Scene03: 既知との遭遇
「さすがに飽きてきたな……」
にわか天体観測者というだけのことはあり、熱狂するのもはやいが、冷めてしまうのもまた、はやかった。
聴いていた音楽プレイリストが、アルバム一枚分の曲数を終えるころには、流れ星はもうすっかりお腹いっぱいになってしまったのである。
雰囲気を盛り上げるためだった音楽も、かえって逆効果だったかもしれない。
というのは、星を題材にした歌を選曲して詰め込んでいたのだけれど、そういう楽曲はなぜかカップルがやたらと出てくる。
別れの曲であれ、愛の告白であれ、それを、相手もいずにひとりぼっちで空を見上げながら聴いていると、青春の質の違いをガツンと味わわさせられているような気持ちになり、言い知れぬ切なさが込み上げてきて堪らないのだ。
星の曲といえばコレと思って入れていた、坂本九さんの『見上げてごらん夜の星を』が流れ始めると、いよいよ胸はギュッと締めつけられ、なんで俺はひとりで星なんか見てるのだろう、という要らない邪念が去来しだし、星ではなく涙が流れてしまいそうになる。
「……ここらへんで切り上げておこう」
と、再生を止め、音楽プレーヤーをしまい込んだ。
アルバム一枚分の曲数を聴いたので、現在の時刻は夜10時頃だろう。
吐き出す息の白さに、忘れていた寒さがぶり返してくる。
気がつけば、手袋付きの両手はポケットに入れていたはずなのにかじかんでおり、投げ出している脚を動かすと生地の冷たさが直に伝わってくる。
靴下の足先も、じんじんしていた。
「はやいとこ部屋に入って暖まるか」
鼻をすすり、上体を起して中腰にかわる。
部屋に向かって一歩踏み出した、そのとき、
「おわっ!?」
着地させた右足の裏が……滑った。
体のバランスが崩れ、段を踏み外したように屋根の下側にずりさがる。
大慌てで両手を着き、軸足を踏ん張らせてなんとか持ちこたえた。
「えぇっ? なんで滑った今?」
わけがわからず、心拍数の跳ね上がった俺は、ストーンを投げ終えたカーリング選手のような姿勢のまま混乱する。
一時間前に部屋から出たとき、屋根の状態はしっかり確認していた。
完全に乾いていたのである。
それにもかかわらず、滑るだなんて……。
「……あっ」
首を巡らせてたあと、状況を把握する。
黒いはずの屋根が、一面にわたり、薄っすらと白くコーティングされていた。
ダイヤモンドを粉々に砕いて敷き詰めたように、星明かりをキラキラと反射させている。
その化粧を指でぬぐえば、結集した氷の粉末が手袋の毛先にまとわりつく。
「マジかよ……霜が降りてんじゃん」