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療養室のベッドの上でアルフレッドは横たわったまま一度も目を覚ましていない。

時刻は深夜二時。


事故が起きてからセシルは一度寮へと帰ったが、頼み込んでアルフレッドの傍に居させてもらっていた。


医師によると頭の傷は深くかなり深刻な状況だと診断され、いつ目を覚ますかは分からない。もしかしたら一生目を覚ますことも無いかもしれないとまで言われた。

自分を庇ったせいでアルフレッドに深刻な怪我をさせてしまった。

小さな個室の療養部屋でベッドの横の椅子に腰かけてセシルはギュッと唇を噛んだ。


「私のせいで怪我をしたんだ」


アルフレッドに送ってもらわなかったらこんな怪我をしなくて済んだかもしれない。

青白い顔をしてベッドの上で横たわっているアルフレッドを見つめる。

怪我をした頭には包帯を巻かれていて、白い包帯は赤い血が滲んででてきている。

まだ血が止まらないアルフレッドの怪我の状態はかなり深いのだろう。


(これでは前と同じだわ)


ふと思ったことに首を傾げる。


前ってなんのことだろう。


アルフレッドが怪我をしてベッドに横たわっているのを見るのは初めてではない気がしてまた首を傾げた。

知らない出来事なのに、過去にアルフレッドを看病したことがある。

初めてではないという確認に遠くにある記憶が蘇りそうな気がして、アルフレッドの手をそっと握った。


(確か前もこうして手を握ったわ)


前とは何だろと言う疑問を持ちながら、アルフレッドの手を握れば彼を助けることができると確信があった。


「大丈夫。きっと助かるわ」


セシルは呟いてアルフレッドの手を両手で包んだ。


“アルは私が助けるから!”


頭の中で声が響いた。


セシルは目を瞑って記憶の糸を辿る。


うすぼんやりと映像が見え、アルフレッドとよく似た顔をした男性がベッドの上に横たわっていた。

胸から大量の血を流し、包帯に血が付いている。

セシルとよく似た女性が必死にアルフレッドと似た男性の手を握りって自らの額へとつける。


祈るように目を瞑るとセシルとよく似た女性の両手が光った。


横たわっていた男性が身じろぎ目を覚ました。


“なぜ、怪我が治っているんだ。姫さん、力を使ったな”


映像の中の男性はかすれた声を出した。

声もアルフレッドとよく似ている。


“だって、アル死んじゃうもの。私の力を使えば怪我は治るわ。アルに死んでほしくないから”


セシルとよく似た女性は男性の手を握ったままポロポロと涙を流した。


“姫さん、力はもう使うなと言ったはずだ。貴女の命を削っている可能性があるだろう”


ベッドに横たわったままアルフレッドに似た男性は長いため息をついた。


“私を庇ってアルが死にそうな怪我をしたのよ。生きていて欲しかったの。力があるなら人のために使わないと”


セシルがそう言うと、アルと呼ばれている男性は額に手を置いてまた息をつく。


“他人を治して、自分が弱っていたら意味がないだろう”


“助けられる人は助けるわ。アルと一緒よ”


“俺は仕事だ。姫さんの護衛騎士なのだから命がけで庇うのは当たり前だろう”




ハッとセシルの目が覚める。



「今の映像……過去の私?」


アルと呼んでいた男性と同じように横たわるアルフレッドの手を握りながらセシルは呟いた。

夢ではないと言い切ることができる。

過去の自分とアルフレッドだ。

意識がはっきりしてきて夢で見た出来事が過去にあった事実だと認識ができた。

部分的にしか思い出せないが、自分が姫でアルはその護衛だった。


「姫だなんてそんなキャラじゃないのに……」


セシルは呟いてやっぱりただの妄想ではないかと不安になる。

それでもアルフレッドを治すことができると確かな確信がある。



セシルはアルフレッドの手を握って過去の自分がやったように額へと付けた。


「私なら、アルフレッド様の傷を治せる」


そう宣言をして心の底から未知の力を注ぎこむようにアルフレッドの手をギュッと握った。

胸の奥が熱くなり両手の平が痺れたような感覚になり、パァッとセシルの両手が光った。


光は強く暗かった病室が明るくなる。


一瞬で体力を使い果たしたような感覚になってセシルは肩で息をした。


全力疾走をした後のような息苦しさに荒く息をしていると、アルフレッドの瞼がピクリと動いた。

ゆっくりと瞼が開き、ベッドの横に座っているセシルを見て目を開く。


「どうしてアンタがここに」


アルと同じ声で言われてセシルは懐かしさで胸がいっぱいになりながら答えた。


「私を庇って怪我をしたから心配したのよ。怪我はどう?」


セシルの言葉にアルフレッドは初めて怪我をしていたのだと気付き頭に手を当てる。


「痛みはないが……どれぐらいの怪我をした?折れた剣が飛んできて頭に当たったところまでは覚えているが」


「大怪我だったのよ。少しは良くなったかしら……」


セシルは座っているのもやっとなぐらい体力が消耗してしまいヨロヨロとアルフレッドが寝ているベッドへとうつ伏してしまう。


(良かった。怪我を治すことができたのね)


血色が良くなったアルフレッドの顔を見てホッと息を吐く。


「……おかしい。なぜ大怪我といいつつ痛みが無いんだ」


ベッドの上にうつ伏しているセシルを見て顔をしかめると、アルフレッドは床頭台から手鏡を取り出して自らの怪我の状態を見る。


頭に巻かれている包帯は血で赤く染まっているのを見てますます顔が険しくなる。


「怪我の割には痛みが無い」


呟いて包帯を乱暴に解くと傷口を手鏡で確認をする。

傷口はすっかり塞がっていて傷があったことすら分からないほど綺麗になっていた。

アルフレッドは信じられない気持ちで傷があったであろう場所を何度も触って疲労でベッドにうつ伏しているセシルを見つめる。


「何をした」


「……何もしていないわ」


何とか立ち上がろうとするが、力が入らずベッドへとうつ伏しセシルは小さな声で答えた。

アルフレッドは険しい顔をしてセシルを見つめた。


「おかしいだろう。なぜ傷が綺麗に治っている。なぜお前はそんなに疲労をしているんだ」


「凄い勢いで傷が治ったのね。もしかして、アルフレッド様はなにか不思議な力があるんじゃない?」


何とかごまかそうとするが、アルフレッドは首を振った。


「いや、俺じゃない。お前だろう。お前が何かをしたな!」


確信したように言われてセシルは口ごもる。


(アルは私の能力を否定していたわ。絶対にこの能力がバレたらいけない)


セシルは昔のアルと何も変わっていないと彼の声を聞きながら意識を失った。




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