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信じる者は

 


 神様は本当にいるらしい。

 らしい、と言うか今目の前にいる。


 頭がおかしくなったか、夢を見てるわけではないのであれば、と言う但し書きがつくが。


 私の記憶と神様と名乗る存在の言葉通りなら、私は死んだ。

 

 幸せは突然に終わりを告げた。

 帰宅途中に不審者に滅多刺しにされるという最悪の末路だ。


 


 神様は私が毎日、お賽銭もお供物もせずに一方的なお願いをしつづけてた祠の神様だと告げた。

 

 本当に存在すると知ってしまうと、対価もなく一方的に手を合わせてたのが申し訳なくなる。

 

 勝手にお願いをしてたのだから、願いが叶えられず無事に過ごせなくても仕方がない。

 むしろ最期以外は概ね穏やかだったのだから、比較的願いを叶えてもらえたと感謝した方がいいのだろうか。


「感謝なんてしなくていい。願いを叶えた事はないからね」


 え、とつい声が漏れそうになる。

 願い叶えてくれてなかったらしい。

 

「この世界では渡りの神だからね。渡すためにあるんだよ」


 何の話をされてるのか分からない。

 そもそもなんで私はここにいるんだろう。


「ふふ、ゆっくり理解してけばいいさ」


 なんとも穏やかそうな声色である。

 目の前にいるのに姿が認識できないのも不思議でならないが、神様なのだからきっと人間には分からないことも沢山あるんだろう。


「世界はね、いくつも存在しているんだ。その内の一つが君がいた世界。そこで他の世界へと様々なものを渡すためにあるのが、渡りの神なんだ」


「もっとも世界によって役割が変わるけれど、君がいた世界では渡しの役割をしているんだ」


「あの祠は元々あの辺りで交通事故で亡くなる者のためにあったもので、魂を渡すのにちょうど良かったから依代にしてたんだよ。そこは本当によく渡しやすい魂が集まってたからね」


「それなのに君ったら、自分の無事を毎日祈ってるから可愛くてね。他の人間は亡くなった魂への祈りを捧げにきてたのにさ。」


 申し訳なさと恥ずかしさでいっぱいになる。

 誰も祠のできた由来なんて教えてくれなかったから、てっきり神様を祀ってると思って図々しくも自分の無事を祈っていただけで、教えてもらえてればしていなかったのに。


「気にしなくていいよ、君の祈りは力となっていたんだから。存在を認識されるというのは大事な事でね、そこに存在があるからこそ、その場で力が使いやすくなるんだ。存在しない場で力を使うっていうのは大変な事だからね」


 なんだか難しい話になっているけれど、罰当たりとかで罵られないのならよかった。


「だからね、君にお礼をしようと思って呼んだ」


 お礼とはなんだろう。

 神様のお礼で思いつくのは昔話とかしかない。

 食料だったり豊かさに繋がるものくれるイメージだ。


「お礼というよりお願いに近いけれど、あながち間違いではないよ」


 え、お願いとお礼って全然違うと思うのだけれど神様の中だとイコールになるのだろうか。

 なんというか神様というより悪い人達みたいなやり方だな。


「ふふ、ひどいな。ちゃんとお礼も兼ねてるさ。この世界ではないけれど君に永遠の豊かさをあげるよ。その代わりに君には世界の為にあり続けてほしいんだ」


 頭の出来が良い方ではない自覚があったけれど、ここまで話が理解できないとなるともしかしたら良い方ではないどころか、だいぶ悪い部類だったのかもしれない。


「可哀想に、混乱してるんだね」


「つまりね、違う世界で永遠の豊かさをあげる代わりに死なない存在になってほしいんだ」


 不死身ってことなのだろうか。

 死なないっていうのは魅力的に聞こえるけど、だいぶ辛いんじゃないだろうか。

 

 ひいおばあちゃんも私の存命中「長生きはある程度でいいのよ、それ以上は呪いよ。みんな私を置いていくんだもの」と悲しそうに言ってたし、辛いんじゃなかろうか。

 

 ああ、そういえば私も置いていった側になるのか。

 あんなに「私は絶対置いていかないよ」なんて約束したのに、また置いていかれたと悲しませることになってしまっただろうか。

 簡単に死んでしまうよりいいかもしれないけれど、やっぱり生き続けるのは辛いことなんじゃないか。


「そうかもしれないね。君たち命あるものは生きたがるけれど、孤独には弱いからね。でも大丈夫だよ、君と同じ役割がその世界にはいくつかあるからね」


 なら大丈夫なのかな。

 いや大丈夫なのか?このまま分かりました、やります。とか言っていいのか。

 もう全くどうするのがいいのかわからない。


「ふふ、大丈夫さ。君は世界の理に少し触れることができるようになるから何も心配はいらないよ。君の願いはある程度叶えられるし、豊かさと永遠の命も手に入るのだから安心して」


 もう少し説明を聞こうとした瞬間、急に眠気が襲ってきて意識が薄れ始めた。

 

 何が起きてるのか終始分からない状況だったが、このまま眠ってはいけないと第六感が訴えていたのに抗うことが出来ずに眠ってしまった。


「ああ、時間だ。もう少し君とお話ししたかったけれど、仕方ないや。もう決めてたことだしね。それじゃあ行ってらっしゃい、また機会があればね」


 最後に見たのは優しげな光だった。

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