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ギャルを誘拐した。そして監禁した。  作者: 樫村ゆうか
第二章 電波少女が首を吊った。そして探偵が現れた。
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エピローグ

「はー」

 

 コマちゃんがいなくなった後も、僕は動けずにいた。そうしているうちにも時間は止まってはくれない。僕なんか歯牙にもかけずに進んでいくのだ。気が付けば、世界は暗く染まっていた。黄昏時は消え、僕を隠してはくれない。おかげで僕の自意識が徐々に戻り始めていった。


 それにしても、今回の事件はなんだったのだろうか。

 始まりは、間宮祐樹の自殺だろう。それによって由宇ちゃんも、自殺を考えた。人間の限界を超えるための自殺だ。東恭平などの死は、あくまでもおまけで、探偵によって物語を書き換えるための舞台装置にしか過ぎない。間宮祐樹と久美静香由宇は、人間の限界を超えたわけだ。

 

 でも、それは由宇ちゃんの世界での物語にしか過ぎない。

 

 探偵の物語は別だ。

 探偵の物語の始まりは、間宮祐樹がいじめを苦に自殺をしたこと。それによって久美静香由宇は復讐を考え、実行に移した。不可能な自殺があったが、それも探偵の想像力や思考力で補い推理によって補填され、見事に解決へと至った。事件は無事に解決したわけだ。それが探偵、神獅子真の物語。


 そして警察の物語もまた別にある。

 大枠はコマちゃんの物語と同じだ。始まりは間宮祐樹がいじめを苦に自殺をしたことで、それが動機となって殺人が起きた。ただ、警察の物語はコマちゃんよりも優しく、鈍感で、薄かった。探偵よりも表面的な真相を求める警察からすれば、裏にある思想や感情など些事に過ぎないのだろう。それが警察の物語だ。


 じゃあ、僕はどうだろうか?

 僕はこの事件をどんな物語として捉えていたのだろうか?

 しばらく考えてみたが、答えが出なかった。

 

 それもそのはずだ。

 そもそもとして僕は、この事件に関わっていない。

 犯人がいて被害者がいて探偵がいて警察がいて。それで物語は完結している。僕は必要とされていないのだ。

 

 ただそれでも敢えて役柄をつけるなら第一発見者なのだろうが、僕はその領分を超えてしまっているし、一番しっくりくるのは狂言回しだが、僕は物語の進行を妨げたり、理解を手助けする役目を放棄していた。中途半端にかかわった邪魔者でしかないのだ。

 

 でも、それでも僕の物語を考え、決着をつける必要があるのだろう。そうしなければ、僕は後ろに進めないのだから。

 

 なんとか捻りだそうと唸ったり、目を閉じたりと、考えているふりをしてみたけど思いつかない。最終的には星空を借りて、自分に酔うことで考えがまとまった。


 しかし、悲しいことに思いついたのはとても退屈な物語だった。

 始まりは他同様に間宮祐樹の死だった。ただ僕の物語はそこから道をたがえる。

 間宮祐樹は、その日いつものように久美静香由宇と屋上で逢瀬を重ねていた。だが、そこで問題が起きてしまった。なにかのきっかけで二人に血のつながりがあることを、お互いが知ってしまったのだ。間宮祐樹は取り乱し、別れを告げた。久美静香由宇は、別れたくないと言った。言い争いは徐々にヒートアップしていった。その末に久美静香由宇は、こう考えてしまったのだ。『それなら殺そう』と。なぜその思考に至ったかは、本人にしかわからないが、殺意とはそういうものだ。突然湧いてきて、急速にしぼんでいく。ただその時は突然湧いてきた殺意には、環境が適してしまっていたのだ。無人の屋上という場所が。二人はフェンスを飛び越えた。おそらく久美静香由宇は自分の命を使って脅したのだろう。そしてそれを間宮祐樹は止めようとした。それで舞台は整ってしまった。後は押すだけの簡単な作業だ。そうなってしまえば、殺意は素直だ。気まぐれな殺意に操られて、久美静香由宇はじゃれあうような強さで突き飛ばした。間宮祐樹は最後まで何も気づかなかったはずだ。自分が死んだことさえも気づかなかったのかもしれない。

 間宮祐樹が死んだことは、一目でわかったのだろう。そして死んだことに気づいた時に、久美静香由宇の殺意は萎んだのだ。

 だが、すでに遅かった。殺意がなくなろうと、死んだ人間は生き返らない。ただ罪だけが体に残るだけだ。

 

 久美静香由宇は、罪と向き合おうとしなかった。

 理由付けをして逃げようとしたのだ。

 その理由こそが、人間の限界を超えるために自殺をするという思想だった。傍から見れば、理解できない思想だ。でも、だからこそ良かったのだ。理解できない思想を持っている自分は、唯一正しい人間だと解釈をし、責任から逃れるためではなく、前に進むためとおためごかしの耳障りだけはいい言葉を並べ。最終的に自殺をした。ノストラダムスの大予言に怯えていると自分を騙し、集団自殺した人間たちのように。


「ひどい話だ」


 我ながらあまりにも救いがなく、退屈な物語に自嘲の笑みが漏れた。まあ、おかげで僕の中で一つの決着はついたが。

 

 ただ当然ながら胸はすっきりしない。

 それでは由宇ちゃんが、ただの八つ当たりをした痛い奴になってしまう。

 由宇ちゃんはそんな奴ではなかったはずだ。

 いや、僕が知らない由宇ちゃんがあったのかもしれないな。

 

 どうやら事件と共に由宇ちゃんともお別れをする必要があるようだ。

 そのためにはあの時の質問に答えないといけないだろう。

 あの日、最後まで僕が出せなかった答えに。


「人間の限界とは何か?」


 僕はあの頃の風景を映し出しながら答えた。


「人間に限界なんてないよ」




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