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天使の裁き

何気に5000文字近くあります。

気が引けるのでご注意?

「助けてくれないと、小生、君の事を殺す」

「なんだそれ、脅しかよ?!」

「そんなもんだなぁ、だって小生怨み屋だし」

 爽やかな顔してひでぇ事いいやがる。

 ていうかそもそも手助けと言ったって、俺も俺で危機なのだ。

 記憶喪失。

 普通ならパニック症状起こして倒れてもいいんじゃねぇの的な。

 名前も親も住んでる所も分からない。分かってるのはこいつとこいつの兄の事。

 俺には全く関係のない事。

 それに、その手助けも危うい。

 だって、俺は一回半殺しにされたのだ。

 こいつの、白星弟の、黒星兄。

「手助けはしない」

「なんとっ?!」

 随分と驚きやがる。

「命の保障はするのか?」

「しない」

 なんとも俺の考えてる答えとそっくりな答えだった。

「君も見ただろ? 銀は人間や白星とは掛け離れた姿だ。ドラクエとかFFにも出て来そうだったろ? 多分、雑魚(ざこ)ボスだろうけど」

 おいおい…実兄を雑魚ボス扱いって……お前等兄弟では弟の方が主導権握ってんのか?

 凄く恐ろしい兄弟だ…。

「じゃあ……雑魚ボスならお前一人でも倒せるだろ? 雑魚ボスは最初の方に出て来るもんじゃん。つまり、ドラクエでもFFでも、まずは主人公一人で倒すんじゃないのか?」

「そんなことは知らん」

 うわぁ、凄い。

 そうか、そうか、こいつは大好きなお兄ちゃん以外には超がつくほど人間に関心も感心も沸かない白星くんなんだな。

「……君は小生に恩のおの字もないのか?」

「まぁ、そりゃあるけど……命を捨てるような恩返しってないだろう?」

「だけど、君。小生が黙ってたら死んでいたかもしれない」

「……」

 さっきから死とか死とか……なんて不吉な話ししてんだ俺…いやこいつも。

「小生に助けられずに死ぬのと、助けられた小生に恩返しして死んでしまうのでは、恩返しするほうが希望が沸かんか?」

 沸かない。

 全然と言っていいほど。

「やっぱり、恩はすげぇ計り知れないほどあるけど、そんな手助けはできねぇは。……お前達星は、ちょっとやそっとじゃ死んでも死ねないのかもしれないけど、俺みたいな人間はほら、死んだらそこで終わりじゃん?」

「……ま…ぁ、そうらしいけど……」

「俺は今記憶喪失で、名前すらもわからない。そんな奴が命捨ててまで人の手助けなんてしてらんねぇし」

「……わかった」

 おぉ、以外に物わかり良い奴……。

「じゃあ、小生君の事殺す……」

 目をギラッとさせ、歯をギラッとさせ、凪はそういった。

「いやいやいや! 待て凪!」

「待たぬ。小生は待たない性格である」

 短期すぎる!

「死んだら小生が立派な星として育ててやろう。む、待てよ? 星では天使に殺されてしまうな。そうだ。悪魔にしてやろうぞ」

 無駄な特典だー!

「どうする? 星か悪魔。どっちがいい?」

 ……どうしよう。

 上手く突っ込めない話しだ。

「星も悪魔にもならない。俺は俺だ、人間だ。死ぬ時はガンがいい」

「ガンなんぞ知らん。小生は殺された」

「それこそ知らねぇよ、俺は殺されるのは御免だ。誰にも殺されねぇ! ここはお前等みたいな桁外れの能力をもった宇宙人の住む所じゃねぇ! 俺のような普通の一般の、頭と心臓取られたら生きていけねぇ奴等の住む所だ! 帰れよ! 宇宙でも、月でもナメック星でも!」

 切れた。

 そうだそうだ、俺は誰にも死なせやしない。

「……聞き分けのならん奴め…」

「あ?」

「黙って死ぬ振りしてれば良かったのに」

「……?」

 振り?

 死ぬ振り?

「一つ言って置こうか。…君はもう裁かれているんだ」

「裁か……」

「何故だかわかるかい?」

「わからない」

「白星や黒星を眼に見ている時点で、君は普通の人間ではないという事だ。……しかり、それは特別な存在ではない。言うなれば…望まれていない、不幸な存在」

「……」

 何を言っているんだこいつ。

 人が切れている時には黙って聞いてろよ。

 それになんなんだよ、まるで俺が、俺がこれから殺されてしまうかのような口調ぶり。

 認めねぇぞそんなん。

「天使はすぐそこにいるんだ、…裁きはもう始まっている」


 天使? 裁き?

 俺にはそんな世界関係ないぞ。

「君はどう思う?」

「……何が?」

「君が、小生や銀。いけ好かないアホ天使より高い格の持ち主って事をだよ」

「はぁ? 何言って……」

「『神様』あえて言うならそうであろうか」

 神様?

 何ホザイテンデスカ、凪サン。

 ちょっと嬉しいけどさ、……俺はどっちかってぇと、冒険ファンタジーには欠かせない、暗黒な魔王様の方がいいよ。

「……そうだろう? 天使!」

 凪は大声で、天使という人物に訴えた。

 勿論ここには天使と呼ばれる奴は誰一人いないはず。

 ていうか、天使という名前であろうがそう愛着がついていようが、『天使』なんて呼ばれたら恥ずかしいだろう。

 逆に『悪魔~』なんて呼ばれても結構困るだろうな。

「でてこい天使。どうせ裁きにくる事は目に見えてるぞ」

 そう一言。

 凪は大声で言った。

 その一言で、少し、俺の視界に写る何かが変わった。

「……天使」

 その目を良く凝らしてみると、やっぱり、壁が、壁がゆっくりと浮き出てきたのだ。

「なにこれ……」

「何を言っている。あれが天使だ。言っているだろう」

 壁が少しずつ少しずつ形を成していく。

「羽がないけど……」

「おお、まだ見習いだ」

 壁と完全に切りはなれる前に、色づけされて行く。

 白、青、黒……。

「……グロテスク」

「まぁ、そういうな。『天使は純粋』なんてもう二度と思わない事だ。『天使はグロテスク』そう思いなさい。…なぁ、天使」

 凪が天使と口にする。

「天使なんて呼ぶんじゃねぇ! 俺は天使だが、天使なんて名前じゃない! 俺は俺の名前がある!」

 天使が叫んだ。

 怒鳴ったが正しいのか……?

 ていうか、恥ずかしがった。

 天使なのに、しかも見習いなのに自分が天使と呼ばれる事に拒否感抱くなんて、なんておかしな天使なんだろうか。

「ほう……じゃあ教えてもらおうか、天使君の名前」

「いいか、耳の穴かっぽじって良くきけよ?! 俺の名前は……不二子・ダ・ライアン・ミュース・ピュア・ホワイトだ! 聞いたか、分かったか、覚えたか?! 俺は天使なんて名前じゃねぇ!」

 ピュア・ホワイト……?

 名前に?

 いやぁ、確かに俺の妄想した天使にピュアなホワイトは凄く良く似合うけど。

「駄目だ……」

「凪?!」

 凪がフラッと膝をついたのだ。

 急いで手を貸してあげた。

「どうしようか、小生今凄く恐怖を感じる。……ピュア・ホワイトって…なんたる羞恥! ……嗚呼、小生今初めて『世界は広い』と実感した。ていうか、こいつの親に……いや、天界に訴えたい。何故こんなかわいそうな名前をつけられたのか……今年一番の謎になるであろうぞ。何だろうかこの…動機・息切れ・目眩! 小生は……死んでしまうのであろうか?!」

 目をうっすらと開け長文をずらずらと並べる凪。

「大丈夫だ凪! 星は心臓1突きされてもしなないんだろう?! 気をしっかり持て! 俺だって倒れたい!」

「おいコラ! 何、人の名前聞いて死のうとしてんだ! 失礼だぞ、今お前等酷い失礼な奴だぞ!」

 俺がもしピュア・ホワイトと呼ばれるような名前がついていたのなら、俺は天使や悪魔などと呼ばれる事を喜んでOKするだろう。

 きっと。

 いや、絶対。

「……まぁ、お互い落ち着こうか。ピュア・ホワイト天使君」

「俺は不二子・ダ・ライアン・ミュース・ピュア・ホワイトだ! ていうか俺は天使君じゃない俺は……」

「分かっている。凄く長い名前なのだろう? いままでに2回行ってるぞ……だからこそピュア・ホワイト天使君なのだ」

 そこで、ピュア・ホワイトは、はぁとため息をついた。

 分かっていないと。

 そう言った。

「俺は、天使君じゃなくて、天使ちゃんと呼ばれる側の人間だ」

 え。

 えぇ?

 天使……ちゃん?

「えええぇぇぇぇ??!」

「驚きすぎだ人間!」

 そりゃあ驚くだろ!

 この男の子が女の子だぜ?!

 こいつ、男子に夢や希望をつめすぎだろう!

「……ていうか、名前にちゃんと女の子らしいのがあるだろう! 不二子って!」

 ああ、本当だぁ。

 影薄いんだな、この名前で顔で不二子って。

 だって……ピュア・ホワイトって言うインパクトが隠されているんだもんな。

「そうか……女子であったか…失敬……失敬?」

 凪も頭が混乱していたようだった。

「……まぁ、お互い落ち着こうぞ。不二子・ピュア・ホワイト」

 なんともナイスな省略だった。

 この中で一番大事で、この中で一番地味な不二子と、インパクトありまくりのピュア・ホワイトを兼ね揃えた、グッドな名前だ。

 思わず親指を立ててしまった。

「おいおいおいおい! なんだよ! 俺の名前はそんなに短くないぞ!」

「いいじゃあないか、不二子・ピュア・ホワイト……ん、あれ。駄目だ。まだ長すぎるな。お前もう、あれだ。ピュア・ホワイトでいけ」

 最後にはインパクトありまくりのピュア・ホワイトを重要視したか……。

 あれ?

 ていうか、いいのかな?

 天使って敵じゃないの?

 敵とこんな漫談してて大丈夫なのかな?

「人の名前をもてあそぶな! ……もういいよ、君たち。どうせ今だって殺す為にきたようなもんだし」

 ……きれた見習い天使は、ヤケクソにそうつぶやいた。

 一瞬にして、重くてカラカラな空気が雪崩れ込んできた。

「これから裁判を始めます」

 それは、いきなりだった。

「……神は正しい。神は正義である。…神の言うことは絶対です」

 こいつ!

 目上の奴等に逆らうっていう考えは脳にインプットされてないのか?!

 ……嗚呼、そうか、こいつ天使だっけ?

 都合の悪い所は覚えてないにきまっているか。

「判決が下されました」

 ……そしてそれは突然だった。

 判定が早すぎだ。

 もうちょっと悩みやがれ。

「白星凪、無罪。即効に黒星に転生します。そして人間、佐藤隆史。判定不可により、白星凪を転生させた後、天界に連行します」

 納得いかなかった。

 無罪ならそれで終わりでいいだろう?

 ていうか、判定不可ってどういう事だよ、だからもうちょっと悩めっていっているだろうが。

 あぁ、そうだ、二審三審やろうぜ。

 勝手にもほどがある。

「天界式、天獄(てんごく)波動砲」

 何やら聞き覚えのない事を呟くと、ピュア・ホワイトの両手から、何か、天使が出すものとは思えないほどの黒々しい物が浮かびこんだのだ。

 俺はそれにぎょっとした。

 絶句。

「……おい、凪…」

「大丈夫」

 俺の焦りは虚しく、凪はこれっぽっちの焦りもなかったのだ。

 それどころかこの余裕ぶり。

 何か奥の手でもあるのだろうか?

 時を止めるのか?

 時空を超えるのか?

 ……同じもんなのか?


 そして、その次の瞬間。

 その次の瞬間というのが、ピュア・ホワイトの両手から波動砲が発射されてしまった時のことなのだが……。

 発射された事を一瞬で感じとり、凪が笑ったのだ。

 凪が笑みをみせた瞬間に、あの有名なアニメ、新世紀エヴァンゲリオンにでてくるATフィールドのようなバリアが召喚されたのだ。

 凪に向かってきた波動砲はそのバリアにぶつかり、焦点をずらして俺のすぐ真横を通り抜けていったのだ。

 時差で風が吹いた時に、俺は恐怖した。

 今のがあたったら今頃俺は何をしているのか、と。

 それと共に、感動訪れたのだ。

「すげぇ」

「なんでだ?! お前何をした!」

 ピュア・ホワイトが怒鳴った。

 感動・恐怖する俺と、激怒するピュア・ホワイト。

 そして、平然とピュア・ホワイトを睨む凪。

「何でだと? ……黙れ小童(こわっぱ)。貴様と小生では、格も地位も年でさえも小生が勝るのである。つまり、だ。貴様は小生に勝つ事は0に近い。そうだな、貴様がLV.1で、小生がLV1000という感じだろう か? この999の差はどうやっても埋める事はできまいぞ」

「……くそぅ! 俺がたかが星なんかにっ!」

 その一言で、凪の眉がぴくっとひきつったのが分かった。

「口に気をつけろ、小童。何回も言わせるでないぞ。格も地位も年でさえも小生が勝る。貴様に勝利はありえないのである。子供(がき)が。喰うてしまうぞ」

 ああ、凪。

 そんな挑発的な事を言ってしまったら、ピュア・ホワイトのような気の強い性格の奴は……、

「うるさい! 馬鹿凪! アホ星!」

 ほら食いついたー!

 しかもなんかすごい幼稚園児と小学生が言いそうな食いつき方!

「……もう駄目だ、こいつはいつまでたっても子供のままだ。…放っておこう。ほら、ピュア・ホワイトの応援が来る前に早く逃げるのだ」

「あ、うん……」

 あれ?

 と。

 俺はここら辺で話しの方向性について思う所に気づいた。

 俺は、自分の記憶がない。

 記憶喪失だから。

 つまり、俺には帰る所が分からないから、……半ば強制的に凪の手助けの為、黒星兄、銀を探す旅にでなくてはいけない状況にある?

「はは、そうふて腐れた顔するでない。少し気が進まんが、ピュア・ホワイトのおかげで、一つ記憶の手がかりが掴めたではないか」

「……?」

 記憶の手がかり?

「佐藤隆史。お前の名前だろう」

 佐藤(さとう)隆史(たかし)

「……なんか微妙だな。もっと…こう、レンとかジンとか、格好いい名前のがよかった」

「そう言うでないぞ。親が悩みに悩んでつけてくれた名前なのだろう、きっと。隆史には微妙すぎる名前なのかもしれないが、親からしたら、隆史がこの世で一番格好いい名前なのかもしれない」

「…へへ、そうかな?」

「ああ、きっと。そうであろうと願おう」

 凪に手を引かれ。

 後ろにピュア・ホワイトの怒鳴り声と睨みを感じながら、俺は照れ臭くなった。

 そして、俺は二人に言った。


「これからよろしくな凪、一応ピュア・ホワイトも。これから何度も顔を合わせるかもしれないし」

 明日から、いや、今から。

 普通の人間とは違う日常が待っている。

 襲われて、攻撃して防御して。


 それが俺の、日常になるだろう。

 そうさ、そんな日常。

 そんなんだから、人生を楽しめるのだろう。

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