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厄病神みたいな神

「うぐぅ……うむうぅ…不覚であるっ……!」

 ん?

 さすが、似ていなくても兄弟なんだな――しゃべり方はそっくりだ。あと微妙なところで傲慢な性格もそっくりだよなこいつら。

……いや、悪い意味で。

「ふぐっ……隆史といったな」

「?」

「お前を虫けらカス呼ばわりした事は謝ろう。……お前は強い…はぁ。どうだ? 某と共に行かないか? お前は特別に某と同等の地位をくれてやる」

これってもしかしてのアレらしい。

負ける前の悪あがき。

もしかして敵が情けをかけて自分を助けてくれるかもという、夢妄想。そんなことは1億分の0.01に等しいというのに、これが俗に言う――。

「見苦しい」

 大体だ。

 俺は銀みたいな化け物になりたくはないし、同等とも思われたくわない。俺からしてみればそれは最大級の侮辱。全く気付いていないようだけどな。

「そうか……ふぅ…残念だ。――一つだけ聞く。某は死ぬのであろうか?」

「俺が創造すれば、多分……死ぬ」

 一つ凪が大きくうなずくと、銀のさっきまでの重苦しい殺気が水に流されるようにどんどん小さくなっていくような気がした。そして風が一吹きすると、ドサッと降り積もった雪の上に座り込み、自分の腹に10センチ弱はありそうな爪を押し当てた。

「おい、ちょっと…何してんだよ……?」

「今からする事を、目を閉じずに見ていなさい。……絶対に、閉じてはいけぬぞ。コレは某がお前に呪いをかける呪文のようなものなのである。目を、閉じてはならぬ」

 俺に呪いをかける呪文。

 銀はそういい、俺の目の前で一気に爪をねじ込んだ。ぐりぐり、ぐりぐりと腹に爪をねじ込む。まるでドリルのように。

 だがどうだろう。顔は何故か微笑んでいた。にまぁと薄く笑窪(えくぼ)を作り、時には苦しそうな顔をした。

 奥までねじ込まれた爪は、横にノコギリのように腹を裂く。青黒い鮮血が滴り落ち、俺は吐きそうになったのだが、咄嗟に口を押さえた。

 一先ず指の手の力を緩め、ふうふうと息を整えてからまたノコギリのように原を裂く。意識を飛ばさないのが改めて人間離れしている事を俺に証明させた。

 そして、銀の身体が光を帯びた。

 これは……死ぬと言う合図? ――それとも。

 腹から爪をぬくと、するとどうだろうか。ズルッと凪の手がだらし無く落ちてきた。まるで風呂場に捨てられた火サスに出て来る殺人被害者のような感じ。

「な……ぎ」

 青い鮮血に流されるようにして、どんどん凪が出てくる。頭、胴体、股関節、太もも、膝。足がすべり落ちる時には、銀の右目辺りが光で霞んで、透けていた。

 俺にはわからない。

 何で今更こんな事をするんだ?

 自害というか、……自分をどんどん悪い方向に、死に追い込んでいる。別に俺はこんな事創造したわけでもない、したくない。

「みたか隆史。ちゃんとその目に焼き付けたか?」

「……ぅん」

「そうかそうか、……それは良かったよ」

「なんで……そんなことしたんだよ、…お前は凪や俺を殺したいんじゃないのか?」

「ふふっ……馬鹿を言うな。某は今でもお前達を殺そうとしている。それをどうだ、コノありさま。お前が想像したからだ」

「ちがうっ! 俺はそこまで想像していない!」

 そうだ、俺はそんなことは想像していない。

 銀の腹を裂いてまで凪をだすとは想像していない。ただ、銀の胃の中から凪を出すって……。

 あれ?

「銀の胃の中から凪を出す……って…」

「どうやって……某の胃の中から凪を取り出すんだ?」

「そ…れは――」

 まさか…それはもしかして。

「某がお前に知ってほしかったことだ。……お前は己の持つ力を小さく見すぎている。甘く見るでないぞ小僧。お前が創造すると確かに現実化する。……だが、ということは、人々を殺したり、世界を滅亡することだってできるのだ。お前が少しでも想像し、現実化を思うとそれはいかなる場合にも現実になる。……どういう意味かわかるかや?」

「……俺は、何も願ってはいけない……?」

「ちがう、自分を捨てるのだ。それができなければ、死んでしまえ」

「……」

 死んでしまえなんて言われたのは、生まれてきて初めての事だった。

 しっくりと身に染みて、手足が震えて脳にいつまでも響いた。悲しかった。悲しくて、俺はこれまでになく傷ついた。

「だってそうだろう? 某でこの有様だ。お前は世界を血に染めたいのか? グロテスクが好きか?」

「いや……血も嫌いだし、グロいのはもっと嫌だ」

「じゃあ、どうする?」

 死にたくはない。だからといって、自分を捨てることがどういう事かもわからない、……怖い。

――……。

「わからないのであれば、お前は某と一緒にここで朽ちよう」

 朽ちる? ここで? 10年後半も生きていないのに?

 ここで、こんなところで……対した思い出も無いこんな錆び付いた遊具の傍で? ……そんなのは嫌だ。絶対に嫌だ。

 生きたい……!

「ほぅ」

「?」

 その瞬間に、どこからか声が聞こえた。

「隆史が、やっと自分から本音を見つけたなんて……それもまた進歩。成長したね、こんな少しの間に」

「…だれ?」

 見渡しても誰一人それらしき人はいなかった。

 同じ年くらいの女の子の声。妙に脳の中を響き渡って、冷たい暴風が襲ったって声は凄く良く聞こえた。

「こんな刺激与えても記憶は戻らないかぁ……そうだよね、やっとギリギリ私と喋れるようにまで回復したんだもんね……まだまだか」

「…お前……誰だよ?」

「何時間かぶりだね、私はメリー。隆史の脳の中にいるの」

 幽霊? それとも……俺は2重人格で…そうだ、もう一人の自分(女)と話せる能力がついていたのか?!

「うーん…残念。私は幽霊ではないことはつい最近隆史によって解明されたんだし、私は君のもう一人の自分ではありません。お断り。私はそんなにへたれではないし、人生経験は君の何万倍はしているんだよ? ダイナミックじゃない勘違いはやめなさい」

 なんだこいつ……いきなり喋りだしてべらべらべらべら…悪口っていうのか、堂々とした嫌味言いやがって……。

 ていうか……俺の心ん中よんだ?!

 口にだして幽霊だとか思ってないのに?

「お前……本当だれだよ? 俺にテレパシーでも送ってんのか?!」

「私は厄病神みたいな神。よろしくね」

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