表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ギャルを誘拐した。そして監禁した。  作者: 樫村ゆうか
第一章 ギャルを誘拐した。そして監禁した。
12/36

探偵は嫌いなんだよね

 ベールを脱ぎ捨てた田中君は、いつも通りだった。教室で友人たちと談笑している時のような、爽やかな笑みを浮かべている。死体がなければ、休み時間だと勘違いしてしまうほどに空気が柔らかい。


「それはこっちのセリフだよ。やっぱり手帳を拾ったのは、君だったんだね」

 

 さして驚いたような反応を見せずに、淡々と田中君はそう言った。

 

 僕はそのままの勢いで話を展開しようとしたが、田中君が待ったをかけてきた。


「少し待ってもらっていいかな」

「良いけど……」

 

 僕が訝しみながらも頷くと、田中君は徐にポケットから何かを取り出した。目を凝らしてみると、赤黒い何かが付着した薄い物体だった。


「なにそれ?」

「アリサの顔の皮膚だよ」

 

 確かに言われてみれば、皮膚だった。それと今更ながらだが、新たな死体は遠野さんのようだ。まあ、半ば予想出来ていたことなので驚きはないが。

 

 田中君は取り出した皮膚を、自分の顔に張り付け始めた。まるで美容パックでもするかのように。


「それ、意味あるの?」

「どうだろう。バートリ・エルシャーベトなんかは、処女の血を浴びると若返るって信じてたみたいだけど、俺はべつに若返りたいわけじゃないしね。君も試してみる?」

 

 そう言って田中君が皮膚を手渡そうとしてくるが、僕は丁寧に固辞した。


「遠慮しておくよ。こう見えて人肌とか苦手なんでね」

「意外と繊細なんだね」

 

 田中君は再び自分の顔に皮膚を張り付けた。どうやらその状態で会話を続けるつもりのようだ。


「それで、俺はどうしてわかったのって訊いたほうが良いのかな?」

「訊いてくれるの?」

「そのためにここに来たんでしょ?」

「ここに来たのは別の目的だよ」

「そうなの?」

 

 田中君は少しだけ驚いたような声を上げた。顔に皮膚を張り付けているせいか、表情がわかりづらい。


「うん。まあ、でも一度やってみたかったんだ。だから聞いてくれるなら、訊いてほしいかな」

「どうして俺だとわかったの?」

「そうだね」

 

 僕は頷き、ニヒルな笑みを浮かべながら質問をする。


「田中君はさ、ミステリーとか嗜む人間だったりする?」

「人並み程度には」

「じゃあ、論理的でない推理とか許せない?」

「質問の意味がよくわからないな。推理は論理的だから推理なんじゃないのかい?」

「うーん。なんて言えば良いのかな。推理ってのは、誰もが納得できる論理の元に行われる、謂わば相互理解のためのプロセスだろ? でも、僕が今から話そうと思っていたのは、主観百パーセント、納得なんて出来ないであろう戯言みたいな推理なんだよ。だから田中君が論理的な推理しか許せない頑固者だとしたら、あまり耳心地が良いものではないだろうと思ったんだ」

「なるほど」

 

 田中君はニヤリと笑った。


「それなら両方訊きたいな」

「欲張りだね」

「君が訊いてほしそうに見えたからね」

「それは勘違いだよ。僕は論理的な推理なんてしたくない。だってそれじゃあ、まるで探偵みたいだろ? 僕は探偵がこの世で一番嫌いなんだよ」

「ふーん。それならなおさら両方訊きたいかな」

「あれ、おかしいな。僕の話聞いてた?」

「聞いたうえで両方訊きたいんだよ」

「無駄だと思うけど」

「世の中無駄な事なんてないよ。今だって君の嫌がることをすることで、俺のうっ憤も少しは晴れるんだしね」

「やっぱり見た目だけのくそ野郎だね」

 

 僕は苦笑いを浮かべながら肩を竦めた後に、咳ばらいをし、推理を始める。


「じゃあ、要望に応えて。まず論理的な推理一つ目。面倒だから①としようか。①は犯人が男である場合の推理だ。といっても、これは別に難しい論理は必要ないけどね。容疑者は二人だけで、二人の家庭環境を比べれば自然と犯人が分かるんだから」

「家庭環境?」

 

 田中君が訊き返してくれる。推理をするうえで、話を促してくれるのはとてもありがたい。さすがミステリーを嗜むだけはある。


「そう。一連の事件において、犯人は犯行をすべて外で行い、さらに遺体も外へ放置していた。だけど、普通に考えれば外へ放置するのは危険があるだろ? 事件化させない一番の方法は、遺体を見つけさせない事なんだから。それこそ自宅にでもバラバラにして、置いておけばいい。それなのに、犯人はそうしなかった。連続殺人を計画していたにもかかわらず、遺体がみつかってしまうようにしていたんだ。じゃあ、なぜ犯人は外へ放置したのか? 考えるまでもない。自宅に置いておけない事情があったから」

「そのことと家庭環境が、どう関係するのさ?」

「山内君はね、一人暮らしなんだよ。つまり自宅に遺体を置いたとしても、見つかる危険がない。片や田中君は、家族と暮らしているだろ?」

「なるほど。確かに家族と暮らしていたら、遺体なんて置いておけないね」

 

 実際過去にも、部屋の押し入れに遺体を放置した結果、異臭に気づいた家族によって発見されたという事件もあった。


「ただこの推理は、犯人が男である場合であって、この事件の犯人は女性だ」

「男でも犯行は可能だろ?」

「無理だよ。一連の事件で、被害者たちは犯人に人気のない場所に連れて行かれてから殺害されている。言い換えれば、自分から人気のない場所についていったという事。仮に犯人が男なら、被害者がついていくわけがないんだよ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ