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ギャルを誘拐した。そして監禁した。  作者: 樫村ゆうか
第二章 電波少女が首を吊った。そして探偵が現れた。
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推理②

 あの日の放課後のことだ。下校途中に由宇ちゃんから二十一時に斐川神社へ来るように言われた。二十一時という時間帯に違和感はあったが、それでも相手が由宇ちゃんだったから、僕は無垢な心でそれに応じた。そして時間通りに向かった斐川神社で見つけたのだ。東恭平の遺体を。初めは遺体だとは思わなかった。石にでも躓いたかと考えた。しかし僕の経験がそれを否定した。それは明らかな死体であると。息をしているか確認する必要もなかった。そもそも息をするための首がなかったのだから。


 当然なにかあったと心配になった。ゆっくりと、心を落ち着かせながら階段を上った。階段を上りきると同時に由宇ちゃんの発見だった。僕はたぶん冷静だったのだろう。我ながら酷い話だと思う。

 でも、悲しみ方がわからなかった。だからその代わりに冷静に状況を分析しようと思った。ただ僕は探偵ではなかった。推理なんてできないし、事件を解決には導けない。でも、それでも由宇ちゃんの親友であることは確かだった。由宇ちゃんとの日々が僕に為すべきことを教えてくれた。


 階段下の遺体は、他殺体だった。由宇ちゃんは意味もなく人を殺す人間ではなかったし、意味があっても殺す人間ではなかった。だけど、状況を見れば、由宇ちゃんが犯人であることは明確だった。つまり由宇ちゃんという人間にとって、この殺人には意味以上の意義があるのだと悟った。そしてわざわざ僕を呼び出し、遺体を発見させたことに何かしらの理由があるのだと考えた。


 わかったのは、そこまでだった。由宇ちゃんが自殺した理由も、殺した理由も僕にはわからなかった。でも、それでも僕は遺体を持ち去ったのだ。今思えば、それは僕らが親友であったことの証明なのかもしれない。


 遺体を持ち去り、近くにあった森の中に運んだ。その時の心境は、いつも通りだったと思う。僕が殺したわけではないから当事者意識がなく、どこかゲームの中のキャラクターを操作しているような感覚だった。穴を掘って、埋めて、土をかぶせた時にやっと現実感が湧いた。埋めた遺体に首がなかったから、目が合うことがなかった。そのせいで人ではなく遺体を埋めたのだと気づいたのだ。


 その後は、語るべきことは特になかった。家に帰り、洗濯物を干してから、再び外出をした。その道中でわざと警察に見つかり、一緒に遺体を発見させた。そしてコマちゃんと部室を訪れる前に遺体を掘り起こして、見つかりやすいようにした。ただそれだけだ。


「どうして警察に、それを伝えなかったの?」

「証拠隠滅なら、そこまで大事にならないわ。でも、あなたが遺体を遺棄していた場合は違ってくる。あなたの過去が調べられ、あの事件に関してもう一度捜査が始まるかもしれない。

それは私にとっても避けたかったのよ。……どうせあなたはそれも織り込み済みだったのでしょうけどね」


 コマちゃんの言う通りだった。僕はわかっていてコマちゃんを騙した。でも、それに対して罪悪感はなかった。


「以上で私の推理は終わりよ」


 コマちゃんは、締めるように手をパンと叩いた。表情も少しだけ柔らかくなった。


「完璧だよ。そこまでわかっているなら、僕と話す必要はないんじゃないの?」


 事件の全容は明かされたのだ。これ以上語るべきことはない。


「あなたの行動が理解できなかったのよ」

「僕の?」

「今回の事件であなたの行動は一貫して理解できないわ。死体遺棄に、嘘の証言。どちらも一歩間違えば、あなた自身が罪に問われるのに、なぜそこまでしたの?」

「親友の罪を軽くしてあげようと思ったんだよ」

「嘘ね。あなたが殺人ごときで、そんな風に思うはずがないわ」


 ひどい言われようだ。でも、その通りだった。親友の罪を軽くしてあげたいという思いが全くなかったわけではないが、それは動機の一部に過ぎない。きっと殺人だけでは、僕は行動を起こしていなかっただろう。


 だけど、本心を語りたくはなかった。それを語れば、由宇ちゃんの目的を明かすことに繋がるのだから。それは、それだけは避けなければいけない。


 僕はしばらく逡巡するように、所在なく視線をさまよわせた。

 その間、ずっとコマちゃんは黙っていた。黙って視線だけを僕に向けていた。見なくても分かってしまう。その視線は探偵ではなく、幼馴染としてのものに違いないと。


 その視線に僕は誠実に答えるべきなのだろう。利用したなら、最後まで利用しつくのがせめてもの礼儀だ。だけど、それがわかっていても言葉が出てこなかった。自分のことならいくらでも騙れるのに、他人のことになると何を騙ればいいのかわからなくなってしまう。全く由宇ちゃんも面倒なことをしてくれたものだ。


 結局、僕は逃げるように窓の外へ視線を向けた。未だに夕暮れ時だった。そう言えば、夕暮れは、黄昏時ともいう。そして黄昏時は、誰そ彼が語源だった。今なら僕が語ったとしても、いいのかもしれない。この景色が僕の言葉を覆い隠してくれる。


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