20
「聞いたわよー。アルフレッド様とデートしたでしょう!」
昼休みになり、食堂へと向かいながら隣を歩いていたハンナがにやりと笑った。
セシルはゆっくりと首を振る。
「デートじゃないわ。セリーヌさんに頼まれて薬草を仕入れてお昼を公園で食べただけよ」
「それをデートって言うのよ」
セシルも、前半はデートっぽくていい思い出たが子供の怪我を治したのは良くなかった。
一緒にお昼を食べられた喜びよりも、口煩いアルフレッドだったなという思いが大半を占めてしまっている。
本人は覚えていないが前世でセシルの護衛騎士だったために魂レベルでセシルは守る存在であり、力を使わせないようにしないといけないと記憶させられているのだろう。
好意があるとか、セシルが気に入っているなどというわけではなく、反射的に守ろうとしているに違いないとさえ思ってしまいセシルからしたら散々な公園デートだった。
「まぁ、甘い雰囲気にならなかったからって落ち込まないで」
黙って考え込んでしまったセシルが落ち込んでいると感じたのか、ハンナは励ますように背中を叩いた。
「違うって!そういう関係じゃないって言っているでしょ」
必死に言うセシルをハンナは軽く笑う。
「またまた、あなた達今は運命の相手同士って言われているのよ」
「またその話ね……」
前も聞いたなと思いつつ、セシルとハンナは食堂に入りトレイを取った。
お昼のピークは過ぎていて食堂で食事をしている人も疎らだ。
パンと揚げ物、サラダを頼んで席に着く。
ハンナもセシルと同じメニューをトレイに乗せて向かいの席へと座った。
「飛んできた折れた剣から身を挺して守る騎士と、守られるセシル。セシルが城の外に買い物に行けば守るようについて行く騎士。もうアルフレッド様はセシルの護衛騎士じゃないのなんて噂されているわよ」
揚げ物を食べながらからかうように言うハンナにセシルは呆れてしまう。
「たった一回だけの事をいわれてもねぇ」
そう言いつつ前世では実際そう言う関係だったのだから噂も嘘というわけでもない。
「その一回が凄いって言っているのよ。たまたまその場にいるなんてことは無いわね。アルフレッド様はセシルを守るために居るのよ!ってお姉さまたちがキャッキャしているわよ」
「バカバカしい」
冷めたいい方をしたセシルだったが、内心ではそうかもしれないと思いながらパンをちぎって口に入れた。
(もし、そうだとしたらアルフレッド様には自由はないわよ。守りたくもないのに守らないといけない運命だとしたら、その相手から気も無いのに好意を持たれたらそりゃ、避けたくもなるわよね)
前世で騎士と姫だったと言う妄想とは思えない過去が真実だったとしてこうしてまた出会ったとしたら運命だとしか思えない。
少し前のセシルだったら運命などと鼻で笑って済ませていたが、ここまで来ると運命はあるかもしれないと思ってしまう。
だとしたらアルフレッドが可愛そうだ。
前世では仕事だからとセシルを心配していたのに、勝手に護衛対象から好意を持たれて結婚までさせられそうになればセシルを嫌いになっても仕方ないと理解が出来てしまう。
そしてまた出会って好意を持たれたと知ったらアルフレッドはどう思うだろうか。
そこまで考えてセシルは青ざめた。
(彼がどう思うが気にしないと思っていたけれど、やっぱりあんまりだわ。これ以上、関わったらもっと嫌われてしまうかもしれない!)
一人で青い顔をしているセシルを見てハンナは首を傾げる。
「さっきから何を一人で考え込んでいるの?もしかして、皆が噂している事……気に障った?」
「気に障ったなんてものじゃないわ!そんな噂されていたのではアルフレッド様に失礼よ」
物凄い剣幕で言うセシルにハンナは飲み込もうとしていたパンが詰まりそうになりながら頷いた。
「そ、そうね。……いや、彼はそこまで考えていないかもしれないわよ」
「そんなことないわ!絶対失礼よ。私みたいな女が運命の相手だなんていわれたら失礼極まりないわ!」
「そこまで言わなくても……」
「いいえ。私決意したわ、噂が立たないようにアルフレッド様に近づかないようにする」
決意をするように宣言したセシルにハンナは面白そうな顔をしながらも頷く。
「いやー、無理だと思うわよ」
「どうしてよ!」
ムッとして言うセシルにハンナはにやりと笑った。
「だって、間違いなく運命の人同士だと思うもの!」
「バカバカしい!本当、そんなのありえないんだから!」
(もし運命の相手なら、再会した時にあっちだって私に好意を持ってくれてもいいじゃない!それなのに睨まれて、私を見れば頭が痛いってあんまりよ)
鼻の穴を大きくして興奮しているセシルの後ろからセリーヌが声をかけた。
「お疲れ様。あなた達の会話、食堂に丸聞こえよ」
苦笑しているセリーヌにセシルは慌てて食堂を見回す。
人が少ないために声が響いていたようで、食事をしていた数人の騎士と侍女達が微笑ましいものでも見るようにセシルを見つめていた。
「色々な意味で最悪だわ……」
急に恥ずかしくなりセシルは身を小さくしながら食事を再開する。
セリーヌは昼食の乗ったトレイを置いてセシルの隣に腰を掛けた。
「アルフレッド君が運命の相手だっていうのを嫌がるのもわかるわ!照れちゃうわよね」
「いや、照れているとかじゃなくて……」
セシルの言葉をセリーヌ聞いていないのか自分の世界に入ったままうっとりと天井を見上げた。
「アルフレッド君は城の騎士でそれも王妃の護衛騎士って言うエリートで女性のファンが居るぐらいの美形が、か弱い薬師の女の子を守る運命だったなんて素敵じゃない!これ、本にしたら売れるわよ」
「売れませんよ」
うんざりしながら言うセシルにセリーヌは不満そうだ。
「残念ねぇ。あ、そうだ。今度、マーガレット王妃が出席するヤギ祭りのイベントがあるのよ。よかったら見学しに行かない?」
急に話題を変えたセリーヌを不振に思いながらもセシルは首を傾げた。
「ヤギ祭りってなんですか?ヤギの毛を狩るイベントですか?」
「まぁ、似たようなものね。長い歴史の中で夏に入る前にヤギさんありがとう!みたいな町おこしのイベントだと思ってもらえればいいわ。要は祭りで騒ぎたいみたいな。その開会式にマーガレット王妃がご出席されるからよかったら見に行かないかしらと思って。屋台も出るし結構楽しいわよ」
「何か考えていません?急に話題を替えるなんて怪しい」
なぜセリーヌが誘ってくるのだろうかと不振に思っているセシルの視線にセリーヌは気まずそうに視線をそらした。
「まぁ、下心があるとすれば、王妃の護衛騎士がついて行くからアルフレッド君となんかあったらいいなという気持ちが少しはありました。でも多分何もないわ。王妃様から離れられないから。それに、ウチの旦那も護衛だから一緒にお祭りを回れないし、一人じゃ寂しいじゃない?」
もうアルフレッドとは関わらないと決めておきながら、彼の姿を見ていられるなら行きたいと心がウズウズしてしまう。
素直に謝っているセリーヌを見てセシルはつい頷いてしまう。
「いいですねぇ。そのお祭りはいつなんですか?」
乗り気になったセシルにセリーヌはぱぁと笑顔を見せた。
「来週よ!ちょうど、私も、セシルちゃんもハンナちゃんもお休みなのよ!」
「あれ、私も行くことになっているんですね。暇なのでいいですけれど!」
自分は関係ないとばかりにご飯を食べていたハンナも驚きながら頷いた。
「良かったわ!来週、楽しみましょうね~」
「お祭り楽しみですね!」
合法的にアルフレッドを見ることができるのはちょっとうれしいと思いながらセシルはお祭りの部分を強調しながら頷いた。