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ギャルを誘拐した。そして監禁した。  作者: 樫村ゆうか
第一章 ギャルを誘拐した。そして監禁した。
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だから体育は嫌なんだよ

 僕の通う学校は、崩れかけのショートケーキのような形をした普通の高校だ。偏差値は極端に低くも高くもなく平均的。校則も緩くもなく厳しくもない。通う生徒も目立つ生徒もいれば目立たない生徒もいる。絵に書いたような普通の高校。そのせいか、学校特有の閉鎖間のようなものを色濃く残していた。基本的に外には興味がなく、内で物語が完結してしまう。猟奇的な殺人事件が起きようとも、被害者が知り合いでない限り誰も興味を持とうとしない。そんなことよりも誰が付き合っていて、誰が振られたかの方が大事なのだ。

 

 その点で言えば、遠野さんの無断欠席はそれなりに興味をひいていたのだろう。出欠確認時に遠野さんの不在は、クラスに騒がしさを提供したのだから。ただ、遠野さんが普段から無断欠席をするような不良生徒のためか、昼休みになる頃には誰かの弁当に入っていたハンバーグの匂いに塗りつぶされるように消沈していき、午後の授業が始まる頃には多数の生徒がすっかり忘れてしまっていた。

 

 それにしても二日連続で午後に体育をやるのはどうなんだろう。いや、そもそも体育という授業自体が必要ないのではないだろうか。確かに健康面で考えるならば必要なのだろう。健全な魂は健全な肉体に宿るなんて言うぐらいなんだから。

 

 しかし体育をやることによるデメリットの方が大きいのではないだろうか。例えば体育をやることによって怪我をするリスクがあるし、体調を崩すことだってある。他にも友人関係にひびが入ったり、いじめの原因にすらなることだってあるのだ。健全な肉体云々だって、卵が先かヒヨコが先かみたいなものだ。健全な魂を持っていたからこそ、健全な肉体を手に入れられている可能性だってあるのだ。


 つまり、体育は必要ないという事だ。もちろんそんなことを声高に言えるわけはないし、そこまで僕は空気が読めない人間ではない。


 今も多くの生徒たちは、体育を本気で楽しんでいた。休み時間さながらの騒音が体育館や校庭に満ちている。彼らにとって、体育をやる意義は楽しいかどうかなのだろう。現に教師ですらも人生は何度でもやり直せるが、今という時間は二度とこないんだ、とか青臭い歌詞のようなことを言っているのだから。楽しければそれでいいのだ。


「はー」

 

 僕は深いため息を吐き、校庭へ視線を向ける。


 どうやらあちら側は、野球をやっているようだ。バッターボックスには眼鏡をかけた、見るからに神経質そうな生徒、山内正人君が立っていた。おそらく彼も僕と同じ気持ちのはずだ。いつもよりも心なしか眉と眉の間のしわが深い。

 

 尤もそんな変化は、他の生徒は興味ないのだろう。多くの生徒が雑談に花を咲かせている。普段ならば僕も興味を抱かないが、今日はそういうわけにはいかない。

 

 彼は容疑者の一人だ。僕は今日一日、彼から目を離すことが出来なかった。

 いや、彼だけではない。他の容疑者たちからも目を離すことが出来なかった。

 

 おかげで僕は今日一日気の休まる時間などなく、それで成果があればよかったのだが、観察して分かったのは、全員が怪しいというとんでもなく中途半端な結果だけだった。無駄とはいかなくとも、実りのない時間を過ごしてしまったわけだ。

 

 ただでさえ気分が憂鬱なのに、もう今すぐにでも引きこもりたい気分だ。


 「危ない」

 

 その声が僕に対するものだと気づいた時には、目前にバレーボールが迫ってきていた。そしてこういう時のお約束というやつなのだろう。迫ってくるボールはひどくゆっくりで、スローモーションの映像を見ているようだった。あ、こんなところに小さな傷がある、こんな変な柄だったんだと思えるほどには余裕があった。

 でも、それと避けることが出来るのは別だ。体は動いてくれない。ただスローモーションの映像を見せられるだけで、避けることはできない。そう考えるとひどい話だ。死刑宣告を待つ犯罪者のような気分になってくる。これならいっそひと思いにぶつけてくれればいいのに。一体僕がどんな悪いことをしたと言うんだ。

 

 はー。やっぱり体育は嫌いだ。


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