プロポーズ
「光ちゃん。お兄ちゃんにプロポーズされた」
中学校の給食の時間だった。今川光は飲んでいた牛乳を吹き出しそうになった。むせそうだった。
優希の告白に光は目を白黒させた。
「じゃ、結婚するの、優希は」
「ううん実はね……」
優希は事情を説明した。
「ああ……要するに優希。あんたがお兄さんを追い詰めた結果だね」
「そうなの?」
「お兄さんが自分から結婚したくて言っている訳じゃないね、それは」
「うん。私もそう思う」
「しかし優希、軽い気持ちで結婚したいって言われたくないか。変な所でプライドが高いね」
「だってさあ、こっちは真面目に結婚したいのに、お試しみたいな感じヤダよ」
「じゃお兄さんとどうなりたいのよ」
「……わかんない」
「……わからないんだ。乙女心は複雑なんだね」
「光ちゃんはどうなの? 好きな人に軽いプロポーズされるの嫌じゃないの?」
「ああ。まだ私たち十代だよ。結婚なんて考えるの早すぎるからね」
「そっか。そうかもね」
「だいたい優希。あんたが一番いけないでしょう」
「えー、なんで」
「お兄さんだって疲れてたんでしょ。好き好きアピールが苦痛だったんでしょうし」
「……そっか。私がいけないなのか」
「落ち込まないの。叱った訳じゃないからね。私は状況をまとめただけだから」
「うん。ありがと光ちゃん」
「でもさお兄さんに他に好きな人できたらどうするのよ優希は。その人の事いじめる訳?」
「そんな事しないって……言い切れない自分がちょっと嫌だなあ」
「独占欲強すぎなのよ優希は。軽いプロポーズが嫌なら『真面目に結婚してほしい』も素直に受け入れられないんじゃないのこのままじゃ」
「うぅ……否定できない」
士郎ではなく優希が葛藤する日が来るとは彼女自身にも予想できなかった。