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エピローグ 「罪人として」

 あの忘れられない戦いから十日、俺は旧フェニックス城を眺めていた。

 かつての巨城は大きく瓦解(がかい)し、城壁の周囲には特殊警察の姿が多く見られる。

 レジスタの本拠地はすっかり制圧され、現在、少しでも強力なブレスギアを回収するために大掛かりな捜索が行われている。

 しかし、彼らが求めるものは決して見つからない。特殊警察が総出で捜索するだけの価値のあるブレスギアは、アイツの部屋にしかないのだ。そして今、そこには何もない。

 俺は手を開き、そこにある真鍮のような色の『鍵』を見つめた。


     *


 あの戦いの後、フェニックスは特殊警察に捕まった。

 幸運というべきなのか否なのか、あの一撃を受けたフェニックスは戦闘現場から遠く離れた場所で息を持った状態で見つかった。

 やがてそこに特殊警察が駆けつけ、フェニックスは逮捕された。

 特殊警察を前にしても、アイツは無抵抗だったという。俺とヴァイロンの最後の一撃は、ライプトのブレスギアを破壊していたのだ。強力な力を失ったフェニックスは、セバスらと共におとなしく連行されていった。もっとも、身体的なダメージの影響の方が無抵抗の理由としては大きかっただろうが……。

 フェニックス及び主要な幹部を失ったレジスタは、事実上崩壊した。そのニュースは瞬く間に日本全土に知れ渡り、多くの人に衝撃を与えた。レジスタの崩壊によって、特殊警察の統括範囲の拡大が見込まれる。東日本の治安は、前よりも向上するだろう。

 しかし、各地に散らばるレジスタの残党、及びレジスタが存在していたことによって押さえ付けられていた反政府組織の人間が、この先黙っているとは思えない。レジスタを独立国家として崇めていた人々の反応や、『死者蘇生』というレジスタ本来の目的に賛同していた人々の反応も穏やかなものではないだろう。

 間違えなく言えるのは、彼らは必ず存在するということだ。このニュースで負の感情を抱いた彼らは、必ず何か行動を起こすだろう。そうなれば、人々に訪れるのは平穏とは程遠い日々だ。

 もしかすると、世界はさらなる混沌へと歩み出してしまったのかもしれない。

 俺たちの行動は、間違っていたのかもしれない。


 ——だが、それでいい。俺たちは正しいと思って行動した。自分たちの願いのままに行動したのだ。たとえそれがどんな結果を生むことになろうとも、俺たちにできることは変わらないのだ。

 俺たちは皆、罪人だ。どんな生き方を選んでも、それは必ず二つの結果を残す。誰かの世界では正義となり、誰かの世界では悪となる。誰かを助けたつもりでも、どこかで未来を奪っている。何かをすれば必ず、いや、何もしなくても罪を重ねている。

 しかし、それが生きるということなのだ。

 俺たちが取り組むべきは、悪となることを避けることではない。罪を避けることではない。罪を受け入れ、それと共に生きることだ。罪を犯しても、それでも歩みたい道を選ぶことだ。がむしゃらに自分の信じた道を、願った道を歩くことだ。贖罪(しょくざい)に身を尽くすのではなく、傲慢(ごうまん)に進み続けることだ。罪人として生きることを、受け入れることだ。真の贖罪は、その先にある。

 それが、自分を生きるということなのだと思う。

 だから俺は、歩み続ける。この命の限り、風吾の道を。


     *


 俺は、城から離れた人が訪れないであろう丘の上に、小さな十字架を立てた。

 シスターのお墓である。

 俺は手を合わせ、天にいるシスターに祈った。


 ふと風が吹いてきて、耳元のイヤリングを揺らした。

「……さて、戻るか!」

 俺は振り返り、ヴァイロンと共に歩き出した。


     *


 ——カランカラーン……

「いらっしゃいませ〜!」

 俺は、レジスタの城から一番近くにある町の、古い民家を改築して作られたカフェの扉を開いた。店内のあちらこちらには観葉植物が置かれ、暖かみのある光と、香ばしいコーヒーの香りが店内を包んでいる。

「——風吾さん‼︎」

 窓際のテーブル席に座っていたガタイの良い男が、俺に気づくなり立ち上がって駆けてきた。正面に座っていた少女も立ち上がり、そのまま俺に飛びついてくる。

 俺は二人の仲間に抱きつかれながら、フッと小さくほほえんだ。

「ただいま……翔助、とら!」

 そうして俺たちは、再会を喜び笑った。


「風吾さんは、何にする? ここ、チーズトーストが美味しいよ!」

 隣の翔助は、メニューを指差しそう言う。

「翔助のおすすめか、じゃあそれにするよ……」

「よっしゃ! すみませーん! チーズトースト三つ〜! あと、ドリンクセットもお願いしま〜す!」

 この町に滞在している間、何度かここに来たのだろう。すっかり常連さんの振る舞いになっていた——一方的にだが。

「おかえり風吾。用事は無事済んだの……?」

 そう言って、正面のとらが尋ねてくる。

 優しく向けられたその目はとても透き通っていて、綺麗だった。サラッとした赤髪が、陽の光に照らされて輝いている。肌は白く透き通り、その頬はわずかに赤く染まっている。スッとなめらかにつながる顔の輪郭から首筋、肩から胸と続くラインは、いかなるブレスギアをもってしても作ることができないだろう。神が産んだ奇跡としか思えない。

 俺は思わず、しばらく彼女を見つめてしまう。

「……風吾?」

 とらが首を傾げたのを見て、俺は我を取り戻す。

「……ああ、終わったよ。ちゃんとブレスギアを封印して、シスターのお墓も作れた」

「そっか、良かった……」


 ——俺は、アイツの部屋にあったブレスギアを全て回収した。

 俺にはそれらを全て破壊することもできたが、それは違うと思った。詳細は不明だが、明らかに強力な力を持ったブレスギア達である。いつか役に立つ時が来るかもしれないと思ったのだ。

 俺はこのブレスギア達を隠すことにした。そこで思い出したのが、二人と初めて出会った町にあった、外部からの干渉は一切受け付けない異空間、秘密の地下室の存在である。

 俺はあの町に戻り、そんな地下室の一つを購入した。そしてそこに、回収したブレスギア達を隠した。

 まだ帰るわけにはいかない、というとらの意思を尊重して、二人はこの町に残った。数日間の別行動の後で合流できる保証はどこにもなかったが、俺たちは確信していた。

 そうして今、俺たちはこうして再開を果たしたのだった。


 ——先程注文したチーズトーストがやってきた。

 俺たちはそれをかじり、コーヒーを飲む。

「……へへ、しかし懐かしいな。俺たちが出会ったのも、こういう店内だったよな」

「正直、あの時は驚いたな……。いきなり店を追い出されたんだから……」

「あ、アハハハ、そんなこともあったね……」

 俺たちは、最初の町での出来事を思い出し笑い合う。

「あれから、色んなことがあったな……」

 ふとしたことからやたら馴れ馴れしい男に付き纏われて、やたら俺達を敵視してくる少女に出会って、一番関わりたくなかったレジスタの取引に首を突っ込んで……それがきっかけとなって、また色々なことをした……。

 初めて仲間ができた。初めて、心から人に感謝された。本当の敗北を知って、死ぬよりも苦しい想いをいっぱいしたし、知りたくなかったことも知った。自分の歩みに、絶望した時もあった……。

 けれど、それらを全て乗り越えてきた。そうやって、俺は俺だけの人生を歩んできた。

 ——俺は、俺を生きているよ、シスター。


 俺はふと、目の前で笑う二人を眺める。

 キラキラとした陽に輝く店内で、この空間だけがより一層輝いているように見えた。

「ありがとう……」

 俺は小さく、誰にも聞こえない声でつぶやいた。

「ん? どうした風吾さん、黙り込んじゃって……」

「どうしたの風吾、大丈夫?」

 黙り込む俺を見て、二人が声をかけてくる。

 俺は顔を上げ、そんなかけがえのない仲間に笑顔で応えた。

「いや、なんでもない。考え事をしていただけさ」

 そして俺は、息を吸う。


「……さあ、次はどこへ行こうか‼︎」


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