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セシルが薬師になって数ヶ月が過ぎた。

アルフレッドとは顔を合わせることは何度かあったが、そのたびに仕事を早く辞めて田舎に帰れと言われ、いい加減に言われることにも慣れてしまっている。

アルフレッドの姿を見るとやはり胸がドキドキしてしまい、遠くに彼の姿があると目で追っている自分に気づきセシルは自分の気持ちを認めたくはなかった。

酷いことを言われている人を好きになるなどありえない。

優しくされているわけでもないし冷たい対応をされているのにどうして好きになる要素があるのだろうか。


(結局顔ってこと?)


籠から処方箋を取り出しつつなぜアルフレッドが気になるのかと思案する。

顔がいいから好きになったのかと思うと自分はそんな人間だったのかと少しがっかりしてしまう。性格がいい人が好きだと思っていたが結局顔なのか。

不安になっているところにセリーヌが声を掛けてきた。


「セシルちゃんも仕事に大分慣れたからそろそろ漢方薬に手を出して見ない?」


「ありがとうございます」


セシルが得意としている漢方を教えてくれるというセリーヌの言葉に飛び上がって喜んだ。

棚の一部は漢方専門になっておりセリーヌのみが処方していたが、やっとセシルもお許しが出たのだ。


「実はこの棚の漢方の材料は購入しているのがほとんどだけれど、薬草を育てて活用している原料もあるのよ。その畑を午後案内するわね」


「わぁ、それは凄いですね。漢方の種類も多いので学ぶのが楽しみです」


実家で漢方を扱っていたが、決められた種類だけだったのでセリーヌが調合している棚を見るたびに早くやってみたいと思っていたそれが今日叶うのだ。

セシルが扱っていたよりも漢方の種類が多い原料の棚を見て早く調合したくてウズウズしてしまう。



昼食を食べた後にセリーヌの案内で裏庭へと向かう。

木々がうっそうと茂っている裏庭はよく見れば整地されているがセシルにはただの山に見えることもある。

うっそうと茂る木々の間の細い道をセリーヌの後に続いてセシルは一生懸命歩いた。


「城の中の場所はだいたい把握したのですが、外はまだ迷宮のようで寮と城を行き来するぐらいで精いっぱいです」


セシルが寝泊まりしている寮と城の間はかなり道が入り組んでいる。

裏庭というよりは森の中に迷い込んでしまったと思えるほどだ。

夏も近づいていることから日差しが暑く木陰を選びながらかろうじて舗装されている道を進む。


「侵入者を迷わす効果があるとかでこうやって庭が広いらしいわよ。本当かどうか知らないけれど。迷惑よねー。それだけ土地が開いているからこうやって私たちも薬のための畑を持てたから良かったけれどね」


息を切らしながら歩いているセリーヌの後ろからセシルも続く。

二人でスコップと籠を担いで歩いている様はとても薬師には見えないだろう。

すると細い道の向かいから歩てくる黒い騎士達の姿が見えセシルたちは立ち止まった。


「あら、フィリップ達だわ」


巨体の男が大きく手を振っているのを見てセリーヌは喜んで手を振り返す。

ぞろぞろと男数人が歩いてくる中にアルフレッドの姿も見えてセシルは胸が高鳴った。

まさかこんな場所で会うとは思わず必死ににやける顔を必死に抑えて無表情を貫く。

むしろ会いたくなかったと言う雰囲気を醸し出しながらセリーヌの後ろに立った。


「セリーヌ。畑に行くのか?」


森の奥から歩いてきたフィリップはセシルの前に来ると歯を見せて笑いながら話しかけた。


「そうよ」


担いでいたスコップを見せるように頷くと、フィリップはセリーヌとセシルを交互に見る。


「大変だな。今朝少し雨が降ったおかげでぬかるんでいるから気を付けろ。俺達もこのありさまだ」


そう言うフィリップの足元は泥だらけだ。

フィリップの後ろに立っているアルフレッドを盗み見ると彼の足元も泥で汚れていた。

フト顔を見てしまい青く綺麗な瞳と目が合った。

真顔だったアルフレッドはセシルと目が合うと眉間に皺を寄せて睨みつける。


(どうして私を睨みつけるのかしら)


気になる相手に睨まれると悲しくなるが、アルフレッドの冷たい態度にもだいぶ慣れてしまった。

以前なら落ち込んでいたが今はニッコリと笑い返すぐらいの余裕が生まれている。

微笑むセシルを見てアルフレッドはますます眉間に皺を寄せた。


「お前は、セシルちゃんを睨みつけるな!誰にでも優しいお前が本当に好きな子には奥手だなぁ」


フィリップが注意をするとアルフレッドはこめかみに指をあてて俯いた。


「頭が痛い……」


呻くように言うアルフレッドにフィリップは困ったように背中を撫でる。


「急にどうした?さっきまで元気だっただろう。先ほどの訓練で頭でも打ったか?」


誰か知っている者は居ないかと後ろに立っている騎士達を振り返るが、困惑したように誰もが首を振った。


「お医者様に診察してもらった方がいいんじゃない?」


セリーヌの言葉にアルフレッドは苦痛に顔を歪ませながらゆっくりと首を振った。


「大丈夫です。少し寝れば治る」


「でもねぇ、痛み止めぐらいはもらっておいたら?」


心配をしているセリーヌにフィリップも頷いた。


「そうだな。医者に行かせるよ」


アルフレッドは頭の痛みに顔を歪ませながらフラフラと歩き出した。

細い道は人が一人歩けるぐらいの細さのために、セシルは彼の為に道を避ける。

辛そうな顔をして歩いて来たアルフレッドはセシルの横を通り過ぎる時に顔を上げた。


「あんたの顔を見ていると頭が痛くなる気がする……」


呟くように言われてセシルも顔をしかめた。


「酷い。それにアンタじゃなくてセシルよ」


「その声が頭に響く……」


眉間に皺を寄せたままセシルを睨むとフラフラと城へと向かって歩いていく。

その後ろを困った顔をしたフィリップ達が続いた。


「セシルちゃんも悪かったね。どうも、好きな子には口が悪くなるようだ」


アルフレッドに好かれているなどこれっぽっちも思えないがセシルは何とか愛想笑いをうかべて頷く。

「気にしていませんから」


気になる人に声が頭に響くと言われて落ち込んでいるが、それを見せるわけにはいかない。

気にしていませんよというように余裕を見せた。


「じゃ、畑仕事気を付けて」


「ありがとう」


フィリップ達も見送りセリーヌはスコップを担いだ。


「アルフレッド君は、最近調子悪いのかしらね。頭が痛いなんて」


「そうですね。それに私なんてまた睨まれましたよ」


「どうしてかしらねぇ」


不思議そうにしながらも二人は細い道歩く。

フィリップの言うとおり、道はだんだんとぬかるんでいき少し開けた場所に小さく作っている畑に着くころには足元に泥が跳ねていた。


「ここに薬草をいろいろ植えているの」


森の一角に一見すると草が乱雑に生えているように見えるが、よく見ると図鑑に載っている薬草だとわかりセシルは喜んだ。


「教科書や図鑑に載っていた通りですね。この木はキハダだし、草に見えるけれどハナスゲも生えているわ」


感動しながら畑に踏み入れ一つ一つ眺めているセシルにセリーヌは微笑んだ。


「連れてきて良かったわ。畑の世話は専属の庭師がしてくれるから私たちは採取して乾かしたりするのが仕事ね。ちなみに、この畑は薬剤室以外もコックも一緒に使っているから。料理のスパイスなんかが植わっているからそっちは相談してから採ってね」


「はい」


セリーヌの言う通り、一角は赤い実を付けている唐辛子や橙なども植わっている。

料理のちょっとしたアクセントに使いそうな花や草が植も目に付いた。


(きっと王様の料理にだすのね)


自分たちが食べる寮や食堂で出される料理にはおしゃれな飾りなどついているのを見たことが無い。

間違って取らないように気を付けようと心に決めてセリーヌに指示されるまま薬草を採って籠に入れた。


(それにしても、アルフレッド様は大丈夫だったかしら)


頭痛といっても種類は様々だ。

セシルの母は天候やストレスなどで頭痛が起こるタイプだったが、アルフレッドは今まで頭痛が起こったことが無いと考えると、怪我や急病の可能性もある。


(病気だったら心配だわ)


ある日突然、頭が痛いと言ってあっという間に死んでしまった父を思い出してアルフレッドの様態は大丈夫だろうかと薬草を採りながら思った。

あれだけ睨まれても彼の顔を見ると胸が高鳴ってしまう。


「やっぱり顔なのかしら……」


ポツリと呟いたセシルに少し遠くで薬草を採っていたセリーヌが振り返った。


「何か言った?」


「何でもありませんー!」


仕事に集中しようと気持ちを切り替えて薬草に手を伸ばした。





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