自殺ではないと思う
事情聴取を受けていた。
今の僕の状況を端的に表してみたが、どうやらそれだけでは誤解を生みそうなので、改めてもう一度、今度は正確に表してみようと思う。
僕は現在、事件? 事故? の重要参考人として事情聴取を受けていた。というのも、遡ること昨日のことだ。僕の唯一の親友である久美静香由宇が、亡くなってしまい、不幸にも僕は事件の第一発見者の称号を賜ってしまったのだ。その結果、第一発見者が容疑者の例に従い、僕はこのように事情聴取を受けているわけだ。
それにしても事情聴取は、どうしてこうも退屈なのだろうか。
繰り返される問答には、情緒もへったくれもない。まるでAIとでも会話をしているようだ。加えて部屋も無機質そのもの。六畳の部屋には、季節感がまるでない。唯一窓の外から聞こえる蝉の鳴き声だけが夏を思い出させてくれる。
「では、最後に聞きますが」
苦節三時間にも及ぶ苦行の終わりが見えたことで、僕は背筋を伸ばし、目の前に座る警官へ視線を向ける。岩のような顔をしている男だった。きっと部下からはゴリさんと呼ばれ、飲み会ではうざい体育会系の先輩のような振る舞いをしているのだろう。名前は確か斎藤だったか、いや、斉木だったか。まあ、どっちでもいいか。僕の人生に関わるわけではないし。
「久美静香由宇さんの死に関して、なにか気になる点や気づいたことはありますか?」
ゴリさんは、何度目になるかわからない質問をぶつけてくる。由宇ちゃんの死に何か不審な点があるのだろう。
それにしてもなんだか高校受験時の面接を思い出すな。当時の僕は、厭世的な生き方を極めんとするばかりに尖っていたせいか、それなりに上手くやれていた。
そんなことを思い出しながらも、僕は答えた。
「ないですね」
そう答えた後に、ふと頭によぎった言葉があった。
「ああ、いや、思い出したこととは違うんですが」
僕は自信なさげに前置きをする。
「なんでしょうか?」
受動的な僕が、今日初めて能動的な行動を見せたためか、ゴリさんは少しだけ前のめりになった。近くで見ると余計にゴリさんはゴリさんだった。
「……自殺には思えません」
「はー」
ゴリさんはどこか微妙な顔をし、すぐに取り繕うとするが、表情筋と感情が噛み合わないのか、結局胡乱気な表情で質問をしてきた。
「……何か理由が?」
理由。理由か。困った。なんとなく思い付きで口にした言葉だった。そこに意図もなければ意思もない。本当に意味のない、空気を埋めるような言葉でしかなかった。
「えーとそうですね」
ただそう答えるわけにもいかないので、僕は少しだけ考える素振りを見せ、一番心にもないセリフを口にした。
「まあ、親友だからってことにしといてください」
ゴリさんは、最後まで微妙な顔を崩さなかった。