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ギャルを誘拐した。そして監禁した。  作者: 樫村ゆうか
第一章 ギャルを誘拐した。そして監禁した。
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論理の奴隷にはなれない

「他にも一応は、推理は出来るよ。例えば手帳が落ちていたのは教卓の下だけど、普通にしていればそんな場所に落ちるはずはない。逆を言えば、僕が教室に戻り、出て行く間に普通ではない行動があったってこと。そしてあの短時間で普通ではない行動をとっていたのは、日直で黒板を消していた田中君だけ」

 

 僕も一応は日直で黒板を消してはいた。だが、僕の身長では高いところは消すことが出来ずに、田中君が担当をしていた。高いところに手を伸ばせば当然、それだけ服が伸び、ポケットから物が落ちる確率も高くなる。同じ日直でも田中君の方が、犯人の可能性が高い。


「例えば、手帳は油性で記されているにも関わらず文字が歪んでいた。で、普段の生活の中で油性ペンの文字が消える状況なんて限られてる。水では消えない性質上、カバンに入れている時に消えたとは考えられないし、ここ数日は雨も降っていない。もちろんアルコールでは消えるけど、学生がお酒を持ち歩いているとも考えづらい。となると、考えられるのは持ち主の汗。そして汗が付着してしまう状況とはどんなときかを考えると、長時間外にいるとき。ただ今の時期、夜などは冷えるため汗をかくとは考えられない。汗をかくとすれば日中の時間だけ。普段は手帳をカバンなどに入れている犯人が、日中に外に持ち出すにはいつか? 加えて慎重な性格の犯人が外で手帳を出すとは考えづらく、汗が付着するとするなら偶然の状況下で、手帳が肌に密着してしまう場合のみ。これらの条件を満たすのは、体育を見学している時しか考えられない」

 

 制服のポケットは生地が薄く、汗が付着しても何らおかしくはないはずだ。


「まあ、こんな風に一応推理は出来るよ。でも、それらもやっぱり根拠にはならないけどね」

 

 ミステリーでこんな推理を披露しても、犯人は自首しないはずだ。


「……ひどいな。結局、君は最初から俺が犯人だと決めつけていたわけだ」

「そうだね」

 

 僕は肩を竦める。


「でもさ、肝心なことを忘れているよ」

「肝心な事?」

 

 僕は訊き返す。


「君は犯人が女性だと言った」

 

 田中君は少し溜めてから、自分を指さしながら言った。


「だけど、俺は男だよ」

 

 僕は少しだけ呆気に取られてしまう。それはべつに忘れていたからというわけではない。ただお互いに、そのことに関する問題は既に共有できていると思っていたからだ。でも、やはり大事なことは、言葉にする必要があるのだろう。


「僕はさ、こう見えて人を信用しない質なんだよ」

「こう見えても何も、見たまんまだと思うよ」

「そして自分自身も信用していないんだ」

「それも見たまんまだよ」

 

 ひどい言われようだ。


「でもさ、自分と他人。どちらかを信じなければならないなら、僕は自分を選ぶ人間なんだ。で、今回の件で言うなら客観的に見れば犯人は女性。ただ僕個人の考えでは、犯人は田中君。だから田中君は、田中君ではなくて、田中さんなんじゃないかって考えることにしたんだよ」

 

 それに手掛かりはあったのだ。体育の見学をするにしても、体操服に着替えることが基本的には義務付けられている。それなのに田中君はいつも制服のままだった。他にも田中君は肌の露出を嫌っていたりなど、違和感のようなものがあった。


「不可解なものを除外していったとき、それがどれだけ信じられなくても、それが真実となる。確かシャーロックホームズのセリフだったっけ? なんかそれと似てるね」

「全然違うよ。僕は論理の奴隷になれるほどに、頭が良くないからね。どこまでいっても後付けにしか過ぎない、戯言だよ」

 

 僕は不可解な答えを導き出して、それが自然になるように小細工をしただけ。全くもって違う。


「それなら次は推理ではなく、その戯言? を聞かせてほしいな」

「もちろんだよ」

 

 そもそも本題はこちらだ。推理なんて前座に過ぎない。

 

 僕はさっきまでよりも砕けた声色で話し始める。


「まず僕は手帳を拾った時に、田中君が犯人であると考えた」

「どうして?」

「なんていうのかな。……なんとなくわかるんだよね。普通の殺人なら他の人間でも可能だよ。でも、今回の事件は普通ではない。被害者は顔の皮を剥がれる、世間で言うところの猟奇的殺人だ。あの五人の中で、今回の事件が起こせるのは田中君だけだと直感的に思ったんだよ。おかしいかな?」

「普通ならおかしいって言うだろうね。でも、俺も手帳を拾い、アリサを誘拐したのは君だって直感的に思ったからお互いさまかな」

「ひどいな。僕のことを最初から疑ってたのかよ」

「手帳を拾っただけなら、他の四人も疑っただろうね。だけど翌日からアリサがいなくなったら、君以外にあり得ないでしょ」

 

 最初からお互いに疑ってたわけか。


「でもさ、最初から俺を疑っていたなら、もっと早くに行動すればよかったんじゃないの?」

「動機がわからなかったんだよ。田中君がなんでこんなことをしたのかのね」

「それこそ直接俺に訊けばいいんじゃなの?」

「そんなのアイスクリームのアイスの部分を食べずにコーンだけ食べるようなものだよ。犯人に思いを馳せて、色々と考えるのが一番の醍醐味なんだからね」

「君も大概いかれてるね」

 

 僕は肯定も否定もしなかった。


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