merryXmasな日
「お起き、坊や」
親ふんしたサンタクロースにプレゼントをもらったり、普通にもらったりもらわなかったり。それは人により大差がある。ちなみに俺は眼鏡ケースをもらった。別にクリスマスにもらうものでもないが、まぁ、最近眼鏡ケースが壊れたから、普通に喜んだが……。
そんな、クリスマスの晩の事だった。夜、何かがうるさい。声がするのだ、多分女。ていうか絶対女。声は高くなったり低くなったり。気になって目を覚ますと、そこにはだれもいない。
暗闇に目が慣れ、だんだんと辺りが見えるようになるが、それでも人はいない。
「誰ですか? 泥棒?」
俺は簡潔にきいた。
それでも返事は何一つない。……空耳だったか? もう一度辺りを見ても誰もいない。再度頭を枕に沈め、目を閉じた。
「坊や、何故寝るの?」
今度は、気のせいじゃないとはっきりわかった。『気のせい』が言葉を喋るわけなかったのだ。
ただ、おかしい。隣に眠る兄は、この声には気付いてなく、ちゃんとというか、一般人間の如く眠っているようだった。
「誰?」
「……」
微かに、そしてはっきりと、息の音が聞こえた。
「目が……覚めた? 恐い?」
女。
女の声だった。
「今日は、今年のクリスマスからは、全国で俺みたいな性格の奴は女の声を聞けるようになったのか。」
「ううん、君だけ。わからない? 私、人間じゃないよ?」
そりゃそうだ。
横を見ると、兄は相変わらず眠っていた。一つ溜め息を吐いて、俺は目を閉じた。
「アンタには悪いけど、今、ぜんぜん怖くない。」
「何で、私には悪いの? ……まさか、幽霊は脅かすのが職業で、自分は全然怖くないから私に同情……なんてことはないよね?」
「もしそうだったら?」
「決まってる、坊やも分かってる。呪い殺すよ、幽霊の如く……ぎゅぎゅっとね」
「ごめんなさい」
怖い。平然と、『普通人間の言わない事』を言っている女の声が怖いのだ。それが怖いだけで、別に『女の声』が怖いんじゃない。
大体、女の声は俺の事を『坊や』と呼ぶほど年上でもない、いたって普通の、そう、俺くらいの女の年の声。いつも普通に学校できいていそうな声。
「……坊や、名前は?」
「佐藤」
「下は?」
「太郎」
「本当は?」
「弘樹」
「本当は?」
「……隆史」
「そ、いたって普通の名前だね。まぁいいわ。メリークリスマス、たかし」
何がいいのか分からない。
本人には自覚がないと思うが、何故だか自分の名前を卑下されているような感じがした。
「お前、名前は?」
「ないわ。つけてくれて構わない」
「……んじゃ、メリーかクリス。普通に『幽霊』ってのでもいい」
「メリーでいい。気に入った」
コイツのセンスを疑った。
まぁ、でも自分にはなんのメリットもないわけで、受け流す。
「メリークリスマス。メリー」
強制的に、『駄洒落』を言わされているようにも思えた。