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「お前はぁ、どうしてそんな酷いことを言うのだ!可哀想だろうが。惚れている子はなぁ恥ずかしくても優しく接しないといけないんだぞ」


アルフレッドの後ろに居たフィリップが音を立ててアルフレッドの頭を殴りつけた。

巨体に殴られたアルフレッドは痛みを抑えながら後ろを振り返る。


「だから、惚れているわけではないって言っているでしょう」


「人当たりのいいお前が、一人の女性だけに愛想が悪くなるなんて完璧に照れ隠しだろう。おじさんにはすべてわかっているから!」


ガッハッハッと大きな声で笑うとアルフレッドをセシルの前に座らせた。

もっと酷いことを言われるのではと警戒しながら、これは仕事だと自分に言い聞かせてアルフレッドの名前が書かれた薬の入った袋を取り出した。

彼の姿を見ると泣きたくなるような複雑な気分になるのでなるべく目を合わせないように俯いたまま薬を袋から出した。


「痛み止めの薬一週間分と、シップ薬です。シップは朝と夜で一日2回張り替えてください。痛み止めも朝と夜に一錠ずつ飲んでください。質問はありますか?」


それぞれ薬の説明をするが、彼から返事が無いのでチラリと前に座るアルフレッドを見た。

無表情なアルフレッドと目が合って慌てて逸らす。


「特に質問はない」


冷たく言われてセシルは落ち込んでいく心を悟られないように頷いた。


「では、確かに薬をお渡ししましたので失礼します。お大事に」


席を立つセシルにアルフレッドは冷たく言い放つ。


「お気遣いどうもありがとう。君も、人を助けるような仕事は向いていないからさっさと辞めた方がいいよ」


(仕事が向いていないとかどうしてそんなことを言われないといけないの!)


埃を持ってやっている薬師の仕事をなぜ仕事仲間でもない人に言われないといけないのだろうかと少しむっとしてアルフレッドの青い瞳を見つめた。


「薬師は私に向いている仕事です!貴女に言われる筋合いはないわ」


勇気を振り絞って言うセシルにアルフレッドは目を見開いて驚いている。


「……その言葉はなぜか気分が悪くなるな……」


呟くように呆然というアルフレッドにセシルは顔をしかめた。


「何を言っているの?」


ただ言い返しただけなのに、アルフレッドになぜか悪いことを言ったような気がしながらもセシルは首を傾げる。

不思議そうにしているセシルにアルフレッドは手を振った。


「いや、気にしないでくれ」


疲れたように額に手を当ててため息をついたアルフレッドの顔色が悪いように見える。


「頭が痛いの?」


「足よりは痛くない。ストレス系の頭痛だと思う。時間が経てば治る」


さっさと帰ってくれと言わんばかりの冷たい言い方にセシルは肩をすくめた。


「足の痛み用に出している痛み止めだけれど、頭痛にも効くと思うから、早めに薬を飲んでくださいね。できれば空腹時を避けてください。お大事に」


今度こそ退出しようとセシルは歩き出した。

具合が悪そうなアルフレッドは心配だが、自分が居るとますます彼の機嫌が悪くなるような気がして頭を下げてドアへと向かう。


室内に居た騎士達が作業を止めてセシルとアルフレッドの様子を見ていたが慌てて忙しそうに作業を開始しだした。


「失礼しました」


頭を下げるセシルに、室内に居た騎士達が一斉に頭を下げた。


「これに懲りずにまた来いよ。アルフレッドらしからぬ言動は恥ずかしさを隠しているだけだから本気にするなよ」


ニッコリと笑うフィリップにセシルは愛想笑いをする。


(恥ずかしさなんて生易しい感じではない気がする。私を毛嫌いしているよう何かを感じる)


そう思うと少し寂しくなってセシルは護衛騎士の詰め所から廊下に出ると大きく息を吐いた。


「どうしてそんなに嫌われないといけないのかしら。嫌ってほしくないのに」


(嫌ってほしくない?)


思わず口から出た言葉にセシルは驚いて首を傾げる。

アルフレッドの姿を見れば胸がドキドキして息苦しくなるが絶対に恋をしているとは思いたくない。

失礼なことしか言われていない上に、相手からも嫌われているような雰囲気のどこに恋をする要素があると言うのだろうか。

それでも気になる存在だという事は否定できず、セシルは憮然とした気持ちのまま薬剤室へと戻った。




薬剤室へと戻ると、セリーヌが手を振って迎えてくれる。


「お帰りー。どうだった?アルフレッド君と仲は進展した?」


興味がありそうに聞いてくるセリーヌにセシルは唇を尖らせる。


「進展って、ただ薬を渡しただけですから。それに、今日も態度は冷たかったです。微笑みの王子だなんて嘘なんじゃないですか?一度も微笑んでいないし、むしろ険しい顔をしていました!失礼だったわ」


怒りながら自分の机に向かい、椅子へと腰かける。

アルフレッドに会う前までは不安だったが、実際会った後は人を助ける仕事は向いていないと言われた言葉に怒りが収まらない。


初日に泣いてしまったのは不安感からくる精神不安だったのだと納得しながらセリーヌを振り返った。

セリーヌはセシルを生暖かい瞳で見つめている。


「アルフレッド君はセシルちゃんにだけ冷たい態度なのよ。絶対照れ隠しよ。それ以外考えられないわ。恋って素晴らしいわ。甘酸っぱい思い出、初恋すべて懐かしい」


「一体どこからその発想が来るのか不思議です。明らかに私を嫌っているというか、なぜか私が人を助ける仕事をするのを否定してくるんですけれどどうしてですかね?」


何回も薬師をやめろと言ってくるアルフレットの言動はさすがのセシルも気になってしまう。怒りながら言うセシルにセリーヌは詰め終わった薬を籠の中に入れながら頷いている。


「さぁ?なぜかしらね?薬師としてはしっかり資格もあるし、ちゃんと薬も処方箋通りに間違えなく用意できるし、薬の説明もできる優秀な新人だと思うわよ。だから辞めないでね!」


大量の用意し終わった薬を抱えているセリーヌに言われてセシルは頷いた。


「辞めるつもりなどありません」


「良かったわー。色々聞きたいけれど、薬を配ってくるわね」


大量の薬が入った籠を持ってバタバタと部屋を出て行くセリーヌを見送ってセシルはため息をついた。

まだハンナも戻ってきておらず薬剤室にはセシル一人だ。


窓から差し込む夕日を見て机の上にうつ伏した。


「どうして、アルフレッド様は私を嫌うのかしら」


軽くあくびをして赤く染まる空を見つめていると、瞼が重くなる。

仕事中なのだから寝てはダメだと思うが、勝手に瞼が下がってくる。

ウトウトしながら何とか瞼を開けようとするが、酷い眠気には勝てずにセシルは少しだけ眠ろうと瞼を閉じた。


“アルってば、どうしてそんなこと言うの。私は人を助けることに誇りを感じているの。絶対にやめないわ”


頭の中で懐かしい自分の声が聞こえる。


強く肩を揺すられてセシルはハッと目を覚ました。


(いつの事だったかしら。懐かしい記憶?)


ボーっとする頭で考えているとハンナの強い声が耳元で聞こえる。



「セシル。大丈夫?」


ハンナにもう一度肩を揺すられてセシルは慌てて起き上がった。


「一瞬だけ寝ていたわ」


「一瞬?」


ゆだれを拭きながら言うセシルにハンナは冷たい目を向けた。


「本当に一瞬よ」


「ふーん。で、どうだった?アルフレッドさんと会った感想は」


またその話をしないといけないのかとセシルはうんざりしてしまう。


「また酷いこと言われたわ」


セリーヌと同じ内容を説明しながらセシルは先ほど見た夢を思い出した。


懐かしいと感じるような不思議な夢。


(アルって呼んでいたのはまさかアルフレッド様の事?)


彼の事を気にしすぎているせいだろうか。


(夢の中では幸せだったような、辛かったような不思議な気持ちだったような。多分アルフレッド様と会ったストレスで見たのね)


セシルはそう納得して、ハンナに今日あったアルフレッドに言われた酷い事を報告した。


「絶対に、アルフレッド様は私の事が嫌いなのよ」


全て報告が終わった後に、セシルが言うとハンナは肩をすくめる。


「でも、どうしてセシルにだけ冷たいのかしらね」


「さぁ、なぜか私が人助けするようなことをしているのが気に入らないみたいよ」


「不思議ねぇ。でも半年後に付き合ってもらわないと私のお金が消えてしまうのよ」


お互い首を傾げたなぜアルフレッドがセシルに酷いことを言うのかは分かる訳もない。

もやもやとした気分を抱えながら寮へと帰った。





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