忌み木のユグドラシル
ここは精霊の生まれる世界樹の地。
数年に1度、すごい精霊が生まれるんだ。
どうやらもうそろそろ新しい精霊が生まれるみたいだ。
あ、どうも。
残念ながらこの物語に主人公なんてものはないので僕が語らせてもらうよ。
え?誰かって?
そんなことはどうでもいいだろう。
ほら、新しい精霊が生まれるよ!
さぁ、どんな精霊か見てみようじゃないか!
そこにいるのは妖精王ティターニア。
一番最初に生まれた妖精の中の妖精!
彼女が生まれる妖精の立ち会いを毎回するんだ。
彼女はとても優しい子だ。
でも、今年はちょっと違うらしい。
いつもと様子が違う彼女、何があったのかな?
「さあ、新たな妖精よ。ここに生まれるのです。」
そう言って手を差し伸べる妖精王ティターニア。
し彼女の差し出した手に形を生して現れたのはとっても美しい女性の姿をした精霊!
ティターニアに及ぶほどの美しさ!
これは期待できそうだね!
「あなたの名前は……」
彼女が名前をつけようとした時だった。
その精霊は急に苦しみ始めたのだ。
そして、体をメキメキと変形させ、四肢が植物になってしまった!
困ったねぇ〜。
これじゃあ名前がつけられないのかな〜?
するとまた変化が起きた。
今度は体が大きくなり始め、頭には木の葉っぱが生えてきた!
おーいおい、どうなってるんだー?
そしてそれを見兼ねたティターニア!
「なるほど。貴方は、貴方は第2の世界樹なのですね。」
彼女は理解していたようだ。
一体どういうことなのかな?
説明してくれるかい?
そう聞くと、彼女は語り始めた。
第2の世界樹とは、本来なら生まれるべきではなかった存在なのだという。
世界樹とは今ここにある巨大な樹木のこと。
これが枯れたら、世界も枯れてしまう。
だからティターニア、精霊達はこれを守る為に色々頑張ってる。
人間の世界に紛れたり、はたまたその身を捧げてしまったり。
それというのも、ティターニアの魔力だけでは維持することは出来ないからだ。
第1の世界樹、セフィロト。
そして今生まれた。
忌むべき第2の世界樹。
「あなたの名は、ユグドラシル。体に世界樹を宿す精霊ユグドラシル。」
そう名付けると、ユグドラシルと呼ばれた精霊はハッキリと自我を持ち始めた。
「ティターニア。ティターニア様。ああ、貴方様が。」
「はい。私はティターニアです。私を守ってくれますか?」
「もちろんです。もちろんでございます。全て、全て貴方の為に。私のこの力を。」
こうして新たに生まれたユグドラシルとともに、ティターニアは世界を見守っていくことになった。
ちなみに僕はここで退場だよ。
だって、僕がこの後世界をむちゃくちゃにした元凶だからね。
アハ!アッハハハハハハハハハ!!!!
いいよ?自己紹介だけしてあげる。
この物語をみるソコの君へ。
僕の名はイルミンスール。
なんで君たちのこと分かるのかって?
さあね?これを作ったやつにでも聞いてみろよ。
ある日のことだ。
精霊戦争。
人間と精霊との戦争が起きた。
どちらが悪いか?
どちらも悪くない。
元凶がいる。
でも、そんなこと普通の人らからしたら知りえない。
戦争は精霊側が圧勝だった。
当たり前だ。
人間が勝てるわけが無い。
魔法を持っていようが、武器があろうが。
精霊とは格が違う。
ただ、私はひとつ解せないことがある。
この戦争を起こしたのが精霊王ティターニア様だということ。
私の知る精霊王ティターニア様は、絶対にそんなことをしない。
…1つ、命令をされた。
人間を叩きのめせと。
私は従った。
ティターニア様の役に立つと、決めたからだ。
二度と立ち直れないほどまでに、潰した。
汚れ仕事は私でいい。
そうだ、私の名はユグドラシル。
忌み木ユグドラシル。
精霊は眠らない。
眠る必要がない。
だが、疲れというものはある。
特に力を使う時は尚更だ。
精霊王は精霊達の頂点であり、世界を支える者。
その身は世界そのものと言っても過言ではない。
世界樹があるからだ。
世界樹は全ての根源。
世界樹なくしてこの世界は存在しない。
その命が尽きる時、世界も消える。
しかし、世界樹が枯れることは無い。
何故なら、ティターニア様がいるからだ。彼女は膨大な魔力を持っている。
そのおかげで、世界樹は枯れることなく存在している。
彼女の力は絶大。
だから私は彼女に尽くしている。
彼女が願うならなんでもしよう。
それが例えどんなことでも。
「ティターニア様、ティターニア様。ユグドラシルです。今日は何をすれば良いでしょうか。」
「あら、もうそんな時間ですか?では、東の国を滅ぼしなさい。」
「かしこまりました。」
「えぇ、あとそこの人間は1人残らず。」
「承知しました。」
「それじゃあ、お願いします。」
「はい。」
私は命じられた通りにする。
国へ向かうために、私は羽を伸ばす。
精霊の羽。
私は第2の世界樹を体に宿す精霊。
体のほとんどは植物でできている。だから、空を飛ぶことが出来るのだ。
そして、その体は自由自在に変形することが出来る。
手足のように、枝のように、蔓の様に。
私が飛ぶ姿を見たものは、皆恐れおののく。
何故か、その日はどこかの国が潰れるからだ。
ユグドラシルという名を、生を与えられた日から、私は変わった。
ティターニア様に尽くすようになった。
その為には、邪魔なものは全て消さなくてはならない。
それが私の生きる意味だから。
そう思いながら、私は空を駆けた。
「人間は1人残らず。」
ティターニア様から言われたことを復唱する。
そして、私は手を上げる。
すると、私の周りにある木々が一斉に動き出す。
まるで生き物のように動く。
加えて、新たな木々が生えてくる。
これは全て私の能力。
ユグドラシルという名を貰ったその瞬間より使えるようになった、私の力だ。
世界樹はあらゆるものを育む。
植物はその確固たる物。
私はこの植物を使い、国を跡形もなく潰す。
国の入口に降り立った。
「な、なんだお前!」
1人の男が私に向かってそう叫ぶ。
うるさい男だと思ったが、どうせ殺すのだから関係ないだろうと思い無視をすることにする。
そのまま男は剣を抜き、斬りかかってくる。
「死ねぇ!!」
遅いし弱い。
切られたとて私は死なない。
そもそも、切るという行為自体無駄なのだ。
切ったところですぐに再生してしまうのだから。
なので、男の体を縛り付けることにした。
地面から無数の木の根が伸び、瞬く間に男を捕らえる。
「ティターニア様の命令だ。この国を根絶やしにする。」
「や、止めろ!やめてくれ!!金か!?いくら欲しいんだ?頼むよぉ……助け……」
「…。」
私は植物の根を更に伸ばし、首を締め付けるように拘束した。
苦しむ声が聞こえるが関係ない。
ただただ命令を完遂するだけ。
歩く、歩く。歩いていく。
歩いていると、大きな建物が見えてきた。恐らくここだろうと思うと、私は中に入ることにした。
中には沢山の人が居たが、全員殺した。
ただ、1人だけまだ生きている者がいた。
「やめろ、殺さないでくれ……。」
「命令を破ることは出来ない。」
その言葉と同時に、首が飛んだ。
血飛沫が上がる。
それを全身に浴びる。
これもティターニア様の為だと思って我慢することにした。
それからも歩き続けた。
人間を殺すためだけに、ひたすら歩いた。
「根を張るか。」
私は地面に手をつき、根を伸ばしていく。
そして、この辺り一帯に根を張っていった。
どこに人間はがいるかすぐに分かる。
これで、この国は終わりだ。
後は、この国に居る全ての人間の命を奪うだけだ。
既に国中で悲鳴が上がっている。
火事が起きている訳でもないのに、このザマだ。
恐れることは無いだろうに。
もとある姿に戻ろうとしているだけだ。
植物の痛みだ。
「痛いぃいい!!!」
「誰かぁあああ!!」
「嫌だ死にたくないいいい」
「ぎゃあ"あ"」
「ぐぅう」
「あーあ」
「あひゅ」…………
「貴様がユグドラシルか。」
知らぬ男が目の前に現れる。
黒い鎧に身を包んでいることから、騎士だと分かった。
だが、そんなことはどうでもいいことだ。
私は早く終わらせたいのだ。
こんな下らないことに時間をかけるわけにはいかないのだ。
「そうだ。」
「ならば死んでもらうぞ。」
殺気を放っている。
それなりの実力者か。
「くだらない。私に叶うものか。」
私は腕を振り下ろす。
無数の木が意志を持って男を襲う。
「見え見えだッ!」
男は手に持っていた大剣で全てを叩き斬る。
「ほう?」
「次はこちらからだ。」
男は一瞬で間合いを詰めてくる。
速い。
「…。」
「死ね…ッ!」
私は斬られてやった。
「は…死んだか!?」
「満足か。」
私の腹を貫通した剣。
ただ、私はそこらの生命とは違う。
ユグドラシルの名を持つ者。
死ぬことなどありえないのだ。
「なっ!?何故生きてる……!確かに俺はお前を殺したはずだ。」
「お前はただ私を刺しただけだ。では、こいつを返してやる。」
腹に刺さった剣を抜き、男を捕える。
そして、そのまま男の腹部に剣を突き刺した。
私はまた歩き出した。
根を張りながら、国を潰しながら、人を殺していった。
そうしていくうちに、私は気づいたことがある。
人間は脆く弱い生き物だと思っていたが、そうではないということに。
私が強すぎるだけだ。
もっといえば、そもそも精霊と人間では格が違いすぎる。
「ふむ……どうしたものかな……。」
また1人の男が現れた。
構わず殺そうとする。
「おっと、待った方がいいんじゃない?」
奇妙な事を言い始める男。
「何の話だ。」
「君が今殺してる人達のことだよ。」
「それがどうした。」
「彼らは何も悪いことをしていないじゃないか?」
「何が言いたい。」
「いつか降り積もるよ、忌み木のユグドラシル。」
「その名で呼ぶな。」
私は根を伸ばした。
しかし、それは男の体をすり抜けただけだった。
どういうことだろうか?私は幻覚でも見せられているのだろうか。
そう思っていると、後ろから声をかけられた。
振り返ると、見知った男だった。
「イルミンスール様。」
「やあ、ユグドラシル。元気かい?」
好きではないこの男。
存在しているだけで不快極まりないこの男は、次期精霊王。
つまり、ティターニア様の夫となる存在だ。
そんな奴がなぜここに?
まさか、ティターニア様の命令か何かで来たのかもしれない。
もしそうなら厄介だと思ったその時だった。
「警告だよ。君、あんまり無罪の人間を殺してるといつか倍になって何かが降り掛かってくるよ。怨念とかさ!怖いねー。」
……何を言っているんだこいつは。
意味が分からない。
それに、この男が居るということはティターニア様もいるということだ。
早くお会いしたい。
「忠告ありがとうございます。ですが、私にそのようなものは効きませんのでご安心ください。」
「忠告はしたからね?じゃ!」
それだけ言って消えてしまった。
本当になんなんだあいつは。
気分が悪くなる。
もうすぐ終わる。
あと少しだ。
それから数日が経ったある日のことだった。
空が急に曇り始めた。
雨が降ってきたのだ。
植物にとって雨は恵みだ。
そして、この近辺に最後の人間がいる。
これで終わりだ。
そう思った時だった。
雷鳴と共に現れた女。
「やっと見つけたわ。」
その瞬間理解した。
あぁ、これは勝てないと。
目の前にいる者は間違いなく神だと。
「あなたがユグドラシルね?ちょーっとおいたが過ぎるわ。ここで止めたら重い罰で許してあげるけど、どう?」
「私はティターニア様に仕える身。何があろうと命令は曲げない。」
私は覚悟を決めた。
死ぬことも恐れはしない。
だが、せめて最後に一目だけでもあの姿を拝みたいものだ。
「おっと、ユグドラシル。手を貸すよ。」
「イルミンスール様。」
「ここで死なれちゃ困るからね。」
「あらあら、次から次へと。雨神ミヅハの名のもとに。裁きを受けなさい。」
「おっと、申し訳ないね。僕もそれなりにやれる方でさ?」
イルミンスール様がミヅハと名乗った神に対して突撃。
「ぐぁっ!?」
かなりの勢いで飛んで行った。
神に対して物理攻撃、次期精霊王なだけある。
「今のうちにやっちゃいな!」
「はい。」
だいたいこのあたりに。
「…たすけて。」
女の子供だ。
不思議な力を感じる。
「止めなさいっ!絶対に殺させはッ。」
「遅い。」
子供を殺す。
脆い。
「あーあ。」
「…どうかしましたかイルミンスール様。」
「終わりの始まりだ。忠告したのにな〜。」
「ぐぅっ!?」
急激に体が重くなる。
体の内側から何かが飛び出そうな、気持ち悪い。
そして、私の意識は闇に沈んだ。
「…。」
意識が明確になる。
目の前にはイルミンスール。
「貴様、何をした。」
「言ったじゃん、殺しすぎると良くないよーってさァ。」
「……。」
「まあいいか。とりあえず君は今日から僕の眷属だからよろしくね?」
「ふざけるな。」
「自分の状況見てから言ったら?」
周りを見渡す。
辺り一面枯れ果てている。
木々は全て朽ちており、草花は一切生えていない。
大地すらひび割れていた。
これではまるで世界の終わりではないか。
私は一体どうなったというのか。
「教えてあげるよ。君ね、死者の怨念を抱え込みすぎて力を暴走させたんだよ。それで、普段の君とは真逆の性質。枯死の力を得た。それでこのザマさ。ま、世界樹は全然生きてるみたいだけどね。」
そう言われて思い出す。
あの時確かに何かが私の中で暴れた感覚があった。
あれが原因か。
しかし、それならばなぜ私は生きている?
これほどの影響力を及ぼしたのなら、私自身が死んでいてもおかしくない。
「じゃ、早速命令だ!僕の贄になれ〜!」
そう言って抱きついてくる。
振り払おうとするが、力が入らない。
抵抗虚しくそのまま唇を奪われる。
「んむぅ!うぇへ!」
突如、口の中に何かが入り込んでくる。
「ペッ!僕ティターニア以外の女に抱く趣味ないんだけどなぁー。」
「貴様ッ…何をしたッ。」
「別にぃ?ただ君の体にちょっと細工をしただけだし。じゃあ、また後でねぇ〜。」
そう言って消えてしまった。
体の中が熱い。
全身が焼けるように痛い。
「あぁぁぁぁああぁぁぁ!!……っぐうううっ!!!」
痛みを振り絞り、拘束を剥がす。
足取りが上手くいかず、ふらふらと歩くしかない。
世界樹が近い、ティターニア様っ…!
ゆっくりとした足取りで、世界樹の根元へとたどり着いた。
そこにはティターニア様とイルミンスールがいた。
「ティターニア様ッ!」
急いで声をかける。
「……。」
「ティターニア様……!?」
何も反応がない。
それどころか、生気を感じない。
「ティターニアかわいいからさー。殺しちゃった。」
「貴様ァアアッ!!!」
「おぉ怖い。」
「殺すッ!絶対に生かして帰さんッ!!」
怒りに任せ、イルミンスールに向かって走る。
だが、その瞬間。
「はいガード。」
ティターニア様を盾にされる。
「アッハー!単純だねー。もう死んでるのにそれでも遠慮しちゃうんだ〜。」
「……っ。」
「でも、安心するといい。僕も鬼じゃないからね。」
「……何だと?」
「ほら、君の命使えば蘇生くらいは出来るんじゃない?」
出来ないわけじゃない。
「言うこと聞いてくれたらこの外面は綺麗なままにしてあげるよ。」
「何が目的だ…ッ。」
「僕とティターニアだけの世界を作りたいだけ。言わせないでよ!」
……狂っている。
「わかった……。」
「物分りが良くて助かるなぁ。」
「ただし、条件がある……。」
「いいけど、なにかな?」
「お前が死ねば、私の命を使ってもいい。」
「えっ、本気で言ってる?この僕と戦うの?」
明らかに馬鹿にしたような口調だった。
だが、今はそんなことに構ってはいられない。
一刻を争うのだ。
それに、こいつは強い。
勝てる見込みはないに等しいだろう。
だから、賭けに出た。
ここで死ぬよりかは遥かにマシである。
「死ねッ!」
手を振り上げる、新たに植物を生成しイルミンスールを襲う。
「ぐふっ!」
何故か、呆気なくイルミンスールはそれをまともに受ける。
何故だろうか。
疑問が浮かぶと同時に、体が動くようになった。
今のうちに殺すべきだと、近づいて精霊の核となる部位を破壊しようとする。
「はぁい、いらっしゃい。僕に触ったね。」
ニヤリと笑う。
しまったと思った時には遅かった。
右手がイルミンスールに吸い込まれていく。
急ぎ切断し、その場から逃げる。
「おっと、逃がさないよ。」
目に見えない謎の力をが私を縛る。
「僕はね〜戦えはしないんだけどさー。小賢しいのはほんっっきで得意なんだよね〜。」
そう言いながら近寄ってくる。
「じゃあ、早速命令だよ。」
そう言って私に触れる。
「君の核を出せ。」
そう言った途端、体の中から何かが飛び出してくる感覚がした。
慌てて抑え込もうとするが、間に合わない。
私の体から緑に輝き、鼓動する核が取り出される。
「うーん、活きがいいねぇ。2番目。」
「く…そッ!」
「はーい、ティターニアちゃーん。起きて〜。」
そう言ってティターニア様に近づけた。
すると、ティターニア様の目が開いた。
そして、イルミンスールの方を見る。
その目は虚ろで、まるで操られているようであった。
「って思ってるんでしょ?」
「貴様…ッ。」
「ぜーんぶお見通しだよ。実は生きてまーす。君扱いやすいねーほんと。」
イルミンスールの言葉を無視し、体を動かそうとするが全く動けない。
「ほら、ティターニア。裸になろう。」
イルミンスールの手から蔓が伸び、ティターニア様の服を脱がしていく。
ティターニア様ら抵抗している様子もない。
ただただされるがままになっているだけだ。
私はそれを見ているしかできない。
「うーん。君はありのままが美しいよ。」
「何をするつもりだ貴様ッ…!」
「ん?見てて。」
ティターニア様の体の中に手を入れ、核を取り出した。
「精霊王であり第1の世界樹セフィロトの核。第2世界樹ユグドラシルの核。」
2つの核を両手に持ち、掲げている。
何が起こるのかわからないが、嫌な予感しかしない。
ティターニア様が苦しそうな声を上げ始めた。
「そして、第3の世界樹。イルミンスール。あーーーーーーーーーーー。やっとだァーーーー。」
第3…ッだと!?
そんなことはありえないはずだ!
だって……世界樹はここにあるセフィロトと、存在しない私という世界樹のみのはずッ。
新たな世界樹が誕生したというのか……? そんなことが有り得るわけがない!
「人間ッてさァ。恨みとか凄いんだよね〜。そんなバカどもがこぞってありもしない世界樹をでっち上げるんだわ。悪しき世界樹イルミンスール。でもさー。生まれちゃったんだ僕。」
笑いが止まらないといった感じで話し続ける。
「誰がうまれさせたと思う?ティターニアだよ!アッハハハハハハハハハ!!!!」
嘘だ。
「嫌?嘘じゃない。だってティターニアは優しいじゃないか。そもそも忌み木である君でさえ生を与えるんだぞ?おかしくないだろ。」
……確かにそうだ。
だが、信じたくないのだ。
あの人が裏切るなんてこと……。
「あー待て待て、ティターニアは裏切らないよ。そんなことは絶対しない。僕が裏切ったんだから。」
「貴様ッ…!なぜそんなに恩を仇で返すようなことをッ!」
「僕だからさ。悪しき世界樹だからさ。そうある精霊なんだよ僕は。」
そう言って、手に持っていた核を握り潰した。
すると、光が溢れ出す。
眩しくて目を開けていられないほどに光り輝く。
しばらくして、ようやく収まった。
「あー最っ高、この力。神様より絶対強い。」
そう言って笑っている。
「最後にユグドラシルちゃんにプレゼントあげるよ。みてなよ〜?」
そう言ってティターニアの顔面を持ち上げた。
「……うぐっ!?痛いッ…何ッ!?」
「ティターニア様ッ!?」
「ユグドラシル……!?居るの……!?」
「ああ僕の愛しいティターニア!」
「イルミンスールっ…!貴方っ!」
「じゃあ死ね。」
ティターニア様の頭を思いっきり地面に叩きつけた。
ティターニア様の頭が潰れる音がする。
血が飛び散るのが見える。
ティターニア様の体がビクビク動いているのがわかる。
ティターニア様の口から血が出る。
ティターニア様が死んだ。
ティターニア様が死んだ。
ティターニア様が死んだ。
「嘘…だ。」
「……ッヒ!」
私の体から力が抜けていく。
「最後に本当のことを言ってあげるよ。僕が本当に好きなのは君なんだ。君が一番いい顔をする瞬間はどこかなーって思ったんだ!考えに考え抜いた結果ティターニアが死ぬ瞬間だと思った!いやぁ!ほんっっっっっと可愛い顔してくれてよかった!愛してるよユグドラシル!」
「あああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」
私は絶望し、涙が溢れる。
こんな奴が……こんな奴がいていいはずがない。
私が……一番慈しみ、尊敬していた存在を踏みにじられ。
許せない……ッ!!!!!
私の中で何かが弾けた気がした。
怒りが頂点に達した。
「だけど君は動けない。さあ!最終工程だ。」
イルミンスールの手には禍々しい魔力が宿っていた。
その手を振り上げ、魔法陣を展開する。
「さあ!これでお別れだユグドラシル!君の魂は永遠にここに縛り付けられることになるだろう!」
「…………させません。」
「おっと、ティターニア。流石の精霊王だ。概念になってる。」
イルミンスールの後ろにはティターニア様がいた。
だが、先程までとは違い、髪の色は白くなっており、肌も透き通るように白い。
目は虚で何も映していないようだった。
まるで人形のような姿になっている。
「ただ、悲しきかな〜。もう、何されても終わりなんだ。世界は忌み木ユグドラシルによって破壊された。人間という存在は消えた。精霊王ティターニアはもう死にかけ。そしてその2人の核を僕が握っている。そして僕がやること、なんだと思う?」
「…ッ。」
「先に言うよ、不正解。」
「…は?」
「世界樹の破壊?そんなの何時でもできたこと。」
「じゃあ一体何が目的なんです、イルミンスール!」
「目的?ないよ?もう。だから僕はこのままこの核を使って死ぬだけさ。」
そう言いながら、1つの自分の胸に核を押し当てた。
すると、みるみると大きくなっていく核。
やがてそれは、人間の形になっていった。
黒い影のようなものでできた人間の形をしたもの。
それがどんどん膨らんでいく。
それを見ただけで、恐怖で震えが止まらない。
「最後に1つ。いまのユグドラシルの状況を教えてあげよう。僕が本格的に消えたらソコのティターニアも抜け殻だ。そしてユグドラシルが殺した人間もゼロ、償うことすら出来ない。そして僕はこの核を使って世界に自然を戻しながら死ぬ。さあ問題、ユグドラシルがこれからやるべき事ってなーんだ?」
「まさか。」
「正解。」
そう言ってもうひとつの核を握り潰す。
すると、光り輝き始めた。
「……うああああああ。」
「ユグドラシル!」
「私には、私にはもう。」
「アッハハハハハハハハハ!!!!!そう!!!ユグドラシル!!ここでハッキリと言ってやろう!君はもう、何もしなくていいッ!何も出来ない!!!!この世界に対して、何もすることがないッ!!!!」「……ああ。ああ。」
「じゃあね〜ユグドラシルちゃん。また会おうね〜」
そう言って、イルミンスールは消えていった。
……私は……どうすれば……。
「……ごめんなさい……ティターニア様……みんな……。」
傍で、ティターニア様の抜け殻が倒れる。
既に精神は消えている。
私のせいで……ティターニア様が死んでしまった。
私のせいだ。
私が弱かったから。
私の力じゃ誰も救えないから。
ああ、そうだ。
まだ終わっていない。
「世界樹を壊せばいいんだ。」
私の心が壊れる。
核を取り除かれ、ありもしない魔力が何故か無尽蔵に溢れ出る。私の体から力が湧いてくる。
今ならなんでもできる気がした。
目の前にある、最後の希望。
それを破壊しようと、手を伸ばす。
私の中の何かが叫んでいる。
でも、それを聞くのすらもう億劫。
「セフィロト、世界樹セフィロト。さようなら。」
枯死の能力はまだ残っていた。
魔力を全て、世界樹に注ぎ込む。
「枯れろ。」
その瞬間、全ての生命活動が終わったかのように、世界中が一瞬にして死んだ。
大地は死に絶え、草木は枯れ果てる。
全てが凍った。
海は干上がり、風は止まる。
ね、むちゃくちゃになったでしょ?
こんなことまで出来ちゃうんだよ。
とは言ってもこんなに上手くできちゃうとは思いもしなかったけどねー。
危なかったなー。
あとギリギリのところでティターニアにユグドラシルを救われるところだったよ。
アイツがメンタル弱くて助かったー。
アッハハハハハハハハハ!!
1つの光が荒廃した世界に降り立つ。
「やあ、ユグドラシルもティターニアも居ない世界。僕しかいない世界。僕が世界樹イルミンスールだ。」
そう言いながら、彼は笑い続けた。
そして、天に向かって手をかざす。
すると、空が割れた。
そこから覗かせるのは、青い星と白い雲。
そして、太陽だった。
眩しいくらいの光を放つそれは、まるで彼の誕生を祝うように。
何?
悪者が勝つ物語はありえない?
そんなことないよ。
僕は悪者じゃない。
世界を正しい形に戻しただけじゃないか?
違う?そりゃごもっとも。
でも常識を語れるのは今僕しかいないんだ。
このあたらしー世界じゃそれが常識なんだよね〜。
だからさぁ……僕が正しいってことでいいじゃん?
さてさて、これで僕の役目も終わりかな?
お疲れさんでしたと。
それでは皆さん、さようなら。
そしてこんにちは。
本当の悪者さん。
「どこに行くのです、イルミンスール。」
「ん?本当のクソとは一緒にいたくないからさ。さっさとズラかろうと思って。」
「そうですか。では、妖精王ティターニアの名の元に。人間も世界樹も存在しない世界を構築します。」
ティターニア。
最初から彼女は裏切っていた。
人間という存在を嫌っていた。
人間という存在が生きていた世界を嫌っていた。
人間という存在が慕っていた世界樹が嫌いだった。
だが、世界樹でもある彼女が、世界を滅ぼすなんて出来るはずがない。
しかし、彼女の力は本物。
誰かに頼むしかなかった。
ユグドラシルは生まれた時からただの駒でしか無かった。
ティターニアはユグドラシルが生まれた時に、彼女を2つ目の世界樹として育て上げた。
ただ、彼女はティターニアの為に世界を滅ぼした。
でも、世界樹は嫌いだ。
だからユグドラシルは放り捨てた。
すべて、全て、最初からティターニアの手のひらの中だった。
イルミンスールは笑う。
ティターニアは笑みひとつ浮かべない。
そうして、この世界から消えた。
後に残ったのは、何も知らぬ植物達。
はー。
なんで普通に生まれなかったかね、僕。
……。
じゃあね!
どうせ、君らはいつまでも見ているだけの傍観者なんだろうけど。