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WAKE UP ウェイカー!

友人の誕生日記念作品

僕は今、最大の危機に瀕している。

目の前の子供(女)に防犯ブザーを鳴らされそうになっているからだ。

「なんで!?」

「え〜?どーみてもお兄さん不審者でしょ?」

「どこが!?」

「見た目とか?」

「僕まだ高校生だけど!?」

「あはっ!ウケる!」

いや全然笑えないよ!!

どうする……この子に本当に防犯ブザーを鳴らされるかもしれない。

それだけは何としても避けなければ……!

「まぁ冗談はこの辺にしておいてあげるね〜」

「……………………」

あれ?冗談だったの? じゃあさっきまでの会話って何?……まあいいか。

とにかく今はこの状況を切り抜けないと……。

「…それで、君はこんな時間に何をしてたの?」

今の時間は夜の23時。

日付も変わろうとしている頃合。

普通なら小学生くらいの子が出歩いていい時間じゃないはずだ。

すると彼女は僕の質問に対して少し考え込むような素振りを見せた後、口を開いた。

そして告げられた言葉に、僕は驚愕したのだ。

───だってその少女から出てきた言葉はとても信じ難いものだったんだから……。

「私は『ウェイカー』なの!あはっ!びっくりした?」

「……ウェイカーか。」

……今、日本で多発している普通では説明がつかない現象を引き起こす存在の名称。

覚醒を表すwake から付けられた。

それがウェイカーだ。

目の前の少女はそうだと自信満々に言い放った。

だが驚きはしなかった。

「アレ?なんでそんなに無反応なの?驚かない人いなかったのに〜?あ!もしかして驚きすぎて声も出ないとかぁ?」

「いや驚いているよ。でもまさか君みたいな小さな子がウェイカーだとは思わなかっただけだよ。」

「ふぅん。あっそ!」

少女は興味なさげに言うと僕から離れた。

そしてそのまま立ち去ろうとする彼女に僕は慌てて呼び止める。

「おおい!まてって。僕もウェイカーなんだ。」

「へぇ〜そうなんだ。すごいね〜」

「いやいや凄くはないだろ。同じなんだし。」

「ううん。私にとっては同じじゃないよぉ。だって私は強いもん!力の差を見せてあげる!土下座したって許さないからっ!」

そう言って駆け出していく彼女を止める術などなく、呆然と見送ってしまった。

結局彼女の言っている意味がわからなかった。

なぜ彼女があんなにも怒ったのかわからない。

ただ一つ言えることは、僕はこれから彼女と戦わなければならないということだけだった。



翌日になり僕は早速行動に移した。

まずは情報集め。

ウェイカーはこの多数存在する。

と言っても、人口で見ると本当に少ない。

日本のサイトや掲示板、ブログ等を漁り、少女のウェイカーの情報を探す。そしてすぐに見つかった。

それは意外とあっさりしたもので、ただの偶然だったのだが。

名前は神楽優希。

それなりに有名なウェイカーのようだ。

両親は共に他界しているらしい。

ゆく宛もなく夜の街をウェイカーとしての力を使い、金を無理矢理得て生活してるみたいだ。

僕は次の手を打つことにした。

それは彼女の通う学校に行き、直接話を聞こうというものだ。

学校に行けば会えるだろうと思ったからだ。

ただ、どうやら学校にも行っていないようで。

「ふー。」

一息つく。

珈琲を飲み、窓から見える外の景色を眺める。

今朝、家を出た時に見た空は曇っていたはずなのにいつの間に晴れていたのだろうか。

雲ひとつ無い青空が広がっている。

眩しい日差しが目に痛いほど突き刺さってくる。

今日もいい天気だなぁ。

なんてことを考えながらまた窓の外を見る。

「……ん?」

何かがおかしい。

僕は立ち上がり急いで外に出た。

──────


「んなぁッ!?」

家の周りにどデカい魔法陣、そしてその近くにはあの優希が。

「このクソガキめ…っ。」

あっちから仕掛けてくるとは思わなかった。

ウェイカーとしての能力の情報は全て消されてた為、分からなかったが…これは流石にすごい。

……この魔法陣、発動しようとしている。

つまり僕を殺す気満々ってことか。

いきなり防犯ブザーされかけて挙げ句の果てにこんなことされるのは流石に僕が可哀想だと思わないのか!?

「やるしかないかっ。」

俺も一応ウェイカーの端くれ。

生まれてこの方隠して生きてきた。

ただこんなことをされちゃ黙ってもいられない。

俺のウェイカーとしての能力。

それは音に関する能力。

ウェイカーの能力は漫画のように限定されていない。

僕の能力で言えば『音』に関係していればあらゆる行動を起こすことが出来る。

例えば攻撃したり防御したりすることも出来る。

もちろんだが制限はある。

それは範囲だ。

僕の熟練度で変わってくるが、音響を利用するものは届いて10m。

…だが、僕の能力の真髄はそこじゃない。

『音速』だ。

僕の能力を使えば音の速さを超えることも可能。

それこそ、一瞬にして移動することも容易い。

だから今こうして家から飛び出た瞬間に彼女の背後に移動することが出来た。

次に、音を消す。

自分から発する音を全て無音。

これで全く気付かれない。

宙に浮いている彼女の首を狙って。

「勝手に他人の家にきて壊そうとするな!」

「あれっ!?あうっ……。」

無防備だった彼女を気絶させる。

そしてそのままお姫様抱っこをする。

多分だけど小学生か中学生どっちかだよな……絵面が…。

と、とにかくこのままではまずいな。

早くしないと誰かに見られるかもしれない。

僕は急いで自分の家に戻った。

────── 家の中に入り、ソファーの上に寝かせる。

そして、目を覚ますまで待つことにした。

少しすると彼女は目覚めたようだ。

「……あ!ここどこ!?なんで私ここにいるの!?」

「ここは僕の家だよ。君が突然現れて、しかも魔法陣で家を破壊しようとしたんだぞ?そんなことされたら誰だって止めるよ。」

「…………ふん。」

子供らしく拗ねてしまう。

こっちは危うく死にかけたんだけどなぁ。まぁいいや。

それよりも、聞きたいことがあるんだ。

「ねぇ、君はどうして僕を襲ってきたんだ?」

「……。」

だんまりか。

まぁ、言いたくないなら言わなくても別に構わないけど。

「住む場所ないんでしょ?」

「……うぐ。」

図星か。

やっぱりそうなのか。

でも、そうなると困ったことになった。

まさか家を破壊するような奴を住ませるわけにはいかない。

かといって、追い出すのも気が引けるし。

どうしたものかな。

しばらく考えてみた。

ひとつ面白い案を思いつく。

「……ウェイカーとして君は僕に負けたわけだ。言うことのひとつでも聞いてもらおうかな?」

「!…へ、へんた……………」

「はいダメ。僕は音のウェイカー。君の喋る言葉を今無音化させた。」

「……!」

ばっと起き上がり逃げようとする。

「それもダメ、音の壁だ。触ったらちょっと痛いよ。」

僕は手を広げて、壁を作る。

彼女を囲むように。

それに驚いたのか、立ち止まる。

もう動けないだろう。

最初の時点で既に勝負はついていた。

これでようやく落ち着いて話が聞ける。

僕はゆっくりと彼女に近付く。

「別にとって食おうってわけじゃないんだ。君の本音を聞かせてほしい。住む場所、欲しい?」

「うるさい。」

「音のウェイカーの僕にうるさいか。ははっ。」

「……。」

「僕は君を助けたいって思ってるよ。ほら、ウェイカーは普通異常な力を持っていて迫害されやすい。僕は今まで本当に使ってこなかったから普通に生きられたけど。君はそうじゃないんだろう?」

「……。」

「悪くない提案だと思う。君に住む場所を提供する。その代わり悪いことはしない。これでどうだい?」

じっと僕の目を見る。

何かを訴えかけるかのように。

しばらくして、口を開く。

小さな声で呟く。

「私はただ……お父さんとお母さんを…うぅ…。」

泣き出してしまった。

そりゃそうか。

こんな小さい女の子が、親を速くに失ってしまうなんて。

「泣いてもいいよ。僕の能力で誰にも聞こえやしないから。」

その言葉のあと、彼女は泣き出した。

わんわんと泣きじゃくった。

なんだって子供だ。

泣くくらい、我慢しなくていい。

今は思いっきり泣けばいい。

その後、落ち着いたところで色々話を聞いた。

年齢は12歳とのこと。

やはり小学生だった。

両親は彼女が産まれてすぐに事故で亡くなってしまったそうだ。

親戚の家に引き取られたが、ほぼ放置。

その際にウェイカーとして目覚め、1人で生きるようになった。

当然働くなんて事もできず、知らない人から金を巻き上げるしか無かったとか。

「……。」

「落ち着いた?」

「うん。」

「どうだい、ここに住む?」

「……いいの?」

「いいとも。僕も一人暮らしなんだ。君と同じで、両親はいなくてさ。少しだけ気持ちは分かる。」

「ありが…とう…えと。名前はなんて呼んだらいいの。」

「僕は鳴上響。鳴上でも、響でもどっちでも。」

「ヒビキ…。ヒビキ。わかった。」

そう言った後、ぐう〜っとお腹の虫が鳴いた。

「あっ…。」

「うん、そろそろ夕ご飯の時間だしね。休んでていいよ。ご飯作ってくるから。」

「あ、ありがとう。」

……………… 食事を終え、風呂に入った。

リビングに戻るとなんだか忙しない様子の優希。

「あ、あの!」

「ん?なに?」

「これからよろしくお願いします……です。」

「かしこまらなくていいよ。よろしく。…あっ…しまったな…部屋がない。」

すっかり忘れていたが、この家にベッドはない。

僕が1人で住むために買った家。

僕の部屋以外はソファーはあるけれど寝る場所では到底ない。

ひとまず今夜だけはここで寝てもらおう。

明日にでも買いに行くか。

まぁ最悪、僕が床に毛布を敷いて寝ればいいだろう。

問題は明日以降のことだ。

「…このソファで寝ていいの?」

「ああ、ごめん。今はそれしかないんだ。今布団を…」

ふと、みた優希の顔はすこぶる好奇心に溢れている。

……そっか。

いままでろくな場所で寝れていないのか。

服も今思えば少しボロボロだ。

明日、ベッドのついでに買いに行ってあげよう。

「…おっきい!よく寝れそう。」

身長も140cm程度の優希にはソファはちょうど良かった。

「おやすみ。」

「お、おやすみなさい。」

…僕も久しぶりに能力を使って疲れた。今日は早めに寝るとしよう。

こうして、奇妙な同居生活が始まった。




次の日。

「……んー。」

今日くらいは学校をサボってもいいかと思い早めに起床。

6時半頃。

買い物に連れて行って…服も自分で選んでもらうか。

よし、朝食…あ、食器もいるな…。

……なんだか自分に子供が出来たみたいだ。

母さんも俺を1人で育ててくれた時、こんな気分だったのかな。





リビングに行くと、まだ寝ている優希。

音を消して朝食を作る。

自分の能力が日常生活で生きるとは思わなかったな。そんなことを考えながら手を動かす。

7時頃。

ようやく起きてきた優希。

目を擦りながらぼけーっとしている。

「顔洗ってきな〜。洗面台はそっちにあるよ。」

指をさして支持する。

「…うん〜。」

まだ眠い様子。

昨夜はなかなか眠れなかったらしい。

無理もない、ソファだし、他人の家だし。

10分程すると、身支度を整えて戻ってきた。

改めて見ると本当に綺麗な子だ。

黒い髪、整った目鼻立ち。

…まあ、子供すぎるけど、将来は有望そうだ。

「はい、朝ごはん。食べれるかい?」

「うん……。いただきます……。」

「どうぞ召し上がれ。」

パンとベーコンエッグというシンプルなメニューだが、喜んでくれたようで何より。

「美味しい……!」

「それはよかった。」

ゆっくりと食べ進める。

僕も一緒に頂くとする。

テレビをつけ、なんとはなしに朝食を食べていると、インターホンが鳴る。

「はーい。」

誰だ?

……と、思い当たる節がひとつ。

「うぃー!ヒビキん〜今日もジメジメしてんねぇ?」

「……はぁ。」

同級生の水城流奈(みずしろるな)

何でもかんでも人をイジるギャルだ。

髪も染めちゃダメなのに金髪。

ネイルピアス短すぎるスカート。

校則違反のオンパレード女。

……そんでもって、唯一のウェイカー友達。

水城は僕の能力を知っているし、僕も水城の能力を知っている。

そして、僕の数少ない友人でもある。

本来であれば関わることの無いような人物だ。

僕は陰キャ……とまで言わないが、真面目な方で、バカをやる側の人間では無い。

そんな正反対な水城と関係を持つのはウェイカーであるから以外ありえない。

「何?まだ準備してないの?珍し、寝坊した?しちゃった?あっちゃージメジメしすぎて頭キノコになっちゃったの?」

「うるさいですよ…。」

「消せばいいじゃん音!」

「ダメですって!ほんとに!」

「アッハハハハハ!ごめんて!」

全く反省の色がない。

いつもこうやって僕をいじってくる。

……正直ウザい。

けど、悪い奴ではない。

だから許してしまう自分がいる。

水城の明るさに救われてる部分もあるんだろうな。

それにしても……。

「なんの用です?」

「いや、いつも通る時ちょうどヒビキんいるけどいなかったから死んでんじゃねーのと思って。」

「安易に人の家に入らないでくださいよ…。それと、今日は僕休むので。」

「え?ヒビキんズル休み?」

「予定があるんです。気にしないでください。」

そう言って会話を切る。

これ以上話すことはない。

……と、ここで僕1つの失態。

優希に待っててというのを忘れる。

そして優希はなにかと今まさに様子を見に来た。

そして、それを水城に見られた。まずい。

絶対なんか言われる。

とりあえず仕方ないし音消しっ!

「ーーーーーーーーーーー!!!!!!」

声は響かなかったが、明らかに大声だ。

優希を見るやいなや家に入り込んだ為、すぐさま鍵をかけて対処。

「チョ!?誘拐!?」

「人聞きの悪い…!」

「ーーー!!ーーーーーー!!!」

「近所迷惑になりますから静かにして下さい!」

「そう言う時に便利だよね全く。でーどういうこと?」

「かくかくしかじか…」

一通り説明をした。

すると、少し納得した様子を見せた。

よかった……。

これでなんとかなる……。

「えーかわいー!名前は?」

「えっと…神楽優希…です。」

あんなにもガキっぽかった態度は見るも無惨に少女へと変わり果ててしまった。

「ゆーちゃん!辛かったね〜!アタシが匿ってあげるよ!」

……それが良さそうだな。

仮にも女だし、過ごしやすいだろう。

「えっ…。」

…と、嫌そうな顔。

「何何!?ヒビキん好き!?」

「ち、ちがっ!」

慌てて否定する。

その反応は肯定しているようなものだけど。

「へぇ〜、ふぅ〜ん?そういう事なら任せてちょーだい!」

……まあいいか。

変なことにならないように見張っておけばいい。

僕は学校に連絡を入れる。

風邪で休むと伝える。

真面目に過ごしてきたおかげでこういうのがまかり通る。

「えーヒビキん〜今日からここすんでいい〜?」

「はぁ!?」

何を言い出すんだこの女は。

ダメに決まってるだろ。

「大丈夫だって!バレなければ問題なし!」

「……本当ですか?」

「うん!多分!」

「多分って……。」

「いいじゃんいいじゃーん!アタシも一人暮らしで寂しかったし?優希ちゃん可愛いし!」

「……はぁ。わかりました。」

渋々承諾した。

最悪、優希には申し訳ないが……。

という事で一緒に住む事になった。

この女、行動力の化身すぎる。

ただまあ、部屋も余っているし、何も問題はないだろう。

「ごめんな優希。ちょっと騒がしくなるかもしれない。」

「だ、大丈夫…あはは。」

「…というか水城。学校遅れますよ。」

「え?いいよもうめんどくせーから!」

「……。」

どうしようもない。

「…じゃあ水城。優希の服を見繕ってやってくれないか?今日買い物に行くんだ。」

「おっ、いいね!いくべいくべ!」

僕のセンスよりは100倍マシだ。

水城はファッションセンスはギャルなだけあって相当いい。

「あ、ゆーちゃん!アタシは流奈って呼んでね!」

「う、うん!」






登校時間が終わった頃合を見かねて、外に出る。

近くにデパートがあるのでそこへ歩いていく。

道中、優希は不安げな表情をしていた。

「そんな心配そうな顔な顔をしなくても僕がいる限り危険なことは起きないよ。」

「……うん。」

「なんか遠目で見たら家族みたい!」

「なっ!?」

何を言っているんだこいつは……!

僕らは血なんて繋がっていないぞ!

こんな日が来るとは思わなかった。

「あ、ねー!ゆーちゃんの能力って何?」

「あー。僕も聞き忘れてた。聞かせてくれる?」

「実は…魔法なの!」

「魔法…!なるほど…これは大きくでたな…。」

「魔法かー。強いの?」

「概念的には凄いんじゃないかな?…なんたって、ファンタジーの世界だけのもの。それをできるって言うなら本当になんでも出来てしまうかもしれない。それが魔法なんだ。」

「そうなの?私…魔法ってテレビでやってるような奴しか知らない!」

女児向けアニメ的な奴か。

それでもあの魔法陣、流石に驚くな。

「どんなのどんなの!?」

「力を強くしたり…キラキラした魔法を出したり…言うことを聞かせたり!…言うことを聞かせるのはちょっと難しいけど、頑張ればできる。…けど沢山魔法を使うと疲れて動けなくなるの。」

「魔力…っていう概念があるかもね。魔法を使うための体力みたいなものだ。……と言っても、きっともう使うことは無いだろうけど……。」

もし、敵が本気で襲ってきた時、対抗手段は必要になる。

しかし、それも今となっては意味をなさなくなったが。

「いたぞッ!あのクソガキィ!あん時はかねまきあげやがって!許さねぇぞッ!」

「言ったそばからぁ!?水城!」

チンピラ3人が現れた。

恐らく優希がヤンチャしていたころの恨みが今振り積もって来てるのだろう。

「こういうの久しぶりだね!まっかせてッ!」

水城のウェイカーとしての能力。

それは、水。

手から出したり、体の周りに纏ったり、攻撃にも防御にもなる万能な能力だ。

あちらにはウェイカーはいるか…?

「ぐおっ!?なんだ!?水の壁!?…あいつらウェイカーか…ッ!兄貴!」

「おう!任せろや!」

兄貴分がどうやらウェイカーらしい。

……取り巻きはただのチンピラだからそこまで強くはないはず。

幸い、こちらには水城もいる。

「俺は怪力のウェイカーだ!俺に力で叶うやつはいねぇ!」

怪力…か。

『力』のウェイカーでないだけマシだ!

怪力に限定されているからな。

「私に任せて!はあああああっ………。」

「優希……!あまり無理はしないようにね!」

「大丈夫!」

「うおおおおおおおっ!!!!!」

持ち前の怪力、それは脚力にも通じるようで、水の壁を軽々と超えてきた。

「甘いよッ…!」

攻めてくるのは上か後ろか。

それは分かっている。

だからそこに向かって攻撃すればいい!

「はあっ!」

音の衝撃波。

それを当てるだけで相手は怯む!

空中で当たった奴はそのまま体勢を崩し落下。

「優希!」

「……命令を聞きなさいっ!このハゲ頭!」

「クソガキ…がァ!」

口答えするものの全く動けないチンピラ。

すごいな、魔法の力は。

「ダッサーイ、チンピラのくせに子供に負けてる!ププ!」

「黙れよギャル女が…!」

「うるせーし!水で溺れさせるよ?」

「なっ…やめろっ!」

「どぼーん!」

そう言っててから滝のように水を流れさせる。

「がぼぼぼぼぼ!?」

「ほら、降参ですって言ってください。」

「ごぼばばべぶぅ…!」

「水城さん。」

「あい〜。」

水が流れるのが止まった。

「…クッソ…がぁ…!」

「ふーん。僕の能力で耳の近くで大音量の音を出してあげてもいいんだけど。そうしたら一生聴力ないかもですね。」

「お、おま………」

『お前ら!帰っていいぞ!こいつらは俺がぶっ倒した!』

音の能力というのは案外便利だ。

この男の声を完全に模倣して、勝手に言葉を伝える。

「「うっす!」」

水の壁越しに帰って行ったのがわかる。

「…さて。さすがに申し訳ない気もします。こちらも悪い所はありますが、まだ優希も子供なのです。許してあげてくれませんか?」

大人になって謝るしかない。

ここで変に強がっても意味が無い。

最悪また襲われるかもしれないし。

僕はこの人達のことをよく知らない、逆上させないように。

「お、覚えてろっ…。」

捨て台詞を吐き、どこかへ言ってしまった。



「いえーい。アタシたち最強?」

「良かった……。本当にありがとう。助かったよ。」

「えへへ!私だってやればできるもん!」

「でも、魔法を使ったら疲れるんじゃなかったのか?」

「これくらいなら……。」

「……おんぶするかい?」

「だ、大丈夫だもん!」

「アタシがやるもんねー!おいしょお!」

「わぁっ!?」

水城が勢いよく持ち上げて肩に乗せた。

「それじゃ肩車だよ。」

「ああとと、間違えた。捕まってねー!よいこらせ!」

今度はしっかりと背中に背負った。

邪魔があったが、デパートに向かおう。

そして、服を買って帰ろう。




〜デパート〜

正直な話、僕が一緒に服を見に行っても何も分からないので先に行ってもらった。

僕は布団やらベッドやら、2人がこれから家に来るってことだし、日用品も揃えておかないとな。

今ある物といえば、洗濯機に冷蔵庫にテレビに電子レンジ。

食器や調理器具はある程度揃っている。

足りないものを買いに行こう。

あとは……歯ブラシとか?

そんなことを考えながら歩いている時だった。

ドンッ!という鈍い音が聞こえてきた。

何か事件だろうか。

しかし、そこにはなんとも言えない光景が広がっていた。

不良同士の喧嘩。

まあ、見るに堪えない。

ウェイカーでもないんだ。

さっさと買い物を済ませなきゃな。

そう思って再び歩き出す。

すると、背後から声をかけられた。

振り返るとそこには黒髪ロングの女の子がいた。

黒い帽子を被っていて顔がよく見えない。

「なんでしょう…?」

「あなた、ウェイカーよね?」

いきなりなんだ……?

「あの、人違いでは……」

「いいえ、間違いじゃないわ。その証拠にあなたの能力は私の目には見えている。」

「……!?」

「あなたの力を貰いに来たの。」

「一体何の話ですか?」

あくまで慌てず、無知を演じる。

「別に無理強いするつもりはないけど、抵抗すれば容赦しないわ。」

まずいな……。

能力持ちってことか……。

しかも、こんな街中で堂々と能力を使おうとするなんて正気とは思えない。

「どういうつもりなのか知りませんが、場所を変えましょうか。」

ここのデパートには屋上があったはず、そこまで誘導しよう。

「いい心掛けね。ついてきなさい。」

彼女はゆっくりと歩み始めた。

警戒しながらついていく。

エレベーターに乗って最上階まで上がる。

屋上に行くのは間違いないようだ。

扉を開けると、一面見渡せる景色が広がっていた。

「さて、貴方の能力を頂くわけだけど。」どうするか……。

戦うしかないのか……。

「貴方は話がわかりそうね。」

……僕の後ろを見てる?

振り向いても誰もいない……。

移動系の能力者か?

だとしたら、相当厄介だ。

攻撃されても避けることもできない……。

とりあえず、距離を取ろう。

「動かないで。」

「……。」

「センスもいいわ。後は貴方の能力だけど。」

「……。」

「そう身構えなくても大丈夫よ。少しだけ質問させてちょうだい。」

「なんでしょう。」

「その能力、必要?」

「……前まではいらないと思ってましたね。」

「…ふーん。今は必要ってこと?」

「必要というか、大事というか。」

「私に譲ってくれる?」

「出来ませんね。」

「……残念。なら力づくでも奪うわね。」

「ルミナスへイズ。」

その声で、女性が被っていた帽子が動き始める。

帽子が浮いているのか、帽子を中心に風が巻き起こる。

そして、帽子が破れるように変形していき、怪物の姿を象る。

視界が悪くなる。

煙のようななにか。

そして、突風に煽られ吹き飛ばされそうになる。

だが、耐えた。

そして、目の前にいたはずの女性は消えていた。

どこに行った……?

周りを見渡すと、屋上の高い屋根の上に彼女の姿があった。

あくまで自分は戦わないみたいだ。

目の前にはモヤのかかった黒い鳥の怪物。

きっとさっきの帽子だ。

『アネキィ!ヤッチマッテイインダナ!?』

「ダメよヘイズ。動けなくするだけ。」

『チッ!ショーガネーナ!』

1対1の状況に持っていけただけでもよしとするべきか。

鳥、か。

それならいい対策がある。

音は意外と汎用性が高い。

鳥が嫌がる音を出せば割となんとかなるじゃないかという神頼みで…!

「くらえっ。」

音波の攻撃、何かをぶつける訳じゃないが、どうやら効果はてきめんのようで、怪物が悶え始めた。

次第に形が崩れていき、元の帽子に戻った。

「意外と呆気ない。」

「貴方今、何をしたの?」

音波は人間には聞こえない。

僕にも当然聞こえないが、この怪物にはよく聞こえたようだ。

「別に何もしてませんよ。」

「……そう。まあいいわ。今回はここまでにしてあげる様子を見に来ただけだし。このクソ帽子も全く使えないわね。」

そういうと、彼女はどういう原理か分からないがその場で消えてしまった。

「ふう……。」

ひとまず危機を脱したが…。

「この帽子…。」

彼女が置いていってしまった。

なんと言っていたか…。

「ルミナスへイズ…?」

そう言葉を述べると、さっきと同じように変形し始めた。

『ギイイイイイッ、うるさかった……アネキィ!……アネキ?』

「…ええと、君はさっきの鳥?」

さっきの帽子とは違い、人の形をしている。

ボロボロの黒いドレスのような…何か。

肌もところどころ見えていてちょっといけない雰囲気。

見た目も優希と同じくらい幼いが、顔付きが良くなく、なんというか寝不足で不健康そうな印象を受ける。

ロングヘアーなのはさっきの女性と同じだがボサボサだ。

『ギイイイ…ってアレ?人になってるぞ!オォ!』

「あの、君は……。」

『オレはルミナスヘイズだ!よろしくな!ヘイズって呼んでくれて構わないぜ!戻してくれてありがとな!』

「そっちが本当の姿?」

『イヤマァ、どっちもなんだが。強制的に鳥の方になされちまってな?このクソガキみたいな見た目もアネキの趣味なんだよ。』

「そ、そうなんだ。」

『ところで、お前は俺の力が必要なのか?俺は結構強いぜ?なんせ、アネキ直々に力を授かっているしな!』

「いや…気になって帽子を拾ったんだ。そしたら君がでてきた。その君の言う姉貴とやらはどこかに行ったよ?」

『アァ!?置いてかれたァ!?』

「どっちかというと捨てられたが近いと思うな…。」

『マジかよ!……なああんた、魔法に心得はねぇか?』

「いや、ないよ。」

『カアッ〜マジかよ。じゃあウェイカーか。…知り合いにいたりしねぇか?』

「何か問題でもあるの?」

『魔力がねぇとオレ生きられねぇんだ!アネキに、捨てられちまったから…。あーーーどうすんだ!』

そんなこと言われても。

僕には何の関係もない話だし。

……でも、少し可哀想ではある。

「1人、思い当たりがあるよ。」

『マジか!?』

「ただ、条件がある。」

『なんだよ、ナマイキだな。』

「その子に酷いことをしないで絶対に従うこと。極力喋らないこと、特にウェイカーじゃない人の前ではね。基本、帽子の姿でいること。それが条件だ。」

『そんぐらいなら別に構わねぇぜ!ソイツの所に連れてってくれ!』

「分かった。」

帽子になった彼女を持って、水城と優希の元へ向かう。

……大丈夫かな…。







「おーヒビキん、おっそーい。何してたの?」

「うん、襲われちゃってさ。なんかよくわからない人に。」

「えぇっ!?大丈夫だった?」

「ああ、なんとかなったよ。それよりごめんね。心配かけて。」

「ほんとだよもー。……で、その帽子なに?」

「ちょっと家に戻ってから話そうか。」

「分かった。楽しかったよ、ヒビキ。流奈が服を沢山選んでくれたの!」

「そうなんだ。良かったね。」

本当に良かった。

一時はどうなるかと思ったけど。

後は水城に事情を説明するだけ。

彼女にもちゃんと説明しないと。

僕達が帰宅すると、既に日が落ちていた。

とりあえず、帽子の方を水城に渡した。

彼女は興味津々で色々と触っている。




家に着き、リビングへ。

「さて、何から話そうかな。」

「帽子!帽子!」

「分かった…ヘイズ。」

『おうよっ!』

一気に変身して、鳥になる。

多分モデルはカラスだ。

「きゃあっ!?」

「うわぁっー!?帽子が鳥になった!おもしろ!」

「さっき言ってた襲ってきた人が持ってた帽子なんだけど。…捨てられちゃったみたいでさ。」

「それで拾ってきたの?」

「まあ、どうやら魔力がないと死んでしまうらしく…。」

「そうなんだー。魔力ー…あー!だからか!」

「そうだよ。……で、この子はルミナスヘイズって名前らしい。」

『ギィッ。つってな!人にもなれるぜ!』再び人間形態に戻り、腕を組んで胸を張るルミナスヘイズ。

優希は目を輝かせながら見つめている。

やっぱり小さい子ってこういうの好きだよね。

「それで、魔法を使うのは優希だけ。だから、ヘイズはこれから優希のものだよ。」

「えっ!?大丈夫なの!?」

『このちっこいのがか?…ってオレもちっこいか。』

身長は少しヘイズが高い程度で、実際は多分ほぼ変わらない。

「優希は魔法のウェイカーなんだ。」

『ここだけの話だぜ。アネキが欲しがってたウェイカーの力、それだわ。』

なんという偶然か。

運が良かったと言えるな。

あの時会っていたのが優希だったら、どうなっていたか分からない。

『捨てられちまったし、魔法のウェイカーってんなら、俺も存分に力を生かせると思うぜ!優希つったか?ちょっと手を出してみろ!』

「え?うん。いいけど…。」

そっと手に触れるヘイズ。

すると突然、あの時のように風が吹き始める。

「わーわーわーわー!?何何!?」

『コイツは…すげぇぜッ!?』

「優希!大丈夫かい!?」

「わ、私はなんともないよ!」

一体何が起こったのか全く理解できない。

ヘイズは優希の手を離すと、興奮しながら喋り始めた。

『今のは魔法の力だぜ。しかもかなり強力な!恐らく、この嬢ちゃんはそもそも魔法使いの素質がある!ウェイカーとしての力もスゲェ!オォ〜…とんでもない逸材もいたもんだぜ…将来アネキと肩並べんぞこりゃあ…!』

「凄いじゃないか優希。」

「私もびっくり…。でも、これってどういうこと?」

『とにかくすげーってことだよ!ちょっと待ってろ…!オレの姿もお前のおかげでアップグレードできる!』

そう言うと、ヘイズは再びモヤに包まれる。

そして僕の方を見て、瞳が紫色に光り、ニヤリとする。

何するつもりだろう……。

しばらくすると人の形へ。

その姿は、先程までの黒い服は綺麗になり、まさに魔女のような服装。

姿も少女ではなく、大人びたものへと変わっていた。

髪色は黒のままだが、さらに長くなっている。

身長も僕より高い。

僕は172cmだ。

それでもちょっと目線が上になるくらい。

ヘイズ自身も驚いている様子。

自分の身体をあちこち触っている。

見た目は20代といったところだろうか。

スタイルも良い。

モデルさんみたいだ。

 『あーすっげーな!こりゃなんでも出来そうだぜ。』

「それにしても、どうしていきなり?」

『さっき言った通りさ。この嬢ちゃんの力の強さがオレにも影響したんだ。』

優希の方は……あれ?

さっきまであんなに喜んでたのに。

「……優希?」

「私…ほんとにいいの?」

「何がだ?」

「こんなに色々してもらって…。」

「……僕と最初に会った時の威勢はどこに行ったんだい?」

「あっ、あれは…あの時はそうやってやらないと生きていけなかったから…。」

「そうか。うん、気にしなくていい。これからは優希は普通の女の子なんだ。…いや普通じゃないかもしれないけどね。」

ウェイカーの僕と水城、そして何かよく分からないけどヘイズ。

きっと、皆で。

『あー、普段は帽子にならなきゃいけないんだったか?』

「この家の中は大丈夫だよ。」

『…っしー!まあ、この姿は本気で戦う時しかやらないだろうから、ちっちぇーのに戻るわ。』

再び小さな姿へ戻るヘイズ。

優希は呟く。

どこか嬉しそうな表情をしながら。

「…よろしくね。」

『よろしくだぜ…あー。相棒!オォ!アイボー!いいな!よろしくアイボー!』

「ちょっとー、いい雰囲気のとこ悪いけどさー!この水城流奈ちゃんにはなにかないんですか〜!」

「逆に何が欲しいんですか。」

「可愛いお洋服とか?あと美味しいご飯!」

「自分で買うなり作るなりしたらどうですかね。」

「え〜ケチぃ〜」

「優希はいいですけど、水城は勝手に乗り込んできただけでしょ。」

ふて腐れる水城を尻目に、優希はヘイズと仲良く話し合っていた。

まだまだ色々な事が起こるのだろうか。

そんな野暮なことを妄想しながら一日をすごし、寝るのであった。








次の日。

今日は学校へ行く。

いつも通りに支度をしていた。

朝食も作らなきゃいけないから優希達が来てからは早起きだ。

不思議と悪い気はしない。

優希と水城は俺の隣の空き部屋を使っている。

リビングにいくと、ヘイズがすごい体勢でソファーに寝ていた。

「おはよう、ヘイズ。」

『んがっ…おー。オハヨ!』

「朝ごはんはいる?」

『オレは飯要らねぇんだ。アイボーの魔力をちょいと分けてもらって生きてるからな。』

「そうなんだ。」

さ、朝食をつくるか。今日のメニューはトーストと目玉焼き、ベーコンにサラダだ。

昨日の残り物もあるけどね。

冷蔵庫を開けようとした瞬間、ドアが空く。

「おはよぉ…ふぁ〜。」

「おはようヒビキ…。」

目覚めたばかりって感じの優希と水城。

水城はもう髪が凄い爆発している、いつもこんなんなのか…。

「先顔を洗ってきなよ…。すごいことになってるよ頭。」

「…ん〜……。」

パッとしない返事、いつまで夢見心地だ。

しばらくして顔も洗い終わり、席につく二人。

僕は料理をテーブルへ運びながら話す。

ちなみにヘイズは相変わらずソファの上でぐったりしてる。

本当に何も食べないのかな……。

「そうだ、水城。美味しい水とかって能力で出せるの?」

「あーーー!あったまいー!やってみるー!」

 そう言うと、目の前に手をかざし、水が溢れ出てくる。

コップ一杯分くらいの水が空中に浮かび上がり、球体となる。

「あ、コップは?」

「はい。」

目の前においてあげる。すると水球はみるみると小さくなり、普通の水の玉となった。

「おおー。」

「すごいね、それ。」

「えっへん。もっと褒めてもいいんだよ?……でも何に使うのこれ?」

「いや、朝に水飲むでしょ?それくらいやってほしいなって。水道代も浮くし。」

「ヒビキん偉いなーお金のこと考えてる!」

「…お、かなり美味しい。毎朝頼むよ。」

「任せろ!」

誇らしげにする水城と、それを微笑ましく見る優希。

うん、平和な光景だ。

 朝食を食べ始め、おもむろに優希がテレビのチャンネルを変えた。

『あっおい!観てたのによォ〜。』

「いいじゃん。私も見たいのがあるの!」

『はー?オレの方が歳上だぞ?何千と歳とってるんだぞ?』

「なによ!私の魔力のおかげで生きてる癖に!」

「コラ。」

『いだっ。』

「あたっ。」

「ヘイズ、流石に君の方が歳上なんだから譲ってあげてよ。録画しておくからさ。」

『ちぇっ。』

言い合いしながらテレビを見る。

ニュースではある事件について報道していた。

またかと思いつつ、朝食を口に運ぶ。

ヘイズは興味なさげに欠伸をしている。

水城は真剣に見ていた。

僕もつられて画面を見た。

「ふーん。ウェイカー差別ねー。」

「無くなるといいけど。」

僕らにとっては身近な事件だ。

ウェイカーである以上は避けられない問題でもある。

そしてその事件は解決する事はない。

ウェイカーがいなければ犯罪は増え、争いが起こるだろう。

理由は簡単、ウェイカーがウェイカーを止めているから。

そこに「そもそもウェイカーなんて居なければいいんだ」と差別する人も少なくない。だからと言って全ての人がウェイカーになるわけじゃない。

ウェイカーを毛嫌いする人もいれば、自分の家族や友人がウェイカーだった場合、普通に接しようとする人もいる。

結局は個人の問題なのだ。

そうこうしているうちに学校へ行く時間になった。

鞄を持ち、玄関へ向かう。

「どこに行くの?」

優希が声を掛けてきた。

「学校だよ。留守番頼むね。」

「そっか……。」

と、急にモジモジし出す。

「どうしたんだい?」

「……1人はいや。」

俯きながら言う。

僕は靴を履き替え、優希の元へいく。

すると彼女は嬉しそうにはにかみ、腕を絡めてくる。

ちょっとドキッとしたけど、平静を装う。

「ちょっとー!ゆーちゃん!私にも!」

と水城も便乗してくる。

水城が優希撫でていた。

気持ち良さそうな表情をする。

笑顔で見送って学校に着く。

教室に入ると、既にみんな来ていた。

僕は挨拶をしながら席につく。

クラスメイトとの会話が始まり、勉強。

何事もなく一日を終えまた家に帰ってくる。

「ただいまー。」

これを言うのも久しぶりだ。

1人で暮らしていたから何も言うことは無かったけど、今は違う。

「おかえりなさい。」

リビングから優希が現れる。

「ただいまゆーちゃーん!」

「おかえり流奈!」

抱きつく二人。

仲が良いのは良いことだ。

そのまま部屋に行き、荷物を置く。

制服を脱ぎ、ラフな格好になって再びリビングへ。

すると二人はソファに座っていた。

「ねーヒビキんー!昨日の話覚えてる?」

「昨日?」

「そ、あたしにもプレゼント〜って話。」

「うん、僕にやれることならやるけど…。期待しないでよ?」

「むしろそっちが喜ぶんじゃね?ってやつ!」

水城の言葉に首を傾げる。

するとクスッと笑い、こちらに歩み寄ってくる。

目の前まで来ると僕の顔を覗き込んでくる。

少しドギマギしつつ、水城を見た。

「付き合っちゃお?」

「えっ!?︎」

思わず声が出てしまった。

しかし水城は気にせず続ける。

「ダメかな?一緒にいて楽しいし、あたしは本気だよ?」

水城の真っ直ぐな目を見つめる。

嘘をついているようには見えない。

……でも。

僕は視線を逸らして誤魔化した。

水城がムッとする。

この感情がなんなのか、自分でもよくわからなかった。

「なにか不満?」

「そういう訳じゃなくて……」

言葉に詰まる。

「もういい。」

水城は背を向けてしまう。

「……ごめん。」

僕は一言謝った。

「じゃ、こっち見てよ。」

振り返らず、そう言った。

僕は言われた通りにする。

ゆっくりと向き直り、水城を正面から見る。

彼女は泣いていた。

涙が頬を伝っている。

その光景に息を飲む。

水城は涙を流したまま、僕を見て微笑む。

「うっそ〜!能力でした〜!アッハハ!」

そう言って笑っていた。

「……は…はぁ…。」

また乗せられた。

そう思っていた矢先。

「本当だよ。」

「え?」

水城は真面目な顔になる。

そして僕に近づくと、優しく抱きしめてくれた。

「好きなのは本当だよ?じゃなきゃ一緒に住もうなんて言わないじゃん。」

彼女の温もりを感じる。

鼓動が早くなるのを感じた。

「あ……あの……ちょっと……。」

僕は離れようとする。

けれど離してくれなかった。

「好き。大好きだよ。」

耳元で囁かれる。

恥ずかしくて死にそうだ。

「それに、それを受け入れてくれるキミ。それってさ、そういうコト…だよね?」

彼女から離れる。

そして自分の発言を思い出した。

確かにそう取られてもおかしくはない発言だった。

否定しようと口を開く。

しかし、それを遮るように水城が言葉を紡ぐ。

それは優しい声色だったが、有無を言わせぬ迫力があった。

「ね、いいでしょ?コイビト、なっちゃおう?」

僕は静かにコクリと頷いた。

水城はニッコリ笑うと再び抱きついてきた。

僕はというとまだ心臓がバクバクしていた。

これがどういう意味を持っているのか、わからないほど子供ではない。

思えば、昨日の帰り道に感じた感情はきっとそういうことだったに違いない。

「あたし、ヒビキがいて本当に良かったって思ってるの。私もウェイカーってこと、ずっと隠してて不安で不安で仕方なくて。それで、君に出会った。」

彼女は一呼吸置いてまた話し出す。

今度は真剣な口調だった。

僕は黙って聞くことにした。

彼女の表情はとても穏やかで優しかった。

その笑顔に見惚れながら話を聞いていた。

話が終わると、また抱きついてくる。

「ヒビキがどう思ってても、私はヒビキと出会って、友達って認めてくれた時からずっと好きだった。…なんなら、ゆーちゃんにすら取られたくないって思っちゃって。」

冗談めかすような言い方だが、水城の顔は真っ赤になっていた。

僕も釣られて赤くなっていただろう。

水城が照れているのを見るのは初めてかもしれない。

……なんだか可愛いと思った。

水城はまた話し始める。

「優希だけじゃなくて、あたしも…水城流奈も、ちゃんと見て?ね?」

「うん。頼りないかもしれないけど…よろしく。僕も気持ちの整理がつかないけど…多分知らないうちに好きだったんだなって今わかった。」

心底嬉しそうな顔をする。

その顔は今までで一番可愛かった。










『ケッ、甘酸っぱいねぇ。いいのかよアイボー!』

「……いいの。私なんかよりずっと一緒にいるから。」

『……チッ。いいかアイボー。恋っつーのは競走だぞ?今取り返さなきゃもう二度と手に入らないぜ?』

「でも…私なんか……まだ幼いし…。」

『……ギィイッ!我慢ならねえ!チャンスをくれてやる!』

「えっ!?」




リビング外の廊下で、抱き合って付き合うってなってしまった。

一体何が起こればこんなことが起きるのか不思議だが悪い気持ちではない。、

『おうおうおうヒビキィ。』

大きい状態のヘイズが出てきた

居心地を悪くさせてしまったか…?

「ヘイズ…えっと…これはその……。」

そう思っていたが、自体は急変。

いわゆる、壁ドンってヤツを僕がくらった。

『こんなちんちくりんより大人の魅力ってヤツを知りたくねェかぁ〜?』

「ちょ!ちょっと!あたしのヒビキん!」

水城はジタバタ暴れているがヘイズの腕力には敵わないらしい。

僕はと言うといきなりの出来事に頭が混乱している。

目の前にあるヘイズの胸が気になって仕方がない。

ヘイズはニヤリと笑うと僕の手を取り、胸に持っていこうとする。

「ストップ!ごめんなさいごめんなさい!?!?」

僕は慌てて手を離す。

しかし、それが逆効果になってしまった。

ヘイズは僕の腕を掴み直し、今度は自分の股間へと誘導しようとする。

「や、やめてってば!」

僕は必死に抵抗する。

けれど、ヘイズの力が強くて全く抵抗できない。

『これがオトナだ…ぶああっっ!?』

「頭冷やせ!このデカ乳鳥!!」

『テメェ!』

水城は頭に血が上っているのか、思いっきり水をかけた。

その隙に僕は逃げる。

『待てヒビキ!!』

「うわああああ!!!???」

僕は全速力で自分の部屋まで逃げた。

後ろからは何か物騒な音が聞こえるが気にしないことにする。

「はぁ……はぁ………どうしてこんなことに…。」

と、ノックする音が聞こえる。

優希か。

「…ふう。入っていいよ。」

優希が入ってくる。

優希は僕の格好を見ると驚いた様子だった。

走って息が上がっている。

運動はすきではなくて。

そして心配そうな顔で近寄ってくる。

「大丈夫?」

「大丈夫…問題ないよ…はは。」

手をついてベッドで休んでいた。

その足の間に座ってきた。

「……優希?」

「ヒビキ。」

「……わ、私も好きだから。」

それだけ言うとそっぽを向いてしまった。

照れているのだろうか。

耳は真っ赤になっている。

しばらく沈黙が続いた。

「覚えておいてねっ。」

耐えられなくなったのか、部屋から出ていってしまった。

「………困ったなぁ…。今モテ期かぁ。」

僕はボソッと呟いた。



次の日。

今日は休日で、昨日の唐突な出来事もあり結構起きるのが遅かった。

目が覚めると鳥になっているヘイズが居た。

「……あ…ヘイズっ!?」

『おお待て、落ち着け。昨日のアレは誤解だ。悪ぃな。』

妙に落ち着いているヘイズ。

「誤解っていうと…。」

『いや何、アイボーから聞いたろ?お前が好きだって。リビングで聞いてたけどよ。アイボーがあっさり諦めちまうんだ。だから機会を作ってやった。』

「な、なるほど…。」

僕が納得すると、ヘイズは人の姿になった。

『まあ、そういうことだ。あんたも即決しないでよく考えて決めてやれよ?場合によっちゃ修羅場だぜ?ギィッ!』

「そうだね…はは。」

『ただまぁ…本当に決められない…どうしようってなったら。』

と、少し黙る。

「……なったら?」

布団に押し倒される。

『オレでもいいんだぜ…?』

今にも僕を食べてしまいそうな笑み。本能的に逃げようとするが、体を押さえつけられてしまう。

このままだとまずいと直感した。

しかし、時すでに遅し。

ヘイズの顔が近づいてくる。

『お望みなら…ちっこい体でも…な?』

あまりに近すぎるが故にただただ、ゾクゾクとする。

僕は必死にヘイズを突き放そうとするがびくともしない。

『ギィッ!ま、オレに喰われちまわない為にもキッチリ決めとくんだな!じゃあな!』

と、突き放し、部屋を出ていってしまう。

「僕は一体これからどうなってしまうんだ…………。」

僕は途方に暮れていた。

新しい生活が始まるのはいい事だが…今度は恋という悩みに襲われるとは思いもしなかった。

これからどうすればいいのだろうか。

そんなことを思っていた矢先に電話が鳴る。

相手は普通の男友達。

『よお、今日遊ばないか?』

「……ああ、いいけど。今僕の家は無理だよ。君の家でいいかい?」

『よしきた。昼からな。待ってんぞ〜。』

短時間の電話。

……相談、してみるか。

恋沙汰は詳しそうな友人だ。

少しくらいは…いいだろう。





そんなわけで俺はこれから2人と1匹の女の子に毎日、生活することになった。

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