おさけとたばこ
少年の耳には 優しい音が響く
木の葉がざわめく音 風の流れる音
そして穏やかな声が
「お父さんも、昔は酒も煙草もやらないと言ってたんだ」と
少年の口から溢れるのは 優しさ 温かさ
大好きだという声 幸せだという声
そして自慢げな声が
「そうなんだ。でも、僕はぜったいやらないよ」と……
父は酒を飲んだ 少量ならば、体にも薬だ
父は煙草を吸った ストレス解消に、役に立つのだろう
父は心を病んだ 目に見えない 重荷だ
父は家で暴れた 理由の分からない、唐突で長い悪夢
「……ちちはぼくたちをおいだした」
忘れてはいけない
変わってはいけない
僕は、あんな出来事はなんともないんだと
僕は、決して変えられたりしないんだと
叫ぶ
常にガラスにひびを入れながら
叫ぶ
段々と箱を歪ませながら
平静の仮面を被って、そう叫ぶ
誓え、父のようにはならないことを
証明しろ、父とは違うのだということを
望んだのは不変
得たのは歪
人としてどこか欠落した少年は恐ろしいほどに異質で
けれど、誰よりも人らしく
縋るように明日を見る
どんな一日でも
朝日は変わらずその場所に
不信で、偽りで、犠牲で、渇望。
不変で、望郷で、憎悪で、絶望。
そんな彼は、夜明けを信じて今日も息をする。
これが詩なのかはよく分かりませんが、読んでいただきありがとうございます。
基本明るめなダークファンタジー「化心」を連載中ですので、そちらも読んでいただけると嬉しいです。