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夕焼けの売り子

作者: 藤夏燦

 太陽と月は偉大だけど、昔は喧嘩ばかりしていた。同じ空に現れてはお互いに天に昇ろうとするので、見かねた神様が、昼は太陽の時間、夜は月の時間だと決めた。

 しかし「昼と夜の間」をどうするのか? という新しい問題が生まれた。急に夜から昼に変わってしまっては地上が大混乱に陥ってしまう。

 そこで神様は空売りの少女に助けを求めた。「前にいただいた昼と夜のほかに、中間の空もいただけないでしょうか?」と。

「そんなものはないですよ」

と少女は言った。

「この世には明るい昼と暗い夜以外ないのです。雨と雪というオプションはありますが、毎回昼と夜の間が雨や雪では、地上は疲れ果ててしまうでしょう」

「そこをなんとか。頼む」

 神様は両手をすり合わせて空売りに頼み込む。

「わかりました。少々面倒ですが、空を仕入れて参ります」

 そう言って空売りは神様の元から去った。はるか遠く、宇宙の果てになら、まだ知らない空が眠っている気がした。

 幾多の色に輝く星雲が見えた。しかしあまりにも色彩が豊富なので、太陽と月が嫉妬してしまいそうだ。続けて漆黒のブラックホールが姿を現した。これは逆に黒すぎて地上が困ってしまう。次に出てきたのは緑色のカーテンのようなガスの幕だった。これは色彩も程よく、美しい。売り子の少女はこの空を包みこむと、風呂敷の中へ収めた。

 しかし風呂敷に入れた途端、ガスの幕が崩れる。なるほど、この空は美しいが不安定でオプションにしか使えないな。と少女は思った。これはのちにオーロラとなった。

 最後に少女が行き着いたのは、宇宙の果ての燃える岸辺だった。ここでは役目を終えた命たちが全宇宙から集まり、光にかわっている。

 赤から橙に転じ、紫へと変化するその色の、なんと美しいことか。空売りは慎重に風呂敷にその空をいれた。また崩れたりしないよね。恐る恐る風呂敷を開くと、空の形はまったく変わらず原型をとどめている。なんて強い空だろう。

 空売りの少女は神様の元へ帰り、この空を献上した。神様は少女に

「これはどこの空か?」

と聞いた。

「宇宙の果ての空です。しかしこの色はどこにでもあります。命が燃えて光に変わるとき、みなこの色を出すのです。それは死であり、生でもあります」

「素晴らしい。まさに始まりと終わりを繰り返す、昼と夜の間に相応しい。でかしたぞ、空売りよ」

 神様はこの空をたいそう気に入り、昼と夜の間に取り付けた。それは今日、朝焼けとも夕焼けとも言われている。


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