表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/6

朽ちた神社の神様と。 前編

年明けの日というのは、基本的にやる気が起きない。

だらだらの休暇をすごして、また仕事する。

その惰性が幸せなのか、無駄なのか。

きっとそんな考えをできることこそ幸せなんだろうが、仕事があるとなると程なく虚しくなる。

「あー……」

なんていうか、駄目人間みたいで嫌な感じである。

いや実際そうなんだけどもさぁ。

「初詣…ねぇ。」

テレビに目をやると初詣の様子が放送されている。

賑やかなのはいいことだ。

なんのために行くの?と多々思うことはある。

「まあ、行くかぁ。」

神に頼むのも悪くない。

防寒着をそれなりに来て、外を出た。

どこにあったっけな、神社。



時代の進歩というのは実に便利だ。

行きたい場所にすぐ行ける。

「にしてもこんなところに神社なんかあったかよ。」

田舎っつーのは海の中くらい未開拓だ。

加えてこの神社、あまりにも人の手が入っていない。

植物も生えまくり、ボロボロの建物。手入れしている様子もない。

「とりあえず行ってみるかね……。」

ある程度歩いて到着した。

寂れた鳥居。苔むした社。賽銭箱もない小さな建物だった。

それを見て俺は落胆してしまう。

(ここまできて誰もいないってことはないだろうけど..)

そしてあたりを見渡しても人っ子一人いなかったのだ。……寒いから帰ってもいいかなと思った瞬間。

ガサガサっと茂みの奥の方から音が聞こえた。

思わず身構える俺。しかしそれはすぐに収まった。

すると出てきたのは狐耳の少女であった。

「ひ、人かえ…?お主…た、頼む。社の手入れを……。」

急に出てきた挙句急にぶっ倒れた。

「お、おい!大丈夫か!?」

小さい体で、コスプレイヤーかなんかかと思ったが、どうやら耳も尻尾も本物だ。

俺は少女を抱え起こすと顔を見た。肌白、髪は薄い桜色、服装はかなりぼろっちぃ着物みたいなものだった。

意識はないが呼吸はあるようだ。脈もある。ひとまず安心してよさそうだ。

「…あー。手入れかぁ。関係してんのかね。」

言われたことを思い出した。

社の手入れを〜とか言われたな。

素人の俺がやっていいのかわからんが…流石に女の子を捨ておけはしないしな。

まあ、どうせ暇だしやっておくか。境内に入る前、本殿の周りだけ綺麗にしておいた。汚れていたとはいえ掃除するところはほとんどなかった。

改めて中に入ると何かごちゃついてるような気がしたので一応整理整頓をしてみた。ついでなので軽く拝んでいったのだが……これで本当に効果があるのかわからない。

ただこうすることで気分的にすっきりするのは確かだと思う。神様がいるかどうかは知らんが、こういうものは気持ちの問題なのだと思うことにしよう。そう思っておかないと正直めんどくさい。

帰り際にもう一度社を見るときれいになっていた。埃も取っていたのかかなり輝いているようにすら見えた。……これなら文句はないんじゃないか?

その後家に帰ろうとすると、後ろから声を掛けられる。

「お主待たんかー!」

「…は、はい?」

さっきの狐?の少女が走ってくる。

「いやー助かったわい。わえの名は桜と書いておうと読む。一応ここの神じゃ。今はもう誰も来なくなったがの。」

…………はい?神? 目の前にいるちっこくてかわいい子が? ちょっと信じられないんだが、本人が言うには本当らしい。

「ここを訪れる人間が少なくなっていっての?信者の数ほど神は力を増す。わえは次第に神としての力が薄れてこんなに小さくなってしまったんじゃ。」


そんな馬鹿なことを言い出した彼女に呆れてしまう。

「いやまあ確かに……あれだけの荒れ具合だとそういうこともあるかもだけど、もっと他になんかなかったわけ?」

神社の管理をするべきなんだが……なんというか、あまりにも適当すぎて笑ってしまう。

「笑い事では無いんじゃ。…実はの、昔はここも繁栄しておった。じゃが、わえが言うのもなんじゃが、ここは田舎。人の栄も時の流れで少なくなるものじゃ。そうして巫女たちも皆消えてしまった。」

……それで管理する人間がいなくなったせいで神社が崩れていくという負の連鎖になったということだろうか……?

「そりゃまあ大変だったな。この世は結局都合のいい時しか神を信じない人間が多いぞ。」

「そんなことわかっとる!だからこうして信仰を増やすために頑張っているではないか……。だが、人が来ても願い事は些細な事ばかり。もはやわえのことなんて忘れ去られようとしているのかもしれぬ……。」

肩を落としながら彼女は言った

「そんなに人が大事なのか?」

「うむ、わえら神は人々の信仰があってこそ存在できる。わえが今こうして存在できているのはお主がこの境内に入って来てくれたからじゃ。加えて手入れもしてくれた。少しは力が戻っておるが…それでも元の10分の1もない。」

(よく考えれば俺が来るまで一人で放置されていたんだよな……。)

「……よし、決めたぞ。」

「何をだ?俺は何も聞いてないが……。」

勝手に話を進めているようだが一体何を決めたと言うのだろうか? 俺の言葉を無視して少女は続けた。

「お主、名は?」

名前。名前を聞かれたようだったが、少し迷ったが俺は答えることにした。別に隠すことでもない。

「俺は結城京。よろしく頼むぜ神様。」

手を差し出し握手を求める俺。すると彼女もそれを握り返してきたのだ。

そして満面の笑顔でこういった。

「お主は今日からここに住むんじゃ!」

「待て。」

俺は思わず突っ込んだ。聞き捨てならない言葉があったからだ。

「どういうことだ!?いきなりすぎるだろ!大体俺にも生活がある!流石にここに住み着くことはできないだろ!?」

焦り気味にまくし立てる俺に少女は目を丸くして驚いた様子を見せた。

「飯は朝昼晩の3食付き、わえが作る。完全週休二日制、有給はないが仕事は掃除とこの場所を栄えさせてくれればなんでも良い。金はわえの小判をやる。今が何年か知らぬがそれなりに高値で売れるじゃろう?駄目かえ?」

まてまて、かなり良くないか…!?

ホワイト企業もびっくりの食事付きだと!?掃除やらせてもらえるし、しかも小遣いまでくれるとか……!!

んー、でも住み込みバイト……? しかし流石にこれは…。

ここで断っておくか…?

「ふむ、疑っておるのう。仕方ない。見ておれ?」

そう言って社の中へ入っていく。

しばらく待っていると、また出てきたのだが…… え、大きくなってね?身長150cmくらいしかなかったはずなのに180センチはありそうな体格になっている。

狐耳はそのままなので尻尾もある。

服装や顔つきは変わっていないので別物ではないはずだ。

「分かるか、人間よ。」

「うぉっ…!!」

威圧感、蛇に睨まれた蛙の気持ちがよくわかった。

その一言だけで足に震えがきそうになるレベルである。

……これが神の力なのか?

……凄まじいな。

というかさっきの小さい姿は何だったんだ? あの姿でいてもらった方がいろいろ安全だと思うんだけど……気になるな。

「…むぅ。」

と、気にしていたらすぐに小さく、元の姿に戻っていた。

「これなら安心かの?これで分かったじゃろ!」

胸を張って偉そうだが、正直怖くてそれどころじゃないです……。

ただ、これ以上断ったところでどうにかなるとは思えなかったので諦めて言うことにした。

「……わかったよ。何ができるかわからないが。」

「……え?」

何故か、キョトンとした表情になる。

「……いいのか。」

「まあ、困ってるのを見過ごすほどダメな男じゃない。」

その瞬間、人形のようにストンと地面に座り込んでしまった。

「…ぅう。…よかっ…た。」

泣き出すように目尻には涙を浮かべていた。……?なんだろうこの感じは……。

どこか懐かしいような、嬉しいけど恥ずかしくもあり照れてしまう。

まあよく分からないけれど、嫌な気分ではなかった。

とりあえず、今は彼女が落ち着くのを待つことにする。



「すまぬ。取り乱した。」

数分ほど経った頃だろうか。ようやく落ち着いてきたようで、立ち上がり俺の顔を見て謝った。

「それで……ここに住めばいいのか?」

「うむ、わえはお主が気に入ったからの!ずっといても良いぞ!」

それは流石にあり得ませんから……。

「とりあえず、1度自分の家に帰らせてくれますかね?荷物とかあるんで。」

「うむ、では参ろう。」

「…え?着いてくるの?」

当然と言った風に首を縦に振る彼女。

「……まあいいか!よし、行きますよ。」

「久方ぶりの人の世じゃ!」

(ここ本当に神社で合ってんだよな?)

境内から出て行く俺達だったが、辺りはすっかり暗くなっていた……。






次の日。いつも通り朝食を食べ終えた俺はリビングで寛いでいたところだ。

昨日の話を思い出す。

結局、俺は彼女の社に住むことになった。

のだが……。

「人の進歩とは素晴らしきものじゃのう。よもやここまで至るとはわえも思っておらんぞ!」

俺の隣に座ってテレビを観ながらそんなことを言っている神様。

今朝起きてからというもの彼女はとても上機嫌であった。というより何か企んでいるように見えたのだ。だからこうして警戒しているわけだが…… 流石に無謀だろうか。

俺はまだ朝の一件から一言も口を開いていない。

「む、言いたいことがあるのならはっきりするんじゃ。顔でわかるぞ。」

「……お前は初対面の男を信用しすぎだ。俺がもし、悪いやつだったらどうするつもりなんだ?」

少し語気が荒くなるが、俺は真剣である。

しかし、目の前の少女はその言葉を受けても余裕そうな態度を見せていた。

「馬鹿を言え。お主のような心持ちの男、外見だけでも小さなおなごを捨て置けるわけあるまい。」

ぐっ……痛いとこ突かれた……。

女の子を見捨てるってそりゃないからな…

「それに、わえは神じゃ。お主がどのような人間か。分からぬはずがない。」

……凄いなこいつ……。

「そうかい。でもまだ信じ切ることはできない。」

「良い。それでも構わん。これからの生活の中でゆっくりわかってくれればよいし、何よりも……そっちの方が面白い。」

ニヤリと笑みを浮かべる。

不覚にも可愛いと思ってしまった

「さて、そろそろ社に戻るか。」

しばらくすると、そう言って立ち上がる。

その時に、手を差し伸べてきた。

握手ということらしい。

俺は黙り込んだままその手を握り返す。

温かい感触があった。


その後、食事と掃除、洗濯などの家事を終えた俺は部屋へと戻る。

そしてある程度の荷物をまとめて、バックやらなんやらに詰め込む。

時刻は現在7時過ぎといったところだろうか。

「外に車があるんだ、軽いものでいいから後ろの方に運んでくれないか?」

「あの車輪の着いた妙な箱のことか?」

「ああ、あれ動くんだぜ。」

「まことか!?」

目を輝かせて迫ってくる。

やっぱりこいつは子供っぽい性格をしているようだ。

荷物を積み終わり、出立の準備を整えた。

最後にやること。

仕事先にトンズラこくんだ。今日中にね! スマホを取り出して会社へ電話をかける。

数回コールした後相手が出たので事情を説明した。

流石に退職代行サービスを使って電話するのは初めてだったけれどなんとかなったな。……いやまあ、辞める意思を伝えるくらいしかできなかったけど……。

はれて、これで俺は無職。

そんでもって、この狐娘の社に居候する。

その代わりに俺はあの神社をあの手この手で盛り上げて、参拝者を増やす。

うん、よく考えたら、いいじゃないか。

割といい条件なんじゃないか? よし決めた!

「準備ができたか?」

「うむ、良いぞ!「くるま」とやらも楽しみじゃ。」



玄関を出て駐車場に向かう。

2人で乗り込みエンジンをかける。

そのまま発進させ自宅を出た。

道中は特に何もなく順調に進んだため10分程で到着。

「………。」

「どうしたそんなに固まって。」

「お……」

「…お?」

「恐ろしい…のじゃ…。」

神様が文明に触れるとこうなるのか。勉強になるなあ……。

とりあえず乗せたままにしとくのもなんだし下ろすか。

車を降り神社の方へと向かう。

その際彼女はずっと俺の服の端を握っているのだった……。


…… そんなこんなで社に帰りついた俺達は改めて自己紹介をすることにした。

「わえは桜という。…じゃがこれは神としての名前ではない。」

「へぇ、神としての名前って教えられるの?」

「大神木花咲耶姫じゃ。」

おおかみこのはなさくやびめと読むそうだ。

綺麗なお名前。

「俺も改めて、結城京だ。」

「知っておるが?」

「わかっているよ。そういえば昨日は聞けなかったんだけどなんの神様なの?」

俺がそう聞くと彼女は誇らしげに言った。

「わえの桜の名の通り、木花咲耶姫の名の通り。植物を司るものじゃ!」

それから、彼女の話を聞いたのだが要約すると。

1つ目、神には大体2種類あること。

人それぞれ、イメージしやすい神が違うらしい。

例えば、農耕神は豊穣神とか土地神の類である。


だが、一般的に想像される神がだいたいこれに含まれるとのことだ。

ただ全ての神様のイメージが一致してるわけではないので注意が必要だとか。

2つ目はそれぞれの神話体系について。

日本の場合、様々な神々が存在しそれぞれに違う逸話が存在するのだけれど全てにおいて共通するものがあるということだ。

「…もしかしてさ、ここ雪が降らないのって…。」

少し嫌な予感がして聞いてみる。

すると、満面の笑みで答えてくれた。

「その通り! わえのお陰じゃ。」

おいまじかぁ……。なんとも言えない気分になった。

そうだった、忘れていたけれどここは日本。

神道というものが存在している。

それこそ、『八百万』と言われるほど多くの。

そして、その数だけ伝承があるということ。

「あんたも神様、だもんなぁ。」

「そういうことになるのう……。ただもう長い年月を過ごしてきた。人の世は変わり、神を必要としなくなった。」

そう言いながら肩をすくめる仕草を見せる。


「だから、この神社もこの辺り一帯の土地にも信仰はないのじゃ。」

なるほどね、それでかと思った。

そもそも、あんな山奥にある神社を誰も知らないなんておかしいと思ってたんだった。

そりゃ、誰も来ないわけだよなあ。

「ところで、あの鳥居から続く参道の奥にある洞窟は何?」

話を逸らすために質問する。

そう聞くと、嬉々とした表情を浮かべる彼女。

「それはじゃな! あの先には、わえが作ったこの社の本殿があるんじゃ! そして、その先の祠こそがわえを祀る神殿じゃ!!」

「おお、見てもいいか?」

「うむ、わえの大事な人間じゃからな!良い良い!」

機嫌よく言う。

俺は靴を脱いで、拝殿の前へと上がった。

「この先に、祭壇があってな。そこに祀られているのがわえなのじゃ!!凄いであろう!!!」

胸を張って自慢げに言ってくる。

まあ、今まで神様の友達なんているわけなかったからな…。

価値観が違ぇや。

そんなことを話しているうちに、到着した。

…のだが。

「まあ……そうじゃな。」

「…だな。」

当然、人の手はついていない。

植物を司る神らしく本殿は蔦やらなんならでめちゃくちゃだった。「……掃除するか。」

「……うむ、お願いしよう。わえは何もできん。」

とても申し訳なさそうな顔をしていた。

しょうがない、やるしかないだろう。

「よし! とりあえず外に出るぞ。」

このままでは寝泊まりすることさえできない。

俺は彼女に案内され外に出たあとに車まで戻り必要なものを持ち出した。

……まあ、そんなこんなで清掃作業が始まったのだが……。

「ほれ京よ!もっとしっかり拭かんか!」

彼女が何か言ってきているが無視をしておくことにした。

「うむ、うむ!綺麗になって言ってるだけではあるがわえの力がみるみる戻っていくのを感じるぞ!」

喜んでくれる分にはありがたいけども。

今現在、神社周りを一周し終わったところだ。

結構広いんだなここって。

「にしても、ここまで荒れ放題なら何年放置されてたんだこりゃ。」

俺がそんなことを言うと、彼女はそっぽを向いてしまう。

「…恐らくじゃが、外の文化が入って来たころから既に参拝者は少なかった。」

ポツリと呟いた。どうやらこの子は、寂しかったようだ。

「ん?なんか言った?」

彼女は俺の方を見て首を横に振るだけだった。

そして気を取り直して、彼女の方に向き合った後。

「さてさて、これで一通り済んだよ。どうだ?力の方は。」

彼女は大きく伸びをしてこちらを見るなり笑顔で答えてくれた。

「素晴らしいの。最盛期とまでは行かぬが、5割は戻っておる!」

正直驚いた、1人でやったとは到底思えないほどの成果だ。

それに、見た目も綺麗になっている。

少し見惚れてしまうほどだった。

「……いや、すっげぇな。改めて見ると迫力が段違いだ。」

思わず感嘆の声が出るくらいだった。

「……ありがとう。」

照れたように頬がほんのりと赤くなっていた。

「ふぅ……。」

1時間ほどで終わり、今は休憩中と言った所である。

「少し、ぼんやりしているといい。」

その声を、聞いてなんだか一気に疲れが増したような気がする。

近くにあった気に腰をかけた途端、眠気が襲いかかる。

「申し訳なかったのう。今はしばらく休むといい。」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ