9. 図書室の秘密
隠し通路は迷路になっている。それはわかっている。階下へ安全にたどり着くにはかなりの遠回りが必要だし、進めば進むほどに嫌な気配は色濃くなっていく。この圧迫感に耐えられなかったのかクラウドが移動を始めたのが黒人形の信号で分かった。思わず舌打ちをしてしまいそうになるのを堪えて進む。
「ロイド、顔が怖いわよ。彼を威圧してもいい事はないわ」
「え?あ、ごめんねコタローくん」
「あっす、すみませんっ」
ソニアに肩を叩かれて助言を受ける。振り返ればコタローくんが怯えていた。同時に照明魔法の光がゆらめく。確かに、無意識とはいえ鋭い空気を纏ってしまったのは事実だった。威圧となり、彼を萎縮させてしまったら魔法の良し悪しに影響が出る。僕ほど優秀になると自分の機嫌で魔法の出来は誤差の範囲だが、全生徒がそんなことできるわけがない。というよりも僕は“黒”持ちだから魔法に長けていなければ困るのだから。
「そうだわ、おしゃべりしましょう!好きなものを答えていくの。いい案でしょう?」
ぱん、と空気を変えるように彼女は手を叩いた。
「私がお題を出すからそれについて話すの。よくカティやケイト……あ、私のチームメイトなんだけど、彼女達とするのよ。授業の合間とか、怖いことがあったりとかするとね」
「たしかに、お話してた方が気が紛れるかも」
「い、いと、思う……です」
「それじゃあ……はじめのお題は好きなお茶菓子について!」
弾んだ声で彼女は話し出す。ルルドのような気配りが出来る彼女はやはり、ルルドと同じく隣のクラスの人気者だ。彼女達が生徒の中心になるのはその美貌だけではなく、その性格の良さもあるのだろう。美貌でいうならクラウドの顔は学年一と云ってもいいくらいに良いのだ。顔だけは。彼の周りに人が寄り付かないのは魔力制御ができないだけじゃなく、口の悪さと性格のせいもあるだろう。
「私は苺のタルトが好きよ。あの甘酸っぱさがたまらない!あなた……えぇと、コジローくん?」
「あ、コタロー・サカノシタ、です!黄の国、出身……で……」
「コタローくんね。ソニア・W・イオンよ。青の国出身。黄の国ってどんなお菓子があるの?」
「あ、ね、練り切りとか……?」
「ネリキリ?」
コタローくんの話すお菓子は不思議なものだった。砂糖とは違う甘味で、アズキという豆を潰したをこしたモノをアンコと呼ぶらしい。そのアンコに色をつけて、色とりどりの花を表したりする季節のお菓子がネリキリだというらしい。さらにはヨーカンというそのアンコをゼリーのように固めた物もあるらしく、緑茶と一緒に嗜むようだ。
「一回食べてみたいわ」
「あ、じゃあ、明日……渡す、ね?実家、来る……荷物」
「ありがとう!カティとケイトにも言って……そうだわ!お茶会にコタローくんを招くわね!今週末にパーティをするの」
「え、えぇ!?ぼく、チーム、違う」
「そんな些細なこと二人とも気にしないわ!なんなら噂の問題児くんと来ても良いし、ロイドと一緒でもいい」
「え、えと……」
助けを求めるように僕を見るコタローくんに声を上げて笑ってしまった。仲良く談笑する彼らの様子に触発されて、僕も聞いているだけで面白いし、クラウドが問題児扱いで愉快だった。確かに問題児だ。くすくすと笑いを噛み殺し、「行くと良いと思うよ。他チームとの交流は推奨されているしね。でもクラウドよりルルドを連れていくといい」と助言をする。
クラウドは見目は綺麗だけど魔力制御出来てないし、この間は何があったかわからないが女生徒に呼び出されて(たぶん告白だろう)感情が制御できずに雷を落とした。もちろんチームの連帯責任で僕とルルドも怒られた。そんなクラウドと一緒に行くよりも、お茶会とか慣れてて、女子との関わりもそこそこあるルルドの方が適任だ。
「ロイドは何が好きなの?」
「僕はあまり甘いものを好まなくてね……紅茶より珈琲のが好きだし、お菓子も……食べないなぁ」
「本当に貴方見た目を裏切っていくわね。甘いもの好きそうなのに。プレゼントされたらどうするの?」
「好まないだけで食べられない訳じゃないから少量なら食べるよ。あまりにくどいとルルドに食べてもらうだろうけど……」
何度も思うが、僕は優しそうな見た目をしているし甘いものが好きそうとよく言われる。だから本当に、コタローくんに怯えられるのが理解できない。怖くないのになぁ。
「じゃあロイドは何をもらうと嬉しいの?」
「うーん……ゼリーとか?フルーツタルトとかは甘さ控えめだから好きかも」
「お茶会向きのお菓子ね」
「そもそもお菓子くれるの先生かルルドぐらいだよ」
クラウドやルルドと違ってモテるわけではないから。前に女生徒に呼び出された時期待して行ったら僕ではなくルルドに渡してほしいという物だった。クラウド宛の物も受け取ったことがある。
ルルドはそういう貰ったお菓子を分けてくれることもあるけど僕は甘いの苦手だからほとんど断っている。
「二人のチームのルルドくん、私もよく交流するけど彼はチョコクッキーが好きよね。女子の噂になってるけど、ジャムのクッキーよりチョコクッキーの方が好感触だって」
「確かにルルド、チョコレート系のお菓子の方が好きみたいだね。チョコレートは高価だけど僕らのお茶会でも頼んでるのを見るなぁ」
チームごとに交流会としてお茶会が行われていることがある。任意で、だが。ルルドは僕とクラウドの仲を良くするために開いていてくれていた。最近はルルドが植物園関係で忙しいのでコタローくん歓迎会以来開かれていない。僕はそこでは珈琲しか飲まないが、ルルドはよくチョコレートケーキやフォンダンショコラ等を頼んで食べていた。でもそれは二皿目。
「一番好きなのはアップルパイみたいだよ。お茶会も、学食も、デザートの一皿目はルルドは必ずアップルパイを食べてる」
「あら、それはいい情報を貰ったわ」
ニコリと彼女は笑った。多分次のプレゼントはアップルパイが多くなるだろう。
「コタローくんはこっちの国のお菓子は口にあった?」
「あ……シフォンケーキ?美味しい、です……でも……その、ほかのケーキ、甘すぎ、て……」
「あれ、コタローくんも僕と同じ甘いの苦手だっけ?でも珈琲は苦手そうだったなぁ」
「黄の国……どの料理も、薄味、だから……」
「あら……そうなのね。じゃあ今週末のお茶会はすこし薄めのケーキを注文しようかしら」
ソニアがそう提案するとコタローくんは申し訳なさそうに謝った。単純に彼に謝り癖がついているのかもしれない。そんなコタローくんの肩を叩いてソニアは「違うわ。こういうときは“ありがとう”って言うのよ」とウィンクをした。彼は素直にソニアにお礼を言っていた。
「噂の問題児くんは何が好きなの?」
「あの……問題児……?」
コタローくんは問題児かクラウドの事だとわからないようで、教えると吃驚していた。
「僕はよく知らないなぁ。茶会では何も食べずにいるし」
「え……と、甘いの、好き、みたい?」
「そうなんだ」
「なんでロイドはよく彼と一緒にいるのに知らないのよ」
「クラウドと一緒にいるのは魔法の練習に付き合ってるからでプライベートまで一緒にいるわけじゃないよ」
放課後や朝にクラウドの魔法を見るために一緒にいるが、仲が良いとはお世話にも言えないだろう。今朝も、さっきだって煽り合いに罵り合いだった。プライベートは僕よりもコタローくんやクラウドの同室者と一緒にいる方が多い。
コタローくんを見ると彼はええと、と言って話し出す。
「ヴィンセントくんは……よく甘い物、食べてる……。ぼく、実家の荷物、ゲオルグくんとヴィンセントくん、三人で食べる……。殆ど、ヴィンセントくん食べる……から」
ゲオルグというのは恐らく赤髪の、クラウドの同室者の生徒だろう。コタローくんの話を聞くとクラウドはコタローくんの持ってきたお菓子を一人で食べているようだった。そういえばもらったお菓子も一人で全て食べていたな。欲しいとは思わないし貰っても困るだけだが、僕に分けようとした事は一度もない。コタローくんも分けてもらった事は無いみたいだった。
「ヴィンセントくん……甘いもの、好き、で……全部、美味しく食べる、から……好み、わからない」
「ありがとう。それだけでも有益な情報だわ。問題児くんとルルドくん、女子に人気だから些細なことでも嬉しいの」
「あ、役に立てた……良かった……?」
「えぇ!すっごく!じゃあ次は……好きな本について!」
二人と会話を楽しんでいると、クラウドが落ちたらしいところに着く。案の定、クラウドはそこに居なかった。入り口があるだろう上を見上げると坂のようになっているようで転がり落ちただけで大きな怪我はしてなさそうだ。急勾配になっているから一人で登ることも出来なかったのだろう。
此処も植物園と同じで長らく人が入った様子もなく、魔素の乱れを辿りやすい。さらに今回はクラウドに僕の魔法で出来た黒人形をつけているから追いやすかった。
ため息を一つ吐いて、クラウドを追う。嫌な雰囲気は此処から近い場所にある気がするから、クラウドもずっと留まるのは不安だったのだろう。上に一人残しておくべきだったな、と三人で迎えに来たことを後悔した。
「ロイドさん、ヴィンセントくん……あっちに?」
「そうみたい」
「ロイド、さっきはわからなかったけど嫌な気配がするわ」
知ってる、と言いかけて頷くだけに留めた。入った瞬間からわかったのは魔素経由だからだと気付いたからだ。その魔素の色は“黒”。ルルドとクラウドにはバレているが彼らにはバレてないから黙っておくことにする。
クラウドが右往左往と迷っているようで魔素の乱れがひどい。早めに迎えにいかなければいけないな。ああ、これならさっさと彼に魔素の動きや乱れを察知する訓練を積ませておくんだった。
幸いにもクラウドはあまり遠くには行っていない様ですぐに追いつくことが出来た。クラウドの手には本が数冊抱えられており、まさか図書室から持って来たまま落ちたのかと思った。
「ロイド、これなんて書いてあるんだ?」
「はぁ?」
ずい、と差し出された本は酷く老朽が進んでいてページを開こうとしたら崩れてしまいそうな本だった。念のため魔力を流すが紙魚は落ちない。表紙に書かれた文字は古語。
受けとると、触れただけで背筋が凍る様な奇妙な感覚に陥る。恐る恐る開くと中はかすれたインクで手書きの文字。ざっと目を通しただけで視界が歪んで吐き気がした。本を閉じた瞬間に足に力が入らずにその場に崩れ落ちる。
「ロイド!?」
「大丈夫です!?」
「あ、うん、大丈夫……」
見てはいけないモノというものは存在する。悪魔を召喚する本だとか、自分の血で恨み辛みを書き綴った日記だとか。黙示録もそう。予言じみたそれらは人智を超えたモノだから人間は触れてはいけない。こういうのを触れるのは最も神に近い亜族、竜族だけだ。あの一族は呪いが通じないらしいと最近グラディアス先生に説明を受けた。
ぐらぐらと歪む視界で黒魔法で封印の魔法をかける。“黒”は閉鎖に長けているから僕の使える魔法の中でも最も強い封鎖魔法だ。
「アーチャー、大丈夫か?コレはいったいなんなんだ?」
「なんで君はこんなの持って平気だったのさ……可笑しいんじゃないの」
コタローくんとソニアに支えられて立ち上がるとまだ少し目眩がした。これを持っていて平気なクラウドも可笑しいし、こんなことを考えついた作者も可笑しい。
「手帳だよ」
「レシピ?」
「なぁに、君、魔法使いなのに手帳も持ってないの?あぁ、まだ必要ないのか。一先ずこれ持ってくれない?僕には荷が重すぎる。どうして君がこんなの持ってて平気なのか本当にわかんない!」
半ば押し付ける様にクラウドに本を渡す。疑問を浮かべる彼に手帳の説明をする。
手帳は自分の習った魔法を書き記したり、新たに作りだした魔法を記す論文制作のメモ帳だ。日記がわりにする人もいるし、一般的に本人以外には読み解けない様に暗号を組み込んだり特定の魔法を使わなければいけなかったりと工夫がしてある。
この本はそんな工夫も何もない、ただ古語で書かれただけの物だった。そもそもこんなの、普通の精神をした人は読まない。
「中は一体何が書いてあったんだ?」
「前に君が言ってた“禁じられた魔法”が書いてあったよ。ざっと目を通しただけでね」
この手帳、僕が見た真ん中のページだけで読めた単語は“人間の処女の血”“人魚の肝”などロクでもない単語が書かれていたし、図にしてあった魔法陣は“黒”と“白”がごちゃまぜになった魔法式が組み込まれた。相反する二つの魔法色をつかい、生死の……この世の理を歪めようとしていたのがわかった。しかもタチが悪いのは空欄に走り書きされた古語ではない、僕らが日常的に使う言語で書かれたメモ。“リリアム 白、アリス 黒、セルギス 黒……”とおそらく当時の生徒の名前とその魔法色が書かれていたこと。この手帳の持ち主は自分でこの魔法を展開させることができないのか、しなかっただけか、他生徒にやらせようとしていたらしい。反吐がでる。
「他のその本も手帳と似たようなモノだったりするの?」
「いや、こっちの本は……」
クラウドが持っていた別の本を指差すとクラウドはその本に向けて魔力を流した。ついさっきまでできなかったのに上手くなってるな、と感心できたのは一瞬。今まで紙魚が落ちても数匹だったのにその本からはぼたぼたと流れ落ちる。
「紙魚の拠点じゃない!でかしたわね!」
ソニアが歓声を上げる。僕らが探していた紙魚の拠点となっていた本が見つかったのだ。
「一体どこにあったの?ちょっと封じの魔法かけるから貸して」
「ああ。俺が落ちたところから少し進んだ……アソコだ」
青魔法で封じの魔法をかけながら眉を潜める。クラウドの指差した先の壁を触れば窪みがいくつもある。同じ隠し扉であることはすぐに分かった。回路を辿りながら鍵を開けていくと、先ほどのように扉が開く。開いた先は地質学のコーナーだった。近くに生徒が数名居るので拠点となっている本を渡し、先生を呼んでくるように頼んだ。そのまま僕は三人を連れて隠し通路へ戻る。
「ロイド、さん?何故?」
「どうしたのよ」
「クラウド、聞きたいんだけど。あっち側って行った?」
「あぁ?なんだよ急に。行ってねぇと思うけど」
クラウドの言葉を聞いて憶測が確信に変わる。彼の言葉にソニアが「え?行ったんじゃないの?だって魔素の乱れがあるわよ」と反応を返した。
そう。クラウドの行っていないというのに、魔素の乱れがあるのだ。
「この隠し扉、最近開けた形跡がある。僕以外でね」
ぱちり、とソニアが瞬きをした。
「紙魚の拠点を態々隠し通路に置いた奴がいるのね。そして、隠し通路を伝って移動をした。紙魚の拠点はあの一冊じゃないかもしれない」
「そういうこと。僕らは魔素の乱れを辿って来たからクラウドが迷っているんだと思った」
「俺はずっと右手を壁に当てて進んでいたが?同じ道は通ってない筈だ」
「だろうね。よく見れば魔素の乱れがあっちの方が古い」
もっと早く気付けば良かった。僕が開けられたなら、この仕組みに気がついた誰かが開ける可能性があるってことを。
「クラウド、その手帳どこで拾ったの?僕らと合流する前に随分歩き回っていたみたいだったけど」
「向こう側に部屋があるんだよ。その部屋が行き止まりで元来た道に戻ってたんだ」
「案内して」
クラウドについていくと確かに、小さな部屋があった。ベッドと机、本棚。ついて早々にみんなに「紙魚の駆除作業をして」と言う。少ない本に魔力を流せば数匹ずつ紙魚が落ち、比較的新しい本が拠点となっていた。
「この本、廃棄図書だわ。一年に一度古い本を廃棄して新しい本を迎え入れるイベントで、廃棄図書は気に入ったものがあれば生徒教師問わず無料で持って帰れる……」
「あ、ぼく、も……本、ほしい……だから、それ、イベント知ってる」
生徒手帳の年間スケジュールに載っているイベントの一つだ。廃棄図書は背表紙に書かれた識別番号を塗りつぶし、識別魔法を壊されているのが特徴だ。
「どうして態々……ここに紙魚の拠点を置いたのかしら」
「あの、多分……隠す……ここの本の中身」
「僕もそう思ってた。隠蔽しようとしたんだよ、この部屋の本を。紙魚は進行すると白紙の本になるからね」
クラウドの持ってきた手帳は暗号が無かった訳ではない。暗号を紙魚に食べられて偶然にも解読状態になってしまったものだ。本の中身を改変した紙魚は次の本へと移るから魔力を流しても紙魚は落ちない。居なくなっていたから。紙魚はインクより魔法や魔力の方を好む。だから文字を食べるのは美味しいらしい魔力を全て食べ切ってからになる。
ここに入った誰かがどんな意図で紙魚を繁殖させたのかはわからないし、一体何をしようとしていたのかもわからないけれど……まずいものを見てしまったことだけはわかる。ここらにある本は全て“禁じられた魔法”に関連している。通路に入った時から感じている嫌な予感も、“誰か”が意図的に起こしただろうことも想像に難くない。
「クラウド、その手帳戻さないで。あとで読み解くから」
「え?あぁ」
“誰か”が手帳を持って帰らなかったのはこの“呪い”のようなものに対抗できるだけの魔力が無かったからだろう。だが、中身を見ていない可能性は低い。
「あのっ!ロイドさんっ!」
悩んでいると突然コタローくんが声を上げる。
「な、何か……泣いてる!近い場所、何かが!」
ぴり、と僕らに緊張が走った。僕とソニアが察知できないということは青などの寒色魔法型ではないということだ。黄、赤、橙、白の四色は暖色魔法型で、緑、青、紫、黒の四色は寒色魔法型とわけられている。(白と黒は無彩色だがざっくりとわけられてそう呼ばれている)
クラウドも見るとコタローに対して「さっきからする耳鳴りみたいなのはそういうことだったのか」と合点がいったようだった。まだ魔力の扱いが拙いクラウドは耳鳴りぐらいにしか聞こえていないらしかった。
「コタローくん、その泣き声は僕らに危害を加えそう?」
「え……?いえ、違う……。すごい、かなしい……?泣き声」
「ありがとう」
危害を加える事は無さそうだったのでクラウドにも魔力の流れを辿る練習になると思った。魔素の乱れも後で教えておきたいな。
「クラウド、紙魚処理ぐらいに“黄”の魔力を開いてみて。丁度良いから魔力の探知を教えてあげる」
「あぁ……わかった。…………これくらいか?」
「ちょっと開き過ぎだけどまぁ及第点。慣れると魔力の探知は癖でわかるけど……まぁ周りを見るような感じで魔力を魔素に結びつけてみて」
魔式図に表すなら自分の魔力に探知というコマンドを入力し、線を周りの魔素に繋げる様に書くのが魔素を使った探索だ。繋げる魔素も沢山の魔素同士がもともと結びついている物を探さないと無駄になってしまう。
「結びつける魔素はなるべく大きいのを選んで。じゃないと無駄に魔力を消費するだけだから」
「なんで大きい奴なんだ?」
「わからない?大きい魔素は他の魔素と繋がってるから連鎖的に探ることができるの。頭働かせてよね」
「ロイド、貴方そんな鋭い口調もするのね」
意外、とソニアに驚かれる。クラウドがあまりにも知らなすぎるからだよ。普段はこんな話し方しない、と心の中で呟いてまぁね、とだけ返事をした。
「で、クラウドわかった?」
「うーん……」
渋い顔をして唸っているクラウドの魔力を辿ると見事に小さな魔素しか繋げてなかった。
「ヴィンセントくん、これ、に……繋げる、?」
コタローくんが比較的大きめの魔素を掌に乗せてクラウドに差し出す。クラウドがお礼を言ってその魔素に魔力回路を繋げると「あ!」と声を上げた。
なるほど、取捨選択がうまく出来ない……つまるところ、不器用なんだな。魔素の探知はもう少し経験積ませなきゃなぁ。
「二年に上がるまでに君一人で何とかなるようにしておきたいね。……で、何がわかった?」
「何とかなる様に教えるのね。本当に仲良いわね」
「どこが」
チームとしての義務だよ。と言えば彼女は微笑ましげに僕らを眺める。よく見て?性格も纏う魔素も相性最悪なの。
話を戻す様に咳払いをしてクラウドに顎で聞けば探り探りの情報を伝えてくれる。
「……でかい、獣?合成獣か。それが複数。これは……檻か?」
「え、ヴィンセントくん、よく、わかるね……?ぼく、探知、出来ない。そこまで……」
元々の素質は良いのか。魔素とクラウドの魔力は相性がすこぶる良いらしい。あとは訓練と経験さえ積めば僕の次ぐらいまで探知は上達しそうだ。
「魔素は辿れる?足りなかったら出力する魔力を少しずつ開いて流れを辿ってみて」
「ああ……こっちだ」
僕らはクラウドを先頭にその“泣き声”の元に向かった。