39. 小さな魔法使いの大きな夢
ガタガタと揺れる馬車に乗る。僕はベタつく潮風の匂いに故郷が近いことがわかり笑みを浮かべた。向かい側で顔色の悪い友人と先輩は見ないふりをして。
「お前、よくこんな乗り心地の悪い馬車に乗れるな」
「ロイドくん、次バーグ町だよね……?一回降りない?」
「バーグ町で乗り換えですよ」
夏休み。ヴィンセントとハーディ先輩と共に僕はリトルバーグへ帰ることにした。仮にも聖女と伯爵家の息子であるヴィンセントと侯爵家のハーディ先輩は余程乗り心地の良い馬車に乗ってきたのだろう。ひどく顔色が悪い。庶民の馬車なんてこんなものだし、田舎の道が整備されてるとは思わないでよね。
白の国は街道が全て石畳に整備され、乗合馬車も観光客や富裕層が乗るからか上等な物だった。
対するこの田舎道は整備されていない土道だし、揺れ軽減の魔法も付与されていない馬車しか借りれない。
馬車から降りてすぐにフラフラと水路の近くで倒れる二人をあおいで風を送る。ハーディ先輩の短く切り揃えられた髪が靡いた。
次の馬車を逃すと2時間後で、歩いた方が早くなってしまう。急がないと、とぐったりしている二人を急かすとサッと顔色を変えた。
「歩こう!ほら!最近運動不足だったし!」
「歩いたほうが良いって!荷物だってお前の魔法箱のおかげで手ぶらだし!」
「僕は歩きたく無いけど?」
「俺たちは馬車に乗りたくねえんだよ!」
なんというわがまま。これでもここに来るまでの馬車は普段の僕からすれば二段階くらいいい馬車に乗ったのに。次の馬車は乗り合いしかない、さっきの馬車より揺れるよ、なんて言ったのが悪かったのか。
「突然“明日ちょっと出かけようよ”とか行って来たと思ったらまさか国外まで連れ出されるとは思わなかった!」
「二つ返事で場所も聞かずに了承したヴィンセントが悪いよ。一応一週間くらい予定が空いてるか聞いたでしょ?」
「ふざけんな!」
ヴィンセントの嘆きを横に流し僕は二人に向き直る。
「馬車なら三十分。歩くと2時間。しかも山道」
「歩こう!ボク歩けるよ!」
「歩こう!2時間なんてすぐだ!」
「僕は歩きたく無いけど?」
「ボク達は馬車に乗りたくないんだよ!」
堂々巡りだ。2対1。どうやって説き伏せよう。
「船旅は最悪、青の国に入ってからも馬車の乗り心地は悪い。これでも耐えた方なんだが!」
「たった二日でそんなに?」
「ロイドくん。ヴィンセントくんのために帰りはポータルで帰ってあげて?」
「嫌ですよ勿体無い。貴族の先輩達と違って僕は庶民なんですから」
「お前の分の通行証買うから頼む……!」
そんな切実な顔で言う?ヴィンセントが奢ってくれるならまぁいいか。
青の国と学園は近い。船旅一日半、馬車旅半日だ。船に至っては夜通し進むのでほとんど寝て過ごせるというのに。
結局、僕が折れてリトルバーグへの山道を歩いている。本当は午前中につきたかったけれど、この分では正午を回るだろう。問題は僕の体力の無さだった。
「うぇ、」
「大丈夫かい?」
だらしがないぞと言わんばかりにこちらを見てくるヴィンセント。君たち亜族と人族を一緒にしないで欲しいな!こっちは巨大な魔力で体力が無いの!まだ山道の途中。四分の一も進んで無い。ずっと上り坂でしんどい。
「僕だけ町に戻って馬車で来て良い……?」
「誰が道案内するんだよ!」
このまま真っ直ぐだから大丈夫だよ!ハーディ先輩が地図を見ているけど無駄だよ。地図に無い道だからね。ぎゃあぎゃあと喚く僕らに、バーグ村から来たらしい馬車が近付いた。おかしいな。この時間に馬車は通らない筈だけど。
「魔法使いさま。そちらには何もありませんよ」
「リトルバーグへ行きたいのですが、一人が体調を崩しまして」
ハーディ先輩が御者さんに声をかけている。
「あの馬車に僕だけ乗せてもらって良い?」
「誰が道案内すんだよ!」
じゃあみんなで乗ろうよ!そう提案すれば露骨に嫌そうな顔をされた。御者さんが乗せてくれるとは限らないけど良いじゃん。
「魔法使いさまが行くような場所ではありません。何用かはわかりませんが、お引き返しください。そうだ、バーグ町へ送りましょうか?」
冗談じゃない!ここまで来たのに!僕はヴィンセントを押し除けて御者さんへ駆け寄った。
「リトルバーグへ行きたいんです。お願いします!僕だけでも乗せてください!この二人は良いので!」
「ふざけんなよロイド!」
「ボクらを遭難させるつもり!?」
「元はと言えば君たちが馬車を嫌がったんじゃ無いか!僕は歩くのは嫌だって言ったのに!せいぜい満足するまで歩くんだね!リトルバーグへは一本道だから大丈夫!」
二人に吐き捨て、僕は御者さんの裾を掴んで懇願する。もう嫌だ!歩きたく無いんだよ僕は!御者さんは目深に被った帽子の下で驚いた顔をした気がした。認識阻害か何かが刻まれているのか顔は不明瞭だ。
「僕だけでもお願いします!」
「……リトルバーグ村ですよね。後ろのお二人もお乗りください。丁度私もリトルバーグへ帰る予定でしたから。それから、ロイド」
名前を呼ばれて驚いた。御者さんは帽子を取り、金色の髪を日に輝かせて笑った。認識阻害が付与された帽子は子供が編んだ物のように拙い。否、事実それは子供だった兄が編み、僕が付与を刻んだのだ。僕はその人物の笑みを見て、「あ」と声を漏らした。
「自分一人だけ楽しようとしない!後ろのお二人はお友達だろ?俺はそんな風にお前を育てたつもりはないぞ!他生物を煽る発言はやめろと言っただろ!まだ治ってなかったのか!?」
「やめて父さん!小言は家で聞くから先に感動の再会をさせてよ!」
僕の叫びを無視してひょいと僕を抱き上げて御者台に座らせた父さんはハーディ先輩達に「荷台でも良いでしょうか」と声をかけていた。
父さんが馬車を走らせてからしばらく、僕らは無言だった。しかし後ろでハーディ先輩が堪えられないと言わんばかりに声を出す。
「ヴィンセントくん」
「多分思ってること一緒です。ロイドと笑い方そっくりでしたね」
「ロイドくんの性格悪そうな笑顔って自前だと思っていたけど違うんだね」
「聞こえてるから!人の父親に失礼なこと言わないでくれる!?」
「てことはアイツのあの話し方は母親似ってことか?」
「会ったことない母さんのこと決めつけるの辞めてくれる!?」
隣で父さんが吹き出した。
◆
「うぇ」
荷台から降りて早々に地面に蹲る二人に桶を手渡す。途中からずっと吐きそうな顔してたのに良く耐えたな。海では吐き放題だったけど流石に陸では耐えたのだろう。
「この方達は馬車に乗ったことはないのか?」
「普段もっと良い馬車に乗ってるだけだよ。ぼったくるなら銀髪の方が狙い目」
「そんなことしないが!?」
父さんが二人の背中を恐る恐るとさすった。二人は呻きながらお礼を言い、思う存分に胃の中の物を吐き出した。父は魔法使いにお礼を言われたことに驚き
「この子にこんなに良いお友達ができるなんて」
と目頭を抑えた。あまりにも失礼すぎる。
二人の車酔いが落ち着いてから僕の家へ招く。安いお茶を注ぎながら、僕は単刀直入に切り出した。二人の紹介と、ハーディ先輩の境遇を。
「父さん。ハーディ先輩をこの村に住まわせて欲しい」
父は驚いたように目を開き、静かに首を振った。
「ハーディさんは貴族だったんだろう?貴族の魔法使いにはこの村は相応しくない」
「はぐらかさないで。父さんが嫌かどうかを聞いてるの」
僕は真っ直ぐに父を見た。
「……正直、そんなすぐに“はい”とは言えない。魔法界を追放された犯罪者には……何度も苦汁を飲まされた。ロイドが騙されている可能性だってある」
「ハーディ先輩はっ」
そんなことをしないと否定しても、きっと父は信じられないだろう。僕は拳を握りしめた。世間から見たらハーディ先輩は犯罪者だ。魔法界を、期間限定とはいえ追放された犯罪者。そんな存在を二つ返事で受け入れることは難しい。特に、魔法使いに苦渋を味わされた魔力無には。
「ロイドくん」
ハーディ先輩がそっと僕の手を撫でた。
「ボクがこの村に絶対危害を加えないと誓います。何故追放されたのか……何故実家を頼らないのか……言えないことは、多いのですが」
禁術を使用したこと。呪いの少女のこと。僕を含め、口止めされていることは多い。家庭環境は……言えないだろう。
ハーディ先輩の言葉に父は苦い顔をし、ぽんと父は僕の頭を撫でた。
「村の外れに廃れた教会があっただろう。あそこを修理する。住居くらいなら提供はできる」
それは、父からの最大限の譲歩だった。
「ありがとうございます!」
「ロイド、ついてきなさい。整備しなきゃいけないことは多い。ドラクナも呼ばないと……」
「兄さんは今加工場?」
父の後を追いかけるために立ち上がり、僕は二人に振り返った。
「ごめんちょっと待ってて!適当にくつろいででいいから!」
「家主不在でくつろげるか!」
「手伝ってくれても良いんだよ?」
「それなら……」
ハーディ先輩は立ち上がった。ヴィンセントも一人残されるくらいなら、と立ち上がったのだった。
◆
ロイドとその父親が村外れの教会の中へ入っている間、外で待っていたヴィンセントはハーディに話しかけた。
「コンセル……先輩」
「ハーディでいいよ。ボクとクラウドくんは学園でもあまり関わりが無かったからね」
「じゃぁ、ハーディ」
「本当に物怖じしないね、君。ボクが濡れ衣着せた時もそうだったけれど」
「あぁ、その件で聞きたいことがあって。なんで俺にわざわざ冤罪ふっかけたんだ?一連の事件の隠蔽工作をしたハーディらしからぬ杜撰な冤罪だった」
ハーディはふ、と笑みを浮かべた。
「ボクが君を知らなかったから、かな」
ヴィンセントは腑に落ちない顔をしてハーディを見た。
「世間一般の生き物はね、冤罪をかけられたらそれを解く為に足掻くんだ。ボクはどうしても君に、ロイドくんと一緒に地下十三層に来て欲しかった」
そんなことしなくても君は来たんだろうけどね。ハーディは小さな声で呟いた。
「彼女の呪いは君にしか解けなかった。ディモルフォセカの子供である、君にしか」
「俺一人じゃ解けなかったぞ」
「だろうね。だから、君とロイドくんには確実に来て欲しかったんだよ。彼女を、浄化する為に」
“生涯閉じ込める呪い”はヴィンセントの魔力が無ければ解けなかった。そして、解くためにはロイドの頭の回転も必要だった。だからあえてハーディはヴィンセントも巻き込んだのだ。少女を解呪するために。
「クラウドくん。彼女は確かに“悪”だったけれど、ボクにとってはただ一人の……理解者だったんだよ」
ヴィンセントには上手く理解はできなかったが、ハーディが大事な親友を亡くしたのだと云うことはよくわかった。
教会の扉からひょっこり顔を出したロイドは身体中煤まみれだった。
「二人共手伝って!すごい埃まみれだった!」
「もちろんだよ」
「わかりやすい見た目だな」
◆
物置からシーツを引っ張り出し、加工場から呼ばれた兄ドラクナはせっせと洗濯する。その背にハーディ先輩は声をかけた。
「ボクも手伝っても良い?」
洗濯をする兄とハーディ先輩を僕はヴィンセントと共に眺めた。
「お前も好き者だよな。合成獣といい、アウフランダーのことといい、ハーディのこと嫌いになってもおかしくないだろ」
「呼び捨て?仮にも先輩に失礼だよ。それを言うなら君でしょ。濡れ衣着せられて命まで狙われてさ」
僕らが助命の嘆願書を出しているのを見て、減刑の嘆願書を出し、自ら証言台に立ったヴィンセントを思い出す。
「俺はハーディを信じたんじゃない。ロイドを信じたんだ。お兄さんとかもそうだろ。みんな様子見って感じがする」
「鋭いね」
事実、兄も父も、ハーディ先輩にいくつか仕事を振って行くだろう。これから信頼を築くのはハーディ先輩の行動次第だ。でもそれはあまり心配していない。
「四年間学園首席の座を守り抜いた男だよ。ハーディ先輩は。時間はかかるだろうけどちゃんと信頼を勝ち取るよ」
ヴィンセントは「お前が言うならそうなんだろうな」と目を細めた。兄とハーディ先輩は僕らの視線に気付いたのか振り返って手を振った。
「あの穏やかな家族に囲まれてどうしてこんなに捻くれたんだ?」
「こんなに優しい僕のこと言ってる?」
「は?どこが?」
川辺でハーディ先輩と兄が何かを話している。時折笑い声と僕の名前が聞こえることから学園生活のことでも話しているのだろう。
◇
なんとか日が沈む前に片付いてよかった。
お風呂から上がった僕は髪を乾かすのもそこそこに良い匂いが漂う台所に向かった。母が忙しなく動き、晩御飯の準備をしていた。いつもより三人も増えたのだ。お祭りでしか使わないような大鍋が火にかけられている。
「お疲れ様。もう、事前に言ってくれればもっと用意出来たのに」
「思い立ったが吉日、って黄の国では言うらしいよ」
「なぁに。それ」
母が楽しそうに笑った。僕は母を手伝い、居間の机を拭いてお皿とナイフやフォークを並べていく。お風呂から上がった兄も人数分スープをよそった。
今はヴィンセントかハーディ先輩がお風呂に入っているだろう。
「あ!僕のは具をたくさん入れて!ヴィンセントのは少なくて良いから」
「お前のお客様だろ!」
「ヴィンセントは魚好きじゃ無いからいーの!」
「ふふ、いっぱい作ったから均等にわけなさいな」
母のはしゃいだ声色に僕は振り返った。僕と兄が居るのが心底嬉しい、と言った声だ。
「……ねぇ。僕が二度と帰ってこないと思ってた?」
兄も母も、僕の言葉に口を結んだ。図星を突かれたとばかりの顔だ。
そうじゃなきゃあの日、さよならなんて言わなかったはずだ。あの日、鞄に大量の金貨だって入れなかったはずだ。この場に居ない父も、きっと僕がもうリトルバーグに戻らないと思っていたのだろう。
「僕は魔法使いで魔力無じゃない。だから魔法界でしか生きられないって学園で言われたんだ」
「……そうだな。それが正しい」
「魔力無って蔑称も山ほど聞いた」
母はそっと目を伏せた。
「僕の夢、覚えてる?」
「……ああ。魔力無に基本的生物権を与える。だったか。……ロイド。何度も言うけど、お前は俺たちを忘れて、」
「兄さん!」
僕は兄の言葉を遮った。続きを言わせなかった。
「兄さん。今日来ているヴィンセントは、僕の夢を否定しなかった。笑いも馬鹿にもしなかった。僕の夢を否定する権利は僕にしかないって言い切ったんだ。……ねぇ、兄さん。母さん。僕、本当は……“リトルバーグを忘れて生きろ”なんて、言わないで欲しかったんだ。僕の夢は、家族でも……家族だからこそ、魔力無の村で生きるからこそ、僕の夢を、否定しないで欲しかった。応援して欲しかった!」
母も兄も、何も話さない。ただじっと僕を見ていた。焼かれたパンの良い香りが漂った。
僕はふ、と笑みを浮かべる。
「……聞いてほしい話がいっぱいあるんだ。友達ができたこと、親友ができたこと。ルヴィやルートと再会したこと、部活のこと。一晩じゃ足りないくらい、沢山あるんだ。……何度だって僕、帰ってくるから。リトルバーグに」
ぎぃ、と居間の扉が開く音が聞こえた。ヴィンセントかハーディ先輩か、お風呂から上がったのだ。
「忘れないで。僕はリトルバーグが大好きだってこと」
兄がよそってくれたスープをお盆に乗せ、僕は居間のテーブルに運ぶ。お風呂上がりのハーディ先輩とヴィンセントが髪を拭きながら椅子に座っていた。
「母さんのご飯は美味しいから期待して良いよ」
「匂いからうまそうだ」
「何か手伝った方がいい?」
「ちなみに手伝ったことは?」
ハーディ先輩は「無いね……」と答えた。腐っても貴族。だろうと思った。ヴィンセントがあるのは知っている。白の国でリリアムさんの手伝いをしていたからだ。
「ただいま!ロイド喜べ!イカが手に入った!」
「やったぁ!」
父が帰ってきたのはその時だ。手にまだ動くイカを掴んでニコニコと扉を開けた。イカを見て顔を引き攣らせたヴィンセントたちは見なかったことにする。
「母さんに姿焼きを作ってもらうからな!」
「楽しみ!」
「ロイド、父さん。内陸の生物はタコやイカが苦手だよ。ほら、二人の顔を見てごらんよ」
お盆に焼きたてのパンを乗せた兄が台所から出てくる。少し目が赤い。僕はそれに気付かないふりをした。
「鶏は焼けた?」
「あと少しだ。……ヴィンセントくん、ハーディさん、魚貝類だけじゃないから安心してね」
兄の言葉に安堵の息を漏らした二人を見逃さなかった。
◇
翌朝。魔法箱を家族にプレゼントし、使い方を説明する。装飾も何もなく、魔力石だって紐で括り付けられた無骨な箱だが家族は喜んでくれた。
ヴィンセントがじっと見ていたのに気付き「ほしい?」と声をかけると「ほしい」と帰ってきた。素直でよろしい。今回無理やり付き合わせちゃったし、学園に戻ったら作って贈ろう。学園に戻るのはヴィンセントと僕。ハーディ先輩は今日からリトルバーグの暮らしが始まる。
簡単な別れの挨拶を済ませ、馬車の荷台に足をかけた時、ハーディ先輩が僕を呼び止めた。
「ロイドくん。君の夢を聞いてもいいかな」
ハーディ先輩が穏やかに笑った。僕はまっすぐとハーディ先輩を見て言った。
「第一魔導師になって、魔力無に基本的生物権を与えること!」
ハーディ先輩は目を細めて「君なら出来るよ」と笑った。
「ボクも協力する。追放されたボクが力になれることは少ないだろうけど……。こんなに優しい生物達が差別される世界は間違ってると思うんだ。だから、協力させて」
「純魔法使いの先輩に、そう言って貰えただけで嬉しいです」
先に馬車に乗っていたヴィンセントも顔を出し、馬車に乗り込む僕に手を貸して言った。
「ロイドならできる気がする。僅かだが俺も協力する」
「一番初めに背中を押してくれたのは君だよ。ヴィンセント。君が僕の夢を否定しないでくれたから、僕はハーディ先輩を、君をこの村に連れて来れたんだ」
僅かじゃない。十分、君は協力してくれた。
「ありがとう」
僕は涙が滲んだ目を拭い、二人の顔を見た。そして見送りに来てくれた村のみんなを。
「待ってて。何年、何十年かかろうと僕は夢を叶えるから」
「待ってるよ」
返事をしたのは兄だ。潤んだ目で、彼は言った。
「待ってる。だから、辛くなったら帰って来い。ここはロイドの故郷だから」
その言葉は、僕が本当に欲しかった言葉だ。僕は大きく頷いた。
少しずつ遠ざかる村を眺めながら、兄の言葉を噛み締めた。
僕の故郷。そうだ。リトルバーグは僕の故郷だ。魔力無の村とかそんなの関係ない。
魔力無の差別は根強い。でも、ハーディ先輩が、ヴィンセントが。僕の親友が。偏見をなくしてくれた。これがきっと、魔力無に基本的生物権を与えるための第一歩なのだ。
第一魔導師を目指すことが最重要だけれど、この小さな変化が世界を変えてくれる。そんな気がしている。
——これは、僕が、みんなが、夢を叶えるための物語だ。
MonoQlog 第一章 完




