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26 その後

崖崩れから数日が経過した。

セシルは一日寝込んだだけで、直ぐに床払いをした。

セシルの不思議な力を知られてしまい大騒ぎになるかと思ったが、城の中を歩いていても普段と変わりなく少し拍子抜けしてしまう。

マーガレット王妃と事情を知っている護衛騎士達が上手く言ってくれていたという事だろう。

セシルは、崖崩れでマーガレット王妃とフィリップの怪我を治して力を使いすぎて、力を失ったという事になったと言われた。


あの日から力を使っていないから、本当に力があるのかどうかは不明だ。

アルフレッドが悲しむからセシルはもう力を使わないと心に決めている。

念のためにと数日仕事は休んだが、セシルの体調は万全だ。

薬剤室の前の扉を見つめてセシルは大きく息を吸い込んだ。


「緊張するわ」


崖崩れから初めて職場へ出勤する。

セリーヌもハンナも気を使ってか一度も面会に来なかったが心配していると人づてには聞いていた。

癒しの力を隠していたことを責められるかもしれないと言う不安が少しだけよぎったが、きっと大丈夫だろうとセシルは緊張しながらドアを開けた。


「おはようございます。お休みを頂いてすいませんでした」


頭を下げながらセシルが部屋へ入ると、セリーヌとハンナが交互に抱き着いてきた。


「セシルちゃん!体は大丈夫?」


目に涙を貯めながら手を握って聞いてくるセリーヌにセシルは頷く。


「はい。お休みをいただきましたので」


「そうなの。良かった。フィリップを治してくれてありがとう。セシルちゃんはフィリップの命の恩人よ。そして私の命の恩人でもあるわ」


「そんな大げさな」


「大げさなものですか。フィリップがもし死んでいたら私も死んでいたわ。本当にありがとう。でも、もう力を失ってしまったのですってね。ごめんなさい」


本当に力を失っているかは不明だがセシルは頷く。


「そうみたい……です」


「お見舞いに行きたかったけれど、面会謝絶だったから心配していたの」


面会謝絶だったのは初耳だったのでセシルは驚きながらも頷く。

アルフレッドは毎日来ていたので面会ができないとは思いもよらなかった。


「こんなこと言ったらいけないけれど、力が無くなって良かったわよ」


泣き出しているセリーヌにつられて涙を流していたハンナはハンカチで目を拭きながら言った。


「そうかしら?もう、誰も救う事が出来なくなったかもしれないのに……」


セシルが言うと、ハンナは首を振る。


「そんな不思議な力に頼ったらいけないわよ。セシルの体を壊してしまうのでしょう?良くないわ。私たちには薬で人を助けることができるのよ。それで十分じゃない」


癒しの力が無くなったかもしれないことを残念に思っていないハンナにセシルは苦笑する。


「そうね。ありがとう」


力が無くなってもったいないとか言われるかと思ったが、違ったらしい。

セリーヌも同じように頷いている。


「フィリップを助けてくれたのに、こういういい方は良くないとはおもうけれど、セシルちゃんの体を壊してまでやる事ではないのよ。鼻から血を流しているのを見て、かなり体に良くないと思ったわ。本当に大丈夫なの?」


「今のところは、悪いところは出ていないです」


「昔は、弱って死んでしまった人もいるらしいわ。本当に気を付けないと」


心配をしてくれているセリーヌにセシルは再度頭を下げた。


「ありがとうございます」


ハンナとセリーヌは涙を拭いて気持ちを切り替えるように二人とも顔を見合わせてニヤリと微笑んだ。


「それでね、もう一つ聞きたいことがあるのよ」


「アルフレッド様とはどうなっているの?付き合っているの?」


癒しの力よりもアルフレッドの事の方が聞きたかったと言うように二人はセシルに迫って来た。

あまりの迫力にセシルは一歩下がる。


「どうと言われても」


何と言っていいものかと、言い淀む。

前世からの知り合いでなどと言ったら大騒ぎするに決まっている。

セシルが口ごもっていると、ハンナは知っているのよというように人差し指を立てた。


「私が立てた仮説なんだけれどね、アルフレッド様はセシルにずっと恋をしていた。でも恥ずかしくて言えずなぜか少しそっけない態度を取っていた。しかし、崖崩れが起きてセシルが倒れた時に本音が出てしまったのよね。“頼む、もうやめてくれ”って」


今までのセシルとアルフレッドの関係をハンナは勝手に解釈して話し始めた。


「はぁ……」


呆気に取られてセシルが頷くとハンナはニヤリと笑う。


「当たっているわね!あの日、セシルが死んでしまうかもしれないと思ったアルフレッド様はやっと本音を出すことができたのよ。“俺を置いて死なないでくれ”って。セシルを愛していることにやっと素直になれたのね。感動的な場面だったわよね」


後半は隣に居るセリーヌにハンナは言った。

セリーヌも夢を見る乙女の様な顔をして回想をしながら頷いている。


「素敵だったわ。大雨の中で、倒れたセシルちゃんを抱きしめる騎士。まるで姫様とそれを守る騎士のようだったわ」


全くその通りなのだが、セシルは首を振った。


「美化されすぎじゃないですか?」


「私も、フィリップが死にそうだったから気が動転していたけれど、なぜかよく覚えているの。とても幻想的ないい光景だったの」


うっとりと夢を見ているセリーヌを横目に、ハンナはセシルに迫って来た。


「で、毎日アルフレッド様はセシルと特別に面会していたみたいね。あなた達は付き合っていると言う事でよろしいですかな?」


真剣な顔をして聞かれてセシルは考えた。

お互い、愛の告白をしたような気がするがこれは付き合っているという事でいいのだろうか。

当たり前のように毎日アルフレッドはセシルを訪ねてくるが、力を使っていないかの確認に来るだけで、恋人同士のような甘い状況になったことは無い。


「うーん。付き合うって何?」


アルフレッドとは付き合っていると言っていいのだろうかと本気で悩んでいるセシルにセリーヌとハンナは顔を見合わせた。


「やっぱり、賭けの判定は王妃様認定の日になるわね」


「結局、ミレーユ姫の一人勝ちってわけね」


二人の会話を聞いてセシルは動きを止めた。

すっかり忘れていたが、まだ賭けは続いていたようだ。


「ちょっと待って。ミレーユ姫も賭けていたの?こんなくだらない事に?」


「くだらないとは失礼ね。城中の人達が注目していたわよ。ミレーユ姫は日にちも当たっていたのよね。凄いわね」


「日にちも当ったとは何?だいたい私とアルフレッド様は付き合っていると言っていいの?」


また悩み始めたセシルにハンナは慰めるように背中を撫でる。


「いいのよ。もう結果は出ているから。あなた達はゆっくり愛を育んで。先を越されたのは辛いけれどね」


涙を拭うふりをして言うハンナにセシルはどこか納得できない気持ちを抱えながら仕事へと復帰した。


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