混みの中を真っ直ぐ歩いていた。時々、他の人にぶつかったが、全く動じない。ぶつけられた方も気づく事なく平然としていた。

 僕は顔のない透明人間の男に追いつき声をかけた。

「あの!」

顔のない男は声をかけられた事に気づき振り返ってくれた……のかも知れない。正直、どこを向いているのか分からない。

「ポケットの惣菜パン、お金払いましたか? 払ってなかったら……」その後を言おうとしたが、

「はっは、驚いた。僕が見えるのかい?」

透明人間は少し嬉しそうにそう言った。

「残念だけど、君の善意は意味ないよ。

君が恥をかくだけだ。」と男は言った。

「は?」

僕は眉をひそめて首を傾げた。それとなぜだか、少し小馬鹿にされた気がして僕はイラッとした。

 その時、通りかかった警官が僕に声をかけて来た。

「君、どうしたんだい?」そう聞かれたので僕は目の前の透明人間を指差をしこう言った。

「このコートを羽織った男がそこのパン屋で惣菜パンを盗んだんです。」

 警官は指を差した方を見た。しかし、見えていないのか、警官は帽子のつばを持ち上げて辺りを見渡す素振りを見せた。

「君、誰の事を言っているんだい? コートを羽織っている男は何人かいるんだが、」

「いや、目の前の赤いマフラーを巻いた顔のない男です。」と僕は目の前の透明人間の特徴をさらに付け足した。

「何を言っているんだい君は? 赤いマフラーを巻いた男なんて、いないじゃないか。第一、顔の見えないなんて、そんなふざけた事を言わないでくれ。

大人をからかうのはもうするなよ。」

 警官は嘆息を吐いて立ち去っていった。

立ち去る警官の背中を眺めながら僕は言葉を漏らす。

「なんで、分かんないんだよ……」

「それはね。」透明人間が、いたずらっ子の様にどこにあるか分からない口を開く、「僕が透明人間だからだよ。」

僕は透明人間を睨みつけた。

「そう睨むなよ。僕を見つけてくれたお礼に教えてやるよ。」男はそう言って歩みはじめた。

僕は黙って付いてった。


「何飲む? コーヒー?」

「ココアでお願いします。」

「アイス? ホット? アイスでいい?」

「ホットでお願いします。」

「あいよ、」

そう言って透明人間は自販機のココアを押した。お釣りと缶が落ちてくる音が街が見える丘に響き渡った。

 僕は透明人間が万引きしている所を目撃して捕まえようと声をかけたが、警官にはこいつが見えない様で僕は変な奴扱いされてしまった。

 透明人間は自分の事を教えてくれるらしく、僕はこのまま帰るも癪なので黙ってこの見晴らしのいい丘まで着いて来た。

「ほいよ。」

透明人間がココアを手渡して来た。ココアはしっかりホットで、暖かった。

透明人間は続けて、缶コーヒーのボタンを押した。それは彼の分で缶コーヒーを手に取り、近くのベンチに座ってから缶コーヒーの蓋を開けた。

「にしても、よく僕の事を見つけたね。」と透明人間は言いながら缶コーヒーをコクリと一口飲んだ。

「たまたまですよ。その辺見てたらあんたが、万引きしてるとこがちょうど見えたんで、」ココアで暖をとりながら強い口調で言った。

「そっか、それじゃあ、僕がなぜ、透明人間なのか、教えてあげるよ。」透明人間はどこか絵本を読む子供の様に楽しそうに話し始めた。対して僕は、先ほど食べ損ねた。冷めたコロッケを袋から開けて食べ始めた。

「僕が透明人間になったのはある日突然だったんだ。目が覚めて顔を洗う為に洗面台に行った時、鏡を見たらそこには僕は居なかったんだよ。いやぁー驚いたね。僕は慌てて、自分の手を見たよ。手はあった。あるのは分かるんだけど、自分でも見る事ができなかったんだよ。」

「なるほど、突然変異的なのですか?」そう聞くと透明人間はちょっと違うかもと惣菜パンの袋を開けながら言った。

「そういう事。でも、昔はもう少し色んな人に見つかっていたね。」

「病院とか行かなかったんですか?」

「行ったさ。研究所にも、でも、どうしてこうなったか分からないらしい。その後は段々と他の人の意識から僕が居なくなっていたみたいで次第に気づかれなくなった。

挙げ句の果ては、研究所の清掃員に幽霊の類かと驚かれて塩をぶつけられたよ。」透明人間は可笑しくなって鼻で笑った。そして、惣菜パンを口に運んだ。惣菜パンは透明人間の口元でちぎれ消えていった。

 話を聞きながら食べきってなくなったコロッケの紙袋を僕はポケットに突っ込んだ。

「すごいですね。」と僕は言葉をこぼした。「普通の僕からしたらとても、特別で少し輝いて見えます。」

輝いて見える。僕はそう言った。

「輝いて見える……ね。あれ? ここは羨ましいって言うもんじゃないのか?」透明人間が多分、こっちを見た。

「そうかも、知れないっすね。でも、羨ましいなんて、思っていないです。だって、他の人から忘れられてしまうんでしょ? そんなの寂しいですよ。」と僕はココアの缶を開けながら言った。「僕は自分を量産機の様な物と思っています。ただ、周りには気付いてもらえないけど、欠陥があるんです。」

「欠陥?」と透明人間は聞き返す。

「そう、欠陥です。とても、ごく僅かな欠陥です。僕は周りと考え方が違うのかも知れません。」

「具体的にどんな事だい?」

「それは……」僕は言葉に詰まった。自分には欠陥がある。でも、それがなんなのか、どう言う物なのか、それを突き止める事はまだ、出来ていなかった。

「……」透明人間は残った惣菜パンを口に押し込んだ。

「欠陥って言うのかどうかは知らないし興味もないが、それも個性なんじゃないか?」

「個性ですかね……?」僕は呆れ半分に返事をした。「あ、そうだ。それと、あなたが輝いて見えるって言ったのは」僕は思い出した言葉を繋げていった。「あなたのその透明が特別で輝いてて、僕が透明に透けている様に感じたからです。」

「安心しな、君は透けてないよ。」

「比喩表現です。僕は学校では目立たないんですよ。先生に声をかけても、誰かと一緒にいても自分がそこに居なくても別にいい、そう思えちゃうんです。」

 誰かと関わってもなんだか、その人の顔を見ていると、

(あぁ、この人たちはきっと僕の事を覚えててくれないんだろうな……)って、ボンヤリとそう、ぼんやりと感じてしまう。でも、最後のは人には絶対に言えない。これは隠さなきゃいけない大罪だ。傲慢だ。他人すら覚えられない僕は誰かに覚えててもらえるわけがない。だから、隠さなきゃいけない。そうしていたら、

「僕は透明な人間になっていたんです……」

透明人間は黙って聞いていた。そして、しばらくして口を開いた。

「まぁ、それは君の捉え方だと思う。もしかしたら君を見て見習おうとしている人もいるかもしれない。それに、」透明人間は続けて言った。「それに、君が特別と思うが、どうかは分からないが僕を見つけた事、それはとても、すごい事なんだよ。運がいい。それと、僕は久しぶりに人と話せて楽しかったよ。ありがとう。」とベンチに寄りかかったまま彼はお礼を言った。

 僕は、どういたしまして。それだけ言ってまだ残っているココアを飲み干した。

「そうだ!」透明人間は思い出した様に声を出した。「まだ、自己紹介していなかったね。」

「それは確かに、そうですね。」僕は頷いた。

「改めて、僕の名前は……」

彼が名を名乗ろうとしたその時、夕暮れに紛れて夜風が丘に強く吹き込んできた。思わず僕は目をつむり、肩を狭めた。

「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎」

何か、声が聞こえた気がする。しかし、なんて言っていたのか、聞き取る事は出来なかった。

 僕はふと、横を見るとそこには誰もおらず、缶コーヒーだけが置かれていた。

「……」

僕はココアの空き缶と缶コーヒーを持ち上げ、二つとも自販機のゴミ箱に放り込んだ。

 結局、名前、聞けなかったな……………誰と話してたっけ。あれ? 僕はなんで、ここにいるんだっけ?

 誰かと話していた事だけ覚えていた。だけど、

「誰と話してたっけ?」




(結局、彼も僕を認識し続ける事は出来なかった。)

そう思いながら、男は山の方の廃れた駅に立ち寄っていた。駅名は看板が錆びて読めなくなっていた。

(大概、そんな物だ。誰かに気づかれてもすぐに見えなくなってしまう。この呪い? は一体、なぜ、うけてしまったのだろうか。)

 透明人間はぼんやりと自分のこれまでの出来事を思い出しながら、青紫色の空を見上げる。

 久しぶりに出会えた、見える少年も途中で見えなくなってしまい、缶コーヒーを勝手に捨てられてしまった。

 彼は駅の建物側のベンチに腰掛けた。

「次はどこに行こうかな。」

 男は透明人間だ、誰にも姿を見られない。だから、一つの場所にとどまる必要はないのだ。今回見ないに誰かが彼を見つけてくれるかもしれない。だから彼は常に転々と旅をしていた。

 新たな場所に行こうと腰を上げた。その時、優しい声が聞こえてきた。

「こんにちは、今日はよく冷えますね。」

誰にも気づかれない透明人間に声をかける者がいた。

「あれ? 今日は良く見つかるね。」男がそう言いながら前を見る。そこには一人の少女が立っていた。

「君は?」

透明人間は見えない目を見開いた。

「この近くに住んでいる者です。お兄さんは透明な体をしていますね。良ければ、家でお話ししませんか?」

彼女は胸に手を当てて、そう答えた。

透明人間は思わず、笑みが噴き出た。嬉しかった。

今日は名の知らぬ少年に見つけてもらい、また一人、今日は二人の子供に見つけてもらった。

男は自分を見つけてもらえて嬉しかった。

「ありがとう、今日は運がいいすごく良いね。」

透明人間は立ち上がり、彼女の後をついて行った


           完

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