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ギャルを誘拐した。そして監禁した。  作者: 樫村ゆうか
第一章 ギャルを誘拐した。そして監禁した。
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やっぱり日本語は難しい

 日常生活において使わない後日談という言葉だが、今回は日常に回帰する意味も含めて僕は敢えて使いたいと思う。

 

 まず遠野さんについて。当然だが、騒ぎになった。遺体が見つかり、連続殺人鬼による犯行であるとの見解が示されたことで世間は恐怖に包まれたし、その遺体が遠野さんであることが判明したことで教室内はお通夜状態へ突入してしまった。

 今までも同じように人が殺されていたというのに、その被害者がクラスメイトだったという一文が付け足されただけでここまでの違いがあるのだと驚いたが、ある意味で自然なのだろう。誰だって自分が死ぬことなんて想像していない。だが、死はいつだって僕らの傍にあるのだ。授業を受けている時に飛行機が墜落してくるかもしれないし、歩いている時に通り魔にあうかもしれない。日常の中に死はいつだって潜んでいる。それが今回の出来事によって、知り合いの死というフィルターを通すことで顕在化しただけなのだろう。

 

 尤も、そんなことは時間の経過とともに忘れてしまうのだろうが。実際、あれから二週間経過したが、ほとんどの生徒が遠野さんについて忘れてしまっている。もちろん敢えて忘れている側面もあるだろうが、それは言い換えれば忘れても日常を過ごすことはできるという事。遠野さんが死んでも、この世界に変化などないのだろう。きっと一年後には、この事件と共に遠野さんのことも忘れているに違いない。

 

 そして事件についてだが、未だに警察は犯人を捕まえられていないようだ。なんでも遠野さんの事件は殺害方法や凶器などから連続殺人鬼の犯行であることは確定しているらしいが、遠野さんが殺害されるまでの数日間、姿をくらませていたことが事件を複雑にしているようだ。そのせいか一旦絞り込めていた容疑者たちにもアリバイが出来てしまい、完全にお手上げ状態と近所のおばさんが言っていた。意図せずに事件を複雑にしてしまったことに少しだけ責任も感じなくはないが、まあ僕は犯罪を犯したわけではないのでそこまで責任を感じる必要もないのだろう。悪いのは全て田中君なのだから。

 

 ああ、そうそう。その田中君だが、正直遠くに行くと言っていたため、あの世にでも行っていることを僅かばかり期待していたのだが、見事に裏切られてしまった。日本語は難しいと知りながらも、僕は騙されてしまったわけだ。どうやら田中君は文字通り遠くへ、それも海外の方へ引っ越しをしたようなのだ。

 

 なぜ僕がそんなことを知っているかというと、田中君から手紙が届いたからだ。

『梅雨明けが待たれる毎日ですが、お元気ですか?』

 

 始まりはそんなお堅い文章だった。そしてそれからもつらつらとお堅い文章が続いたが、最後の方になってやっと田中君の本性のようなものが現れ始めてくれた。


『最後に一つだけ質問に答えてくれないかな?』

 

 最後。確か田中君は、あの日も最後と言っていたはずだが……果たして最後の意味を理解しているのだろうか。まあ、ある意味で最後という言葉の使用が許されるのが、生者の権利なのだろう。僕は無理やり納得し、文章へ目を通す。


『どうして俺が女だってわかったの? 口ぶりからして、初めから疑っていたように思えて気になったんだよ。今後の生活にいかしたいから、理由を教えてくれないかな?』

 

 どうやらあちらでは女性として過ごしているようだ。人を殺しておいてと言いたいが、もう殺してしまった事実は変えようがないので、せめて殺した人間の分まで楽しんだ方が被害者も喜ぶかもしれないと思うことにした。

 

 それで肝心の答えだが、さて僕はどう答えるのが正解なのだろうか。

 論理的に答えるなら、田中君が女性と考えたほうが自然だからとなるだろう。

 でも、やっぱり僕にはそんな論理的な答えは似合わないし、田中君も望んでいないはずだ。

 ならば、なんとなくとでも答えるのが正解なのだろうか。

 そちらの方が僕らしいが、どこかしっくりとこない。

 確かになんとなくではあるのだが、言葉足らずの気がするのだ。

 日本語の難しさを再認識した今、それでは田中君に誤解を与えてしまうかもしれない。

 だとするなら、最後ぐらいは真面目に答えるべきなのだろう。

 真面目に本心から真摯に向き合ってみるとしよう。

 

 どうして田中君が女だって気づいたかって?


「そんなの僕が女だからに決まってるじゃないか」


最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

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