表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ギャルを誘拐した。そして監禁した。  作者: 樫村ゆうか
第二章 電波少女が首を吊った。そして探偵が現れた。
30/36

探偵であり殺人鬼

 探偵が推理を間違えた時、どうなるのか。

 これは矛盾した問いであり、哲学的議題ともいえる。

 

 探偵が推理を間違える。

 その時点で探偵は、探偵ではなくなる。探偵は、推理を間違えないから探偵なのだ。推理を間違えてしまえば、もうそれは探偵ではなくただの人になってしまう。だから探偵が推理を間違えた時、という問いはそもそもとして矛盾しており、人間が人間でなくなった時、どうなるのかという馬鹿げた質問と同義になってしまう。

 

 ただそれでも、一つだけ答えがあるとすれば、それは探偵に戻るという事だ。探偵でなくなったならば、探偵に戻ればいい。至極単純な答えだが、一つの心理ともいえる。

 

 しかしこの探偵に戻るという行為は、かなり難しい。常人ではなれないからこそ探偵は探偵足りえるのに、推理を間違えた時点で探偵は人に戻ってしまっているのだから。再び探偵に戻ることは、不可能に近い。

 

 では、探偵は一度探偵でなくなってしまったら、探偵に戻れないのか。

 これは否定しなければいけない。

 確かに僕らただの人間からすれば、難しいだろう。だが、探偵ならば可能だ。探偵は特別だから探偵足りえるのだから、特別な行動を取れば彼らは再び探偵に戻ることが出来る。

 

 例えば、世界との接触を断つ。

 例えば、思考を回し続ける。

 例えば、自分を傷つける。

 例えば、狂人へ身をやつす。

 例えば、世界との同化を試みる。

 例えば、世界の心理を覗く。

 例えば、妄想の世界に浸る。

 

 そうした常人では理解できない行動をとることで、彼らは探偵に戻ることが出来る。

 

 じゃあ、コマちゃんの場合はと言えば、ある意味で分かりやすいものだった。

 荒れに荒れるのだ。

 ただその荒れると表現は、些かばかり弱いと言える。

 正確に表すなら、殺すのだ。

 自分で見つけた殺人鬼を殺して、殺して、殺しつくす。

 それがコマちゃんの探偵に戻る方法だ。

 

 そして今回も案の定、荒れに荒れていた。

 昨日、警察によって伝えられた、『東恭平が首無し遺体で見つかった』という情報。そして水原徹は、由宇ちゃんが亡くなった前日に殺されていたという情報。それらは、コマちゃんの推理の根幹を成していた『犯人は東恭平』という結論を否定するものだった。なぜなら東恭平は首を切断された状態で見つかった。つまり何者かによって殺されていたという事になるのだ。しかも司法解剖の結果、東恭平は由宇ちゃんが殺害されるよりも前に殺されていたそうだ。コマちゃんの推理は根本的に間違いだったと証明されたようなものだ。

 

 その時のコマちゃんの心情は筆舌にしがたいものがあったのだろう。実際、学校を出てから別れ際までコマちゃんは一言も言葉を発することはなく、廃人のような顔つきで消えていった。

 

 そしてそれは翌日まで続き、いくら電話しても出てくれず、コマちゃんはこの世界から隠れるように姿を消してしまったのだ。

 

 幸い、僕はコマちゃんの居所を知っていた。付き合いだけは長いため、嫌いあってても、相手の行動は読めてしまうのだ。

 

 コマちゃんは、遠野さんを誘拐した建物にいると考えた僕は、夜になるとすぐに向かった。

 

 建物に足を踏み入れた途端に鼻腔をくすぐる悪臭が漂っていた。

 歩くたびに感じる悪寒も感じる。

 それらすべてに覚えはあったし、進んだ先にあったドアの向こうに何があるかは予想出来ていた。

 ドアの向こうに広がっていたのは、バラバラ死体と、その傍でのこぎり片手に茫然自失としたコマちゃんの姿だった。

 

 僕が探偵でなくとも、わかってしまう。

 

 人を殺し、バラバラ死体を作ったのは、神獅子真であると。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ